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恋が始まらない《本家》  作者: 北斗白
秋〜Fall〜
35/37

35話~大親友

「恋が始まらない」は現在、月・水・土曜日の三日更新で21時更新です

 突然の意味不明な行動を目の当たりにした冬馬の頭上にクエスチョンマークが浮かび、脳内での情報の整理が追い付かず突っ立ったままになっていると、土下座の体勢を取ったままの井森を筆頭に口々に喋り始めた。

 

 「本当は球技大会が終わったら冬馬と沢山話したかったんだ。でも伊達たちに『てめぇらも余計な真似したらただじゃおかねぇぞ』って言われて……」

 「冬馬が言い掛かりを着せられて辛い目に遭っているのに、自分も虐めに遭うと思うと伊達たちに何も言い返せなかった」

 「それでクラスの中でも目立たないように過ごしていたけど、時間が経つにつれて冬馬を見るのが辛くなっていってずっと冬馬に謝れる機会を探してたんだ」


 純が夏に喫茶店で、Bチームのメンバーが「冬馬と関わって伊達に何をされるか分からない」と言っていたのはこの事だったのだろう。

 ただ冬馬の思っていた通り、井森を始めとした球技大会のチームメイトも自分の事で苦しい思いをしていたと思うと、心から申し訳なく思う半分、伊達に対しての怒りの感情が沸きあがってくる。

 冬馬がいつの間にか握っていた拳の神経に意識を近づけようとした時、一人だけ椅子に座っていた純が腰を上げて井森の隣に並んだ。


 「それで陰キャ組と陽キャ組に分かれる修学旅行の部屋割りの時に謝ろうってことで決めてたんだ。この機会なら伊達たちの目につく必要もないしね」

 「そうだったんだ……」


 まさか修学旅行の初日でこんなイベントが待っているなんて思ってもいなかった。ただ、冬馬はそのことに関しては全然気にしてはいないし、井森たちがこうして真正面から謝ってくれたおかげで、これからは心置きなく話す事が出来る。

 今まで自由に話せることが縛られていたので、気軽に話せるという普通では当たり前のことがこの上なく嬉しく感じる。


 「もういいから顔上げてよ」


 「ごめん」という言葉で、もう十分に気持ちが伝わった。だから土下座なんてせずに自分の言葉を聞いて欲しい。


 「皆に被害がなくて本当に良かった。今まで辛い思いをしてきたと思うけど、耐えてくれて正直にごめんって言ってくれてありがとうな。それだけで嬉しかったよ」

 「と、冬馬ぁー!」


 自分の誠実な思いを伝えると、球技大会の時にサッカーの試合でで得点を決めた時のように、チームメイトたちが冬馬に覆いかぶさってきた。

 

 (懐かしいな……)


 特別な感情を抱いたのも球技大会だったか、と脳裏をよぎったが目を向けないようにした。

 今は自分の元に戻って来てくれたかつての同朋たちとの喜びを心の内に焼き付けておこう。冬馬たちは部屋の中央に円を描いて座ると、純が大量に仕入れてきた菓子袋の山と今まで話せなかった話題を積み上げて、自由時間が終了するギリギリまで小さな宴会を満喫した。


 楽しい時間は意識しなくとも駆け足で過ぎていくようで、気が付いた時には自由時間終了の十時半に差し掛かっており、先ほどまで菓子を食べ漁っていたチームメイトたちは「また明日な」と言って冬馬と純の部屋から出て行ってしまった。

 少し前まで賑やかだったのが、いざ二人になって見ると静かな空気が部屋の中に充満して、良い思いをして純と一緒にいて楽しいはずなのに少し寂しい気持ちになる。


 「冬馬、僕楽しすぎて疲れちゃったな」

 「そっか、じゃあ明日も朝早いし横になるか」


 冬馬がそういう前に純はすでにベッドの中に潜り込んでいて「そうだね」と布団の中から鈍い声で返事をした。どうやら先ほど催された宴会で騒ぎ疲れて本体電源が切れかかっているらしい。

 まだ記憶に残っているが、二年生の初めの頃に行われた勉強合宿でも似たようなシチュエーションに遭ったような気がする。一つ鮮明に覚えているのが、純が寝かかっていた時に、自分が過去の話を打ち明けようとしたということだ。

 ……大したことでもないけど、この機会だから言っておくか。


 「純……実は俺、中学生の時に人殺しって呼ばれてたんだよね」

 「うん……て、えぇ!?」


 口に出したことが強烈だったのか、純は被っていた布団を投げ飛ばすと、冬馬の方を見てベッドの上に座った。


 「俺、中学生の時にも虐められてて、それが理由で妹にもちょっかいだされた時に我慢が出来なくなって、俺を虐めてた人達を文字の通り半殺しにしちゃったんだ」

 「まじか冬馬……僕の事は半殺しにしないでね」

 「いやしないから。……そのこともあって皆と距離を置いていたのも理由に含まれるんだよね。ただ、やっぱり友達と話せないのは辛かったし、本気で学校行きたくないなって思ってた」

 「僕も冬馬と話せなかったから毎日泣いちゃいそうだったよ」

 

 流石にそれは嘘だろ、と敢えて口に出さずに心の中でツッコミを入れて冬馬は続けた。


 「だから俺が離れてもまた話しかけてくれて、一緒にいてくれてありがとうな、純」

 「……何だよいきなり照れるじゃんか。おやすみ冬馬」

 

 もしこの学校生活に純がいなかったとしたら、とっくにこの高校を退学しているかもしれない。そのくらい純の存在は自分の中で大きく、いなくてはならない親友だ。

 だから今言えるうちに、どうしても「ありがとう」と感謝の言葉を伝えておきたかった。

お読みいただきありがとうございます。

前の話で、突然の雰囲気に心配してくださった読者の方もいらっしゃるかと思いますが、自分勝手かもしれませんが完結まで一生懸命に走りきることを決めました。

恋が始まらないの読者の方、もし、よろしければ引き続き応援をよろしくお願いします。


北斗白のTwitterはこちら→@hokutoshiro1010

お知らせなどは活動報告をご覧ください。

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