33話 目覚めた君と目覚めないあなた
「あ、シュート君起きた! ショーリさん、シュート君起きました!」
ごつごつとした地面、何かを弾き返す金属の高い音、聞き覚えのある先輩の声に、祝詞斗はゆっくりと目を開ける。
「あ、あれ……? ここは……?」
「やっと起きてくれた……! ほら、寝ぼけてないで、早くたって、後ろに下がって!」
「起きた?…………あ、もしかして、ここ、現実ですか? 」
「そうだよ! もう!早くいくよ!」
寝起き出回らない頭で状況を理解しようとしている祝詞斗を引っ張り、近くの瓦礫の後ろに避難させる三依。見ると、祝詞斗を夢世界へと取り込んだ地球外生命体が目にもとまらぬ速さで斬撃を繰り出す元康と激しい攻防を繰り広げていた。
「やっぱり元康さんはロボットだから夢なんて見なかったんだ……というか、三依さんは大丈夫だったんですか?」
「そんなワケないでしょ、ボクもさっき起きたとこ。……というか、オマエが遅すぎるの!!!! ボクがどんだけ心配したと思ってるわけ?!」
動体視力には一定の自信がある自分をもってしても認識不能な超人バトルに感嘆していると、突然三依が彼の耳元で――身長の都合で悪気はないのだが――怒ったようにまくし立てた。
「ひっ!? あの、み、耳が……」
「うるさい!! オマエがいつまでも寝てるから悪いんでしょ! !…………2人とも全然起きなくて、怖かったんだから」
ガンガンと響く声に慌てて彼から少し距離をとる。ふと見上げると、少し明るかった空も今では灰色に包まれていた。小さな犬が吠えているように叫ぶ三依の赤い瞳には、怒りではなく焦ったような不安げな色が宿っていた。
「えっと……心配かけて、ごめん、なさい?」
「ふん……もー二度ごめんだからね!」
きっと彼なりに心配し、自分のことを思って出た言葉なのだろう。一応は納得(?) してくれた彼にほっとしていたのも束の間、先ほどの三依に何か引っかかり、慌てて彼に尋ねた。
「あの、さっき2人ともって言いましたよね。もしかして、まだ、晶理さんと麟さんって……」
「……私は大丈夫だ。ただ、麟がまだ目覚めない」
彼に答えるように少し右から声が聞こえる。地球外生命体の攻撃に警戒しながらそちらに向かうと、そこには死んだような生気のない顔で目を閉じている麟と、その麟を棺のように編んだ赤い糸で守りつつ、片膝をつき残りの糸で地球外生命体の黒い触手をけん制する晶理がいた。
「麟さんが……?」
「ああ。幸い元康の定期バイタルチェックの結果はしっかりしているから、眠っているだけということは確かだ。ただ……」
祝詞斗が目覚めるまでかなりの時間がたっていたのか、晶理自身もかなり疲弊しているのか、わずかに汗を浮かべる晶理が見上げた先には禍々しい唄い手。
「君たちは目を覚ますことができたが、麟と……残りの兵士が覚めていない以上、奴の『異常な音波によって対象者を年眠らせる』という行為のメカニズムがわかっていない。この状態で奴を倒してしまうと、最悪の場合二度と目覚めないということもあり得る。倒すこと自体は容易なのだが……」
「だからウカツに倒せないんだよねー。本当ならすぐにぱぱーっとやっつけちゃいたいんだけど」
「じゃあ、ずっと耐えてたってことですか? オレと、麟さんと、三依さんを守りながら?」
最強と言っても過言ではない晶理にも疲弊の色が浮かぶわけである。地球外生命体と刃を交えている元康も、人間であればもはや動けないほどの疲労が溜まっていたことだろう。
「気にしなくていい。隊長として当然のことだ。それよりも祝詞斗君、一つ聞きたいことがある」
「オレに、答えられることであれば」
「では……三依君にも聞いたのだが、君はどうやって奴の夢から覚めた? ああ、勿論君のプライバシーに関わる部分は話さなくても構わない」
「オレは……」
時折飛びかかってくる瓦礫や触手をはじきながら、祝詞斗は自分が夢のなかで体験したことを掻い摘んで伝えた。
「……なるほど。大方三依君と似たような突破法だな。ということは、無理やり目覚めさせる以外の方法となると……」
祝詞斗の話を聞いた晶理はありがとう、小さく呟くと、未だ眠り続ける麟に視線を落とした。
「麟が自分で、夢の中に現れる地球外生命体に打ち勝たなければならない、ということか」
「持久戦なら問題ないでござる! 三依殿と、祝詞斗殿にも加勢してもらえるとなれば万人力でござる!……ただ、麟殿の方が心配でござるな」
充電もばっちりだと言わんばかりに一層攻勢を強める元康。しかし彼の瞳に映る麟のバイタルデータは、数時間前と全く変わっていなかった。
「いや、リンさんなら大丈夫でしょ! ボクらと違って強いし! 落ち込んでるとこ見たことないもん!」
少しだけ流れる重苦しい空気を振り払うように、三依が明るい声で言う。
「そ、そうですよ! オレも、麟さんを信じます」
「……そうか。なら、私たちはできることをしよう」
2人の言葉に晶理は立ち上がり、指示を出す。
「私が前に出る。君達はここで、麟を護衛してほしい」
「「了解!」」
「元康、バイタルデータの送り先を……祝詞斗に変更してくれ。何かあったらすぐに伝えてほしい」
「はい!」
三依は再び銃を構え、祝詞斗は急いそと携帯を取り出す。二人の状態を確認した後、晶理は普段使うことの少ない赤い拵の脇差を取り出しながら元康の元へ音もなく向かった。
「バイタルデータ異常なし…………麟さん、頑張ってください……!」
祝詞斗は瞳を閉じたままの麟の左手をそっと取り、小さく呟いた。




