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恋が始まらない《本家》  作者: 北斗白
春〜Spring〜
5/37

5話~偶然と偶然

「恋が始まらない」は毎週水曜日21時更新です。

 まだ冷たさが残る春の夜風が肌を襲い、道の先が真っ暗で何も見えなくなっているのが余計に怖さを引き立てる。

 周りのペアを見てみると、すでに男子の懐に手を回したり、男子同士が抱き合ってふざけたりしている生徒が何人もいた。

 ここで、いつもは楽観的な思考で冬馬に面白い事を言ってくれる純が、玄関を出てから珍しく一言も口を開かない事に気づく。


 「ん、純どした」

 「いやいやいやいや、な、何でもないよぉ!」

 「……怖いの?」

 「だ、だ、誰がそんなこと言ったんだよ! 怖くなんてないし!」


 純は慌てた様子で、大袈裟に首を横に振るが、根っからの正直者の彼はどうやら嘘をつくのが下手なようだ。

 いや、誰がどう捉えても嘘だと分かる純の態度に、呆れよりも好感がもてる。


 「純、ちょっとそっち向いて」


 何気なく冬馬が言うと、純は「えっ、えっ」と狼狽えながら、冬馬が指差した道の暗がりの方に腰を向ける。


 「……わっ!」

 「だぁーーー!!!」


 純の耳元で声を上げると、純はけたたましい悲鳴を上げて飛びあがり、着地と共にその場にしゃがみこんでしまった。

 冬馬と純の周りにいた生徒たちも、「うわ、びっくりした」と口々に言いながら肩を震わせていたが、すぐに「何してんだあいつ」と呆れて、再度恋人との二人だけの空間に戻っていった。


 「冬馬ひどいよぉ」

 「いや、怖くないって言ってたからさ、ごめん……ふふっ」


 アニメのキャラが作画崩壊したみたいな純の表情が脳裏から離れず、純に顔を見せないように緩まった口元を手で隠して思い出し笑いを繰り返す。

 純が立ち上がり、やがて冬馬が落ち着いてきたところで、周りの生徒が次々に移動を始めた。


 「では、今から肝試しを始めます。五分ごとにスタートするので、順番になって待っていてください」


 肝試し運営担当の先生が、メガホンを持って点呼を始める。


 「純、俺たちも行くぞ」

 「やっぱり行きたくないなぁ」

 「行くのやめる?」

 「……行く」


 まるで子供をあやしているような気持ちになり、「世話がかかるやつだな」と思いながらも、先程のリアクションは百点満点以上だったので、肝試しの途中で何か面白い事でも起こらないかなという期待を胸に秘めて生徒の列に滑り込んでいった。


 

 「肝試しって色々な要素を取り込めるから、ゲーム制作会社側にとっては好都合のイベントだよね」

 「そうなの?」


 結構時間が経って怖い雰囲気に慣れてきたのか、純はいつも通りのオタク知識を披露する純に戻っていた。

 そして冬馬は少し前から、純が言う「恋の王道パターン」について熱弁されていた。


 「例えば、意中の女性から急に抱きつかれる。とかっていうシチュエーションを肝試しには含む事ができるんだよ。実際に最近読んだ小説で、そんなことから恋が始まった物語があるんだ」


 純は二次元にしか興味がないと言っておきながら、しっかりと現実の恋にも重点を当てているらしい。


 「俺にはそんな相手いないからなー」

 「もしかしたら僕との恋が始まるかもね」

 「そんなのごめんだよ」


 そんな他愛もない話をしていると、前にいたペアがスタートし、遂に冬馬たちがスタートする番になった。


 「純、行くよ」

 「よぉーし、早いとこゴールして部屋に帰ってお菓子パーティだ!」

 

 完全に怖がっていた気持ちを振り払ったとみえる純を隣に、純は携帯のライトで足元を照らしながら、道の暗がりに向かって歩き始めた。


 歩き始めて十分くらいが経ち、服に感じていた違和感に無視できなくなった冬馬が、とうとうしびれを切らして口を開いた。


 「あの……純? 何で俺の服掴んでるの?」

 「あ……いや、ちょっと寒くて」

 「そか」


 少し集めの生地の服からでも純の指が震えているのが若干気になるが、冬馬はそんなに悪い気はしないのでそのまま進むことにした。

 会話がないまま形態のライトの明かりだけを頼りに進んでいると、段々靄が深くなってくると同時に中間地点の端が見えてきた。この橋を通過すればもう帰るだけだ。


 「純……、もう少しだから頑張っ……」


 その時、カサ、カサという音と共に、頭上を覆う木々から何か落ちるのを察知した。


 「う……うわぁーー!!」


 本日二度目となる甲高い叫び声と共に、とうとう恐怖に耐えきれなかったのか、純は普段の体育の授業でも見せない俊足で、冬馬を置いて橋の先の真っ暗な道へと走り去ってしまった。


 「……え」


 ぽかんとする冬馬を、冷たさを乗せる夜風が襲う。


 「俺……一人?」


 純が走り去っていったという事は、一人でこの夜道を歩いて行くか、引き返すしかないという事だ。

 今まで純が怖がっているのを見て、面白がりながら気分を誤魔化していたが、この真っ暗なコースを一人で歩くのは流石に少し身が縮む。

 だからといって今から戻るにしても、後ろから来るカップルと鉢合わせになるので、どちらも気まずい思いをしなければならない。


 「……しょうがないな、一人で行くしかないか」


 途方に暮れた気分になった冬馬だったが、意を決して進むことにし、それから橋を渡って五分ほど経った時だった。


 「……ずずっ、ずずっ」


 隣の草むらから、微かだが女の子がすすり泣く声が聞こえる。

 もともと冬馬は霊感がある訳でもなく、今まで霊なんて見たこともなかったし、心霊現象にも出くわしたことはなかった。ただ、今という現実ですすり泣く声が聞こえる。

 ホラー系の小説の中でしか想像したことがなかったが、現実に本当に霊が存在するのだろうか。

 冬馬の心の中で、怖さと好奇心の闘いが繰り広げられたが、結局生き残ったのは膨らみすぎた好奇心の塊だった。

 長草を掻き分けながら、冬馬は草むらの奥へと侵入していく。少しばかり進み、最後の長草を掻き分けた時に見たのは、想像していたものより遥かに思考を超越した影だった。


 「……花園」


 少し段になっている崖の下に倒れていたのは、冬馬が卒業まで関わる事がないと推測していた、この高校のスクールカーストの頂点に立つ美女、花園香織だった。


お読みくださってありがとうございます。とうとう物語が動き始まりそうですね! カクヨムの方でのコメントでは、BLなのではないかと言われてましたが、決してその路線ではないのでご安心ください。


北斗白のTwitterはこちら→@hokutoshiro1010

お知らせなどは活動報告をご覧ください。

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