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恋が始まらない《本家》  作者: 北斗白
春〜Spring〜
4/37

4話~星屑と本音

「恋が始まらない」は毎週水曜日21時更新です。

 はぁ、とため息をついて、純たちのいる大部屋のドアを開ける。


 「お、案外早かったね」


 見ると、純と一緒にババ抜きをしていたはずの他二名が、近くに置いた各々のリュックを枕にしながら、すやすやと心地良さそうに寝息を立てていた。

 大部屋に存在していた他の小さな集落も、何人かの生徒は寄り添って眠りについていた。純はと言うと、どこから出してきたのか分からないテーブルを使って、一人でノートに細かい文字を書いていた。


 「何書いてるの、勉強?」

 「この僕が勉強するとでも思うか? 近々開催されるイベントの情報をまとめてたんだよ。冬馬も一緒に行く?」

 「んー暇だったら連れて行ってよ」


 細かい文字がびっしりと埋め込まれたノートを覗くと、「スプリングフェスタ」と書かれた題名が目に映った。恐らく純はこのイベントに参加するつもりなのだろう。別に興味はなくもないが、純が連れて行ってくれるのなら友人としてありがたく同行させてもらおうと思った。


 「はい」

 「あ、ありがとう」


 純は大部屋の近くの自販機で買ってきた、と言って冬馬に温かいココアを渡してくれた。

 こういう時、純は凄く優しい奴で、性格だけなら彼女はいてもおかしくないんだよなとつくづく思う。

 この間テレビ番組で、あなたの好きなタイプの男性はどんな人かというインタビューをしていたが、テレビに出ていた多くの女性は性格が優しい人が好きだと答えていた。もしこの結果が本当なのであれば、松田純という人物はモテモテなはずである。ましてや彼女がいないなんて有り得ないことだ。

 

 「もうみんな寝ちゃったか」

 「長時間勉強して好きなだけ騒いでいれば自然と眠たくなるよね。僕も少し眠いもん」

 「そろそろ俺たちも寝る?」

 「寝っ転がりながら少し話そうよ」


 明らかに眠いのを我慢しているのが冬馬にはバレバレだが、少しだけ退屈しのぎに純の話に付き合ってあげることにした。


 「冬馬ってこの学校に入学した頃、あまり元気なかったよね」

 「あーちょっと中学時代に人間関係でトラウマがあって、人と話すのが苦手になっちゃったんだ」

 

 思えば、純に自分の過去を打ち明けたことがなかったような気がする。一年も長く一緒にいたのに、純はこの話題に触れることは一切なかった。自分に気を使ってくれていたのであろうか。

 もう純は自分の中で一番親しい友だ。それに過去の話を聞いて態度を変えるような人物ではないと重々承知している。話すことに抵抗はないが、隠しておくほどの事ではないのではないか。


 「あのさ、純。俺実は……」

 「……ぐぅ、……ぐぅ」


 見事なタイミングで純はいびきをかいて寝てしまっていた。ちょっと前に少しだけ身構えた自分が馬鹿らしく見える。

 ふぅ、と溜め息をついた冬馬は、純の寝返りで潰されないように、窓際に枕代わりのリュックとふすまの中から持ってきた掛け布団を敷いて寝転がった。

 勉強合宿一日目、結局数学のベクトルの問題は分からないままだが、普段話さないような意外な人達とも交流を深める事ができて良かった。やはり見た目より中身が一番大事ということが身に染みて感じる事ができた。

 斜め下げのブラインドカーテンの隙間から見える夜空には、数えきれないほどの星屑が散らばっていた。山岳地帯に近い場所のせいだからか、星の一粒一粒が明るくはっきりと見える。

 冬馬は無数に瞬く星屑の中から星座を目でなぞっていくうちに、いつの間にか眠りについていた。 




 「これで今日の講習は以上となります。夜ご飯を食べたら玄関前に集合してください」


 講師の先生が言うと、ガタガタという椅子を引く音と共に生徒たちがぞろぞろと席を立って移動始める。

 

 「冬馬、今日の肝試し一緒に行こうね」

 

 冬馬は「うん」と返事をすると、先程の講習の最後に貰った、今日の夜に行われる肝試しについてのパンフレットに視線を移した。

 午後八時開始予定でペアは自由。参加、不参加も自由と書いてあり、去年行われた肝試しに参加した先輩たちの楽しそうな写真が貼らされてある。

 コースは合宿所から山の方まで進んで行き、橋を渡ったところで別の道へ折り返して帰ってくるという至ってシンプルな道になっている。

 思うほど距離は長くないコースなので、純と一緒に歩いていれば退屈もしなくて済むのと、この二日間勉強ばっかりしていたので息抜きには丁度いいイベントだろう。


 「さあ、ご飯食べに行こ」


 隣の席の純が机の上の荷物をリュックに詰め込んでいると、近くに座る女子たちが何やら肝試しの事について話しているのが冬馬の耳に入ってきた。


 「香織ごめん! うち笹森君と肝試しいける事になったから!」

 「ううん、いいよ。今回がチャンスなんだから頑張って!」


 どうやら花園といつも一緒にいる望月が、意中の男性とペアを組んで肝試しを一緒に回るらしい。それで花園は取り残されたという事だ。

 まあスクールカーストの頂点に立ち、男女の支持も厚い花園なら、望月じゃなくてもすぐにペアが見つかるだろう。こういう時に友達が多いのは譲れない利点だと思う。

 それにしても望月は好きな人がいるというのに花園にはいないのだろうか。昨日の大部屋でちらほらと男子たちの声が聞こえていたが、既に恋人がいる者たちは一緒に行く予定を立てていたり、片思いを抱いている者は誘ってみようとかなり意気込んでいた。

 その生徒たちの中に、一か八かの賭けに出て花園を誘いたいという男子もいたが、結局のところ彼女は誰と回るのだろうか。


 「……冬馬? どしたんシャーペン持ったまま動かなくなって」

 「あ……いや、ちょっと考え事をしていただけだよ」


 何故かは知らないが、以前まで拒絶していた花園の事を考えているという現象に陥っていた。これが俗に言うリア充に対しての嫉妬なのであろうか。でも純と一緒にいたとしても楽しいことは間違いない。冬馬は勉強した記憶が頭から飛び出さない程度に楽しんでおこうと思った。


お読みくださってありがとうございます。読者の皆様、本日十月十日は私の誕生日でございます。

読者様からの誕生日プレゼントとして、この作品にブクマを付けて下さると嬉しいです。すいません出しゃばりすぎました。


北斗白のTwitterはこちら→@hokutoshiro1010

お知らせなどは活動報告をご覧ください。

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