変化、そして回想
「あいたたた……まだまだ足がガクガクするよ…」
「ははは、軟弱だな!!………俺もまだまだ痛むけどさ…」
二人ともまだヨタヨタしながら帰宅している。たまたま二人とも途中まで同じ方向なので別れるときまで並んで歩いている。真っ赤な夕焼けが、今日だけは今までと違うように感じた。
「あ、そういえば歩、僕の連絡先教えてなかったし、はい」
竜はそう言うと空中ディスプレイを歩の方にスライドさせた。なので歩も腕時計を翳すと
“リュウ さんを登録しました”
とアナウンスされた。
「おっサンキュな。俺コッチだから、またな」
「うん、またね」
そういって別れると鼻歌を歌いながら家に向かうのだった。
家に帰ると今日は珍しく母が帰宅してきていた。
「あっ、お帰り!」
「ただいま」
「今晩御飯作ってるから先に風呂に入ってなさい」
「うーっす」
今日は汗をかきまくったので特に風呂に入りたかったので母の言うとおり先に入る事にした。部屋に入ると、机の上には夕日を反射して輝く写真立てが目についた。そしてそれを手に取り、呟くように
「……姉さん、俺、今日友達できたんだ。そいつも俺みたいな境遇でさ。玲以外に出来た初めての友達さ。今は俺もそいつも全く魔法が使えないような奴だけど、いつか姉さんを越せるくらいの魔法が使えるようになってやるからさ、見ててくれよな…」
風呂にはシャワーだけをさっと浴びると髪の毛を乾かさずにリビングに来た。
「あ、やっと出てきた。もう出来てるから先食べてて。お母さんはお風呂入ってくるから」
そう言い残すと風呂のある方に向かっていった。勿論、母の居なくなったリビングに残るのは歩のみ。テレビの音だけが響く、この2人だけが住む家には相応しくないほどの広さなので若干虚しさを覚えるが、まあそれも慣れたものだ。
夕飯は大好物のオムライスが作ってあって、今日は竜と全力で走り回ったせいかいつもの二倍以上に美味く感じた。
夕飯を食べ終わった後は部屋に戻ると、早速空中ディスプレイを出して小説を─────と思ったが、今日交した約束を思い出した。
──絶対にあいつらを見返してやろうぜ──
ディスプレイに表示された小説の画面のウィンドウを閉じると教科書を表示させた。今日習った場所を一通り通ってわからない場所を埋めていこう、そう決心すると書きかけのノートのウィンドウを表示させ、タッチペンを握ると全て自分が分かるように書き直しはじめた。
「っはぁぁぁあ終わったァァァ…」
ふぅと大きなため息をつき、時間を確認すると既に24時を上回っていた。なのでそそくさとベットに潜ると目を閉じた。
今までここまで真面目に復習をした事が無かったので嫌に疲れて、そして脳が冴えている。目を閉じたがなかなか眠れないだろうな、と思っていたがそんな事は無く一分と持たずに意識を手放した。
「ほ〜ら、歩、玲ちゃんにそんな事したら駄目でしょ?」
「今日は水と光の魔法を使って綺麗な魔法を見せてあげるからね!」
目の前にはキラキラと虹色に輝く球体が出来上がると、それが空に届かんばかりに浮き上がり弾けた。その瞬間、辺りには満点の星空が広がる。
………やっぱ姉さん凄いなぁ………
「はっはっは、お前はやっぱ俺に似て破天荒な場所が有るんだな!」
「がっはっは!!早く大人になって一緒に酒を飲みてぇな!」
そういってがしがしと頭を撫でてくる。
………痛いよ父さん…
そんなキラキラとした光景に思わず手を伸ばす。しかし手が届く寸前にぼやけ、掠れる。
「だっ、誰だ!!」
「やめて!歩には手を出さないでっ!!!!」
「このっ、歩を離せぇぇえええ!!!」
父は俺を抱えている男に向かって、その丸太のように太い拳を突き出す。しかし男はにやっと笑うと何やら呟いた瞬間、どこからか現れた真っ赤な剣を振りぬいた。そのすぐ直後に視界が真っ赤に染まる。
「はやくはなせぇぇえええええ!!!!」
姉さんの甲高い叫び声が響く。その瞬間、氷の刃が空を覆い尽くさんばかりに出現する。男はそれに焦り、剣をやり投げのように投げる。それは爪楊枝を豆腐に刺すかのように姉さんの心臓に刺さる。しかし魔法発動の方が一歩早かったようでもう魔法は止まらない。氷の刃達が男に向かって全て突き刺さる──
また光景が霞むと今度は真っ暗な闇の中に父さんと姉さんが立っていた。ふたりは柔らかく微笑むと手を振ってきた。俺は嬉しくてそっちに走っていこうとするがいくら走っても距離は縮まらない。二人はそんな俺を見るともう一度微笑み、後ろに振り返り、ゆっくりと歩いて行く。
───待って───ねぇ!待ってってば!!────父さん!!───姉さん!!!────
「……俺を……置いて……いかな……」
意識が戻ってくる。気づけばもう6時になっていた。そして起き上がると、目がすーすーする事に気づいた。手で触れると濡れていた。
「…………また見たのか……」
あの二人に今のこんな俺の姿を胸を張って見せられるのか?否、断じて否だ。
あの二人に誇れるくらいの人間に成ってやる。
そう心に再決心すると、ベッドから出るのだった。




