12話~連なる予想外
恋が始まらないは毎週水曜日21時更新ですお読みくださって
「……純、いつまで笑ってんの」
「ぷぷっ、いや、だって、あの冬馬が恋愛だなんて」
「俺だって好きで引いたわけじゃないんだよ……」
小説サークルの地獄の集まりが終わり、冬馬と純は一緒に駅までの帰路を歩いていた。
くじを引いて席に戻った時、隣に座っていた純に紙を見せるといきなり爆笑のツボにはまってしまい、それからなかなか笑いが収まりきらないでいた。
こういう時、普段は何気なく背負っている荷物も妙に重たく感じて、気分だけではなく物理的に身体もいつもより沈んでしまう。
「いや本当に笑ったよ。遂に男の子にしか目がなかった冬馬も女の子の事を考える時が来たかー」
「いやそれいろいろと誤解があるから。別に好きで女子と話してないわけじゃないし……」
言葉を付け加えて話を続けようとした時、冬馬は勉強合宿一日目の夜に起こった出来事を思い出した。
純と寝そべって話をしていた時に、自分が過去に経験した恋愛についてのトラウマを打ち明けようとしたが、丁度いいタイミングで純が寝てしまったのだ。
あれからこういった話題になる事もなく、特に改まって言う事でもないなと感じていたので口に出すことはなかった。
「まあ、好きで冬馬に話しかける女子もいないしねー」
「だよな、っておい」
「あ、そういえば今週の日曜日スプリングフェスタっていうイベントがあるんだけど、冬馬一緒に行かない?」
スプリングフェスタとは、恐らく……というか絶対、二次元が好きな純と、その同志たちの集まりの事だろう。
誘ってくれるのは嬉しいし、純の話を聞くのは楽しいので是非とも行ってみたいが、今日の先ほどに思ってもいなかった誤算があったので、それについての作戦会議をしなければならないなと思っていた。
「うーん、ごめん純。土日で恋愛小説の構成を練らないとこの先やって行けそうにないから……」
「あ……ふふっ、そう、だったね、いや、もう笑わせないで……」
「……はぁ」
いつまで笑ってるつもりだよ、と突っ込みたくなったが、純がのんきに笑っていられるのも今の内だ。
構成や内容も完璧に仕上げて、手に取った人全員がとびっきり感動する恋愛小説を書いて純を見返してやろう。と冬馬は心に誓った。
それから純のお得意な二次元の熱弁を聞いていると、程なくして駅に着いた。
「じゃあ冬馬、またね! 恋愛小説頑張ってね!」
「わーったよ! またね」
駅内のベンチへと向かう純に手を振り、定期券を差し込んで改札をくぐり抜ける。
青葉地区には二つの種類の電車が通っていて、冬馬が利用する「青葉鉄道」と、純が利用している「青葉ライナー」というものがある。
普段の登校時はお互いの時間を合わせてこの駅で待ち合わせをしているが、純の利用している青葉ライナーは基本的に本数が少なく、特に下校時は一時間も待っていたという話を何回も聞いたことがある。
ちなみに待ち時間の暇つぶしは小説の執筆作業に当てているらしい。今回純が引いたお題は「fantasy」、つまり空想の世界を舞台にした物語なので、二次元が好きな純には結構似合っているお題だ。
まさに貧乏くじを引いた冬馬は心の中で「くっそぉ!」と言葉を吐き捨て、ホームに到着した電車に乗り込んだ。
三駅ほど離れた目的の駅に到着し、電車から降りて人ごみに流されながら改札をくぐると、冬馬は出口近くの長椅子に見慣れた影を見つけた。
「美月? こんな所で何してんの?」
「あっ……お兄ちゃん、待ってた」
ツインテールを揺らして振り向いたのは、冬馬の双子の妹の一人である美月だ。美月は姉の美陽の性格と比べて内気な方で、結構な恥ずかしがりやだ。
家族と一緒にいる時でも口数は少ない方だが、冬馬の帰りが遅くなった時もリビングで待っていて「おかえり」と言ってくれたり、テスト勉強で部屋に籠っている時もコーヒーを淹れてくれたり、何かと気遣ってくれる優しくて自慢のできる妹だ。
それにしても美月が駅で冬馬を待っていたことはこれまでにないので、何か家であったのだろうか。
「どした美月、家でなんかあったの?」
「お兄ちゃんの……彼女がお家にきた」
「……は?」
不意に突かれた言葉に冬馬の脳内がパニックになる。彼女が家に来たと言われても、これまでの人生で彼女ができたことはないし、そもそも純からも言われたが女子と話すことがない。
いくつものクエスチョンマークが頭の上に昇る冬馬を無視して美月は続けた。
「いま、お家にお兄ちゃんの彼女がきて、居づらかったからお兄ちゃん迎えに来た」
「え……ん? 美陽は?」
「お兄ちゃんの彼女に尋問してる」
「んー、まじかー」
名前の通り陽気な性格の美陽のことだから、好奇心の赴くままに冬馬の彼女を装った人物に問いただしているに違いない。
これは大変な事になった。恋愛小説の構成がどうとかの次元ではなく現実で意味の分からない事が起きてしまっている。
心拍数がどんどんと早くなってきているのが明らかに分かる。どうやら一刻も早く家に帰らなければならないようだ。
「お兄ちゃん……彼女いるの?」
「いねぇよ! それよりも早く家に帰らないと!」
「……そっか」
「何してんの走るぞ美月!」
「……うん」
ここ最近で一番のダッシュをして三分もしない内に家に着くと、玄関に知らないローファーが置いてあるのが目に映った。
冬馬はリビングの扉の前に立って固唾をのみ、意を決して「ただいまー」と静かに扉を開けると、母と美陽と一緒になって食卓を囲んでいる女子がこちらに向かって言葉を発した。
「あ……おじゃましてます」
「なっ……花園!?」
お読みくださってありがとうございます。今回はまさかの展開が訪れましたね。今後の発展に期待です!
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