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恋が始まらない《本家》  作者: 北斗白
秋〜Fall〜
36/37

36話~女子部屋と京の街灯

「恋が始まらない」は現在、月・水・土曜日の三日更新で21時更新です

 修学旅行一日目の自由時間が終わると、綾乃の「さぁ、定番のアレと行きますか」という号令によって、同じ部屋の女子たちは布団を並べると真ん中に集まって各々に寝っ転がった。

 ほとんどの生徒たちは二人部屋で宿泊しているが、修学旅行前の部屋割りの時に「大部屋が一つ余っているから誰か名前を入れてくれ」との先生からの要求に、香織たちは丁度仲の良い女子のグループで固まっていたので、ありがたくその枠に入れて貰う事になっていた。

 勿論、香織の仲の良い女子たちと言うのは、水城と関係を拗らせた時に教室内で喋っていたメンツが多くを占めていて、その中に綾乃が加わったという構成だ。

 綾乃は部屋の電気を消し、ベッドサイドにあるランタンを各々が円を描いて寝っ転がっている中央に灯すと、「さあ、はなそっか」と笑みを溢して言った。


 「そういえば綾乃最近笹森君とどうなのさー?」 

 「えーっ、別に何もないけど……」

 「チューした?」

 「い、いや、手は繋いだ……」


 言い出しっぺが悉く追い詰められていく。綾乃の様子を見ると満更でもなさそうな感じで、頬を赤らめて照れていた。

 だが、楽しげに話しを進めている綾乃たちには申し訳ないが、学生生活最高のイベントである修学旅行なのにイマイチ気分が上がらない。

 きっと、それは最近意中の相手が他の女子と並んで帰っているのを目撃したからで、あの時傷をつけられた心は未だに癒えていないのだ。

 せっかくの一大行事を前にして、一旦この事は記憶の片隅に置いておこうと思考を凝らしていても、エントランスで無意識に彼を見てしまうなど、絡まって解けない糸のように頭の中が水城の事から抜け出せないでいる。

 口に出さないように香織はため息をつくと、目下の話題は「この学年の中で誰が一番格好良いか」という定番の話題へと移り変わっていた。


 「……香織、聞いてた?」

 「え、あぁ……ごめん」

 

 全く別の事を考えていたので、少し申し訳なさそうに謝罪すると、綾乃は香織の態度を咎める素振りもなく、楽しそうに話題についての話を再開した。


 「クラスの中で誰が一番格好いいんだろうねぇ……」


 綾乃の問いかけに、香織は心の中で「そりゃあ水城一択なんだけどなぁ……」と呟くと、自分の隣に寝っ転がっていた遥香はるかが呟いた。

 遥香は例の水城に嫌われた事件の時に教室内で談笑をしていたうちの一人で、このメンバーの中では結構口が悪い方だが、根は真っ直ぐで正直に物事を言うので普段は仲良くしている。


 「うーんそうだなぁ、まず水城はないでしょー……」

 「え、なんで?」

 

 まさか自分の意見に口を出してくる人がいないと思っていたのか、遥香は分かりやすいように目を丸くして驚き、口を挟んだ綾乃の方に顔を向けた。


 「綾乃、水城の噂聞いてないの?」


 水城の噂……と言うのは恐らく三年生の先輩三人を自宅謹慎にしたというのと、自分と仲がいいからって調子に乗ってるとかいう、誰かが故意的に回した全くのデマの事だろう。

 最近はそう言った噂も聞かなくなってきたが、その噂のレッテルを張られてしまった水城は、きっとこの先も苦労するに違いない。

 思えば思うほどに、はっきりと物事を言えなかった自分に後悔の念が押し寄せてくる。だが遥香の質問に対して、綾乃は間を繋ぐように破顔した表情で口に出した。


 「あー先輩がどうやらとか香織がどうやらの事でしょ? あれデマに決まってんじゃん! 誰だろうねそんな噂流したの」

 「え……あれデマなの……?」


 先程よりも驚きに溢れた顔で、遥香は更に両目を丸くした。

 

 「球技大会の時ね……」


 と言って、綾乃は部屋内のメンバーに事の全てを話し始めた。最初は想像した通り納得がいかない様子で、遥香も眉を細めて聞いていたが、最終的には「なんだ、ただの良い奴だったのか」と落着したように安堵の息を着いた。

 綾乃が説明をしている間、香織は黙って話の全てを聞いていたが、敵と言える立場の違う人間が多いのに、良く自分の意見を正直に包み隠さず伝える事が出来るなと思った。

 その能力が綾乃にあって香織にないものであり、その気持ちがあれば水城との関係を拗らせる事もなかったのにと思うのと同時に自分が情けなく、真実を真っ直ぐに話す事が出来る綾乃を心底羨ましいと思った。


 「結論的に言うと、水城君は良い旦那さんになると思うんだよね」


 綾乃は「うん、うん」と頷いて話を纏めようとする。だが、そこで思いもよらぬ発言が部屋の中に響いた。


 「じゃあ私が嫁いじゃおうかなぁ……」

 「え……」


 突然の遥香の言葉に肝を抜かれ、思わず声を出してしまった香織は咄嗟に口元を両手で覆った。


 「あー冗談だって。てか香織がそんな反応するなんて、やっぱり水城と仲いいんでしょ?」


 してやられたような気がして心の中に嫌な気持ちが渦巻く。だが自分お腹にいるもう一つの存在が冗談で良かったと、ほっと胸を撫でおろした。遥香はドライ系で物事をはっきりと言う内面を持つ反面、ルックスがずば抜けて良いので、遥香が本気になれば八割以上の男子は落ちるだろう。

 それより今の自分の発言で水城との仲をまた疑われてしまった。だがあの日、後悔をしないように自分自身に嘘はつかないと誓ったので、ここは正直に言うしかない。


 「今は仲良いか微妙なんだ……」

 「好きなの?」

 「……気になってはいる」

 「おおー!」


 この一つの発言を口に出した途端に、嘘をついていた自分にやっと正直になれたような気がして、少しだが自然と心が軽くなったような気がした。

 

 「香織なら大丈夫っしょ! うち応援してるよ」

 「でも、どうやったら振り向かせられるのかな……」

 「うーん、やっぱあれしかないと思う。修学旅行終わったら、うちが手伝ってあげるよ」

 「あれか、遥香……ありがとう」


 その後も遅い時間になるまで恋話こいばなが続き、一人が寝付いたのをきっかけに全員が布団に入ってしまった。

 香織は遥香と最後まで二人で話し合った後、ようやく布団について瞼を閉じた。

 全員が眠る大部屋の中には、京の街並みに佇む灯の明かりが差し込んで、暗い部屋を薄く緩やかに照らしていた。

お読みいただきありがとうございます。

ここでお知らせですが、このペースで進んで行くと今月中に完結まで届かせるのは難しいかもしれないので、一日に何話か連続で更新します。


北斗白のTwitterはこちら→@hokutoshiro1010お知らせなどは活動報告をご覧ください。


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