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第三話 「もっと安くしてよ」


 私の勤務する病院に、新しいエコー(超音波)装置のデモンストレーションをするため、業者さんがやってきました。

 G〇社のエコー装置。全体的にスリムで、これまでより軽くてスタイリッシュな印象です。昨年の8月まで販売されていた型で、いわゆる(家電製品でいうところの)「型落ち」っていう奴です。在庫セールですね。

 検査室に集まった私たち――販売業者さん二名、消化器外科医三名、循環器内科医二名、脳神経内科医一名、臨床検査技師三名――早速、質問を開始しました。


外科医A:「これ、定価はいくらだったの?」

業者A :「定価は、あってなきがごとく……でして。希望小売価格は、一千万円くらいでした」

外科医B:「ふうん。じゃあ、今は五百万円?」

業者A+B:「え?」


 インド式値引き交渉スタートです(くわーん!★)


外科医A:「ちょっと、まずは使ってみようよ。君、そこ(検査台)に寝て」

業者A :「あ、はい」

外科医A:「脂肪肝、ある?」

業者A :「あ……あります」

外科医B:「じゃあ、観てみるよ(早速プローブを腹部にあて、モニター画面を見ながら)……うわあ、画質が粗いなあ。駄目だよこんなの、三百万円だね」

業者A+B:「ええ?」

外科医A:「本当だ、粗いなあ。百三十万円でも無理だね」

業者A :「そ、そんな……」

外科医B:「(検査を続けながら)ちょっと、主膵管(注1)がよく見えないよ。三十万円」

業者A :「えっ……えっ?」

外科医A:「君、今ここで癌が見つかったら、五十万円で買ってあげるよ」


業者A+B:「こ、心が折れそうです……」


外科医B:「肝腎コントラスト(注2)は……あるなあ。ううーん、でも、本当に画像が粗いよ。何とかなんないの、これ」

業者A :「脂肪肝、ありますか……ではなくて。ここのところを回せば、画質調整できますが……」

外科医B:「あ、本当だ。これ脂肪肝……かなあ?」

外科医A:「これくらいの小太りなら、たいてい脂肪肝だよ」

業者A :「小太り……」

外科医A:「えー、使いにくいよ。なんで表示が全部英語なの? 日本語にならないの? タッチパネルにしてよもう」


 患者さん相手には決して言わないレベルの容赦ないツッコミをぐさぐさ浴びて、業者さんたちは動揺しまくりです。


 臨床検査技師さんに交代し、今度は心エコーが始まりました。


技師さん:「画像……暗いですけれど。カスタマイズすれば、なんとか」

外科医A:「弁膜症(注3)があるんじゃない? あ、逆流が……!(嘘です)」

業者A :「どきどきどき……」

外科医B:「カスタマイズ、出来るの? カラー(ドップラー)どこ?(注4)」

業者B :「あ、ここに。こうすれば――」

技師さん:「ううーん……」

外科医A:「わかりにくいなあ、もう。五万円でも買わないよ?」

業者A+B:「そんなあ……」


 七年間のメンテナンスがつくという話に納得したところで、一同、

「じゃ、来週は、他の会社の機械を見せてね?」


 来週、シー〇ンス社に続きます(続かない)。













(注1)主膵管

 膵臓から消化酵素を十二指腸内へ分泌する管。腹部エコーでは、胃の奥に位置しています。


(注2)肝腎コントラスト

 血液の豊富な臓器である肝臓と腎臓は、エコー下ではほぼ同じ濃度で描出されます。肝臓に脂肪が蓄積する(脂肪肝)と、肝臓が白っぽく描出され、隣にある腎臓との差がはっきりします。これを肝腎コントラストと言います。


(注3)弁膜症

 心臓の心室と心房を区切る弁(僧帽弁、三尖弁)、動脈の血液の逆流を防ぐ弁(肺動脈弁、大動脈弁)があります。これらの弁が狭窄したり、きちんと閉まらなくなって逆流を起こしたりする病気のことを、心臓弁膜症と言います。この業者さんAの心臓は、健康でした。


(注3)カラードップラー

 心臓のエコー検査で、動いている心臓内の血流の動きを、色をつけて表示する方法です。逆流や、異常な血流をみつけるのに役立ちます。


 業者さんたちは、医療機器の販売を請け負っている会社で、製造している会社とは別です。数社の製品を扱っており、時々こうしてデモンストレーションをしてくれています。外科の医師たちとは、実は大の仲良しです。

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