7話 事実だから
「おお……! ついにここに立つ日が来たのか……」
ついに迎えたライブフェス当日、送迎のマイクロバスから降りた|祝詞斗は会場を目の当たりにして思わずつぶやいた。
「おっきいでしょー! ……まあ、お客さんはいないんだけどさ」
「え、いないんですか?!」
「そうでござるよ。この規模で観客を集めるとなると、非常時の安全が担保できないでござるからな。その代わり、5分のディレイ全国同時配信があるでござる。映画館や配信サイト、パブリックビューイングで大々的に放映されるでござる!」
「全国……!? ちょっと、緊張してきた……」
祝詞斗の首には「『Midnight Phoneix』同行STAFF」と書かれたネームホルダーが下げられ、服装もかなり地味なものとなっている。まだ加入したという情報は秘匿されているため、同行スタッフというていで会場入りすることになったのだ。
「昔はお客さんを入れてたみたいなんだけど、地球外生命体の襲撃あったらしくてさ、以降この形らしい」
「あれは……怪我人が出なかったのが不幸中の幸いだったな」
駐車場は祝詞斗らの他にも多くのバスやトラックが停まり、楽器の搬入やアーティストの入場手続きが行われていた。
「手続きが終わったらとりあえず控室、ボクたちは『オオトリ』だからヒコーカイの直前リハーサルも最後! シュート君はあんま目立たないように!」
「はい!」
「では手続きに向かうでござる!」
目立たないように、目立たないように、と心の中で繰り返し、祝詞斗も4人の後に続いた。
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「流れは大体わかった?」
「はい、オレは途中まで袖で待機……|麟さんのMCパートに入ったら移動、スタッフさんの合図で登場ですね!」
「カンペキ! あとはジコショーカイして、2曲歌って、新曲のデジタルリリースの告知してもう一曲歌って、おしまい! オマエは初めてだから、センパイがサポートしてあげるから、安心して!」
「何かあったら俺達が何とかする。緊張してるかもしれないけど、ライブを楽しんでくれ!」
まだ始まってすらいないのに、鼓動がかなりうるさくなっていた祝詞斗は、|三依と麟の優しい言葉と、頷く元康と晶理をみて、少し緊張がほぐれた気がした。
「ああそうだ、もうすぐ報道陣の入場が始まる。いくら変装してしているといえども見つからないに越したことはないから……お手洗いは今のうちに済ませておいてほしい」
「は、はい、そうします」
腕時計を見た|晶理のアドバイスに素直に従い、祝詞斗は部屋から少し離れたトイレに行くことにした。
「えっと、帰りは右、だったっけ……あれ」
お手洗いを済ませ、慣れない廊下を歩く祝詞斗は、前方に一人の男性がいることに気が付いた。あちらのほうも気が付いたのか、祝詞斗のほうに笑みを浮かべながら近づいた。
「お、おはようございます!」
「おはようございます、『andante』の崎本です。今日はよろしくお願いします……見慣れない顔ですが、新人の方ですか?」
「あ、はい、まあ……」
自分はこの会場の常連だと言わんばかりの態度を取る、確か出演者一覧にいたこの男性は、なんと返したらよいのかと思案する祝詞斗の首の名札を一瞥し、蔑むような笑みを浮かべた。
「ああ……『Midnight Phoneix』の……羨ましいですね、『政府のお気に入り』はすぐに人手を用意してもらえるなんて」
「……はい?」
予期せぬ言葉に、祝詞斗は思わず声が裏返ってしまった。
「ご存じないのですか? まあ新人ですから無理はないですね。あいつらの人気に見えるのは、政府がゴリ押してるだけですよ。うわべだけの、空っぽな、偽物の人気」
「……!」
「同じエンタメ部門所属だと言うのに、仕事を割り振るお偉いさん方は私たちには見向きもしない。一体政府のえこひいきがなければCDや雑誌はどれだけ売れるのやら……そうは思いませんか?」
胸がちくりと痛むことを感じながら、そんな言い方ないじゃないですか、と言い返そうとしたとき、祝詞斗の前にすっと手が伸びた。
「お久しぶりです、崎本さん。私たちのスタッフに何か御用が?」
「晶理さん……!」
「ちっ……」
その手は晶理だった。後ろ姿からは表情は読み取れないが、恐らくいつものように優しい笑みを浮かべているのだろう。頼れる救世主の登場に祝詞斗はほっと胸をなでおろした。
「ふん、相変わらずよくわからないお方だ。羽振りはいかがですか? 」
「彼は最近入った新人でね、なにか粗相があったのなら詫びよう。開演時間も近い、これで失礼するよ」
「おい、返事になっていないぞ!……本当になんなんだあいつは……」
会話をする気がないのか、本人は会話をしているつもりなのか、どちらにしろ全くかみ合わないキャッチボールを終え、晶理は祝詞斗を連れて引き上げた。
「帰りが遅いから迷っているのではないかと思って来てみたのだが、話をしていたのか」
「あの……言い返さなくていいんですか? 」
「うん? 彼らからはそう見えているのだから、何を言っても無駄だろう? それに……私たちがよく言えば政府広報、悪く言うと、プロパガンダに利用されていることは確かだ」
それに、厳密に言うと私たちは防衛線本部からの応援という形で派遣されているだけだからね、と晶理は諦めの混じった表情で笑った。
「お手洗いは済んだかい?」
「はい」
「では戻ろう。もうすぐオープニングステージが始まる」
そうだ、ついに自分の初舞台が始まるのだ。祝詞斗は気持ちを切り替え、ライブに集中することにした。




