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第十話 「空は飛べません」


 私の勤務先の病院は、この地域の災害拠点病院(注1)に指定されています。

 地下二階、地上九階建て。ベッド数は四百床あまり。ICU、HCUを持つ総合病院であり、救急指定病院です(注2)。免震構造(注3)で、屋上にはヘリポートがあります。

 ヘリポート! 響きがいいですね。小学生の憧れ、ドクターヘリってやつですよ。コード・ブルーとか、TVドラマのタイトルにもなって有名になりました。私は観ていないけど。


「コード・ブルー!」


 ……こんなカッコイイ呼びかけ、聞いたことありません(注4)。診療時間中に、事務員さんがとてものどかに放送しています。


「入院中の患者様にお知らせします。ただ今より、屋上に、ヘリコプターが到着します。危険ですので、窓をお閉めください」


 何が危険なんでしょうかね? よく分かりません。落ちてくる物でもあるのかと訊ねましたが、言った本人も知らないらしく、物より騒音が問題なんだと説明されました。

 確かに、窓を閉めていても、ばりばりと音が聞こえます。かなり煩いです。

 ヘリコプターが到着すると、再びアナウンスが入ります。


「ただ今、ヘリコプターが無事に到着しました。ご協力ありがとうございました」


 まあ、誰もたいした事はしていませんが、とりあえず良かったね、と思うわけです。


 このドクターヘリ、遠方から急を要する患者さまを運んで来る場合がありますが、乗せていない場合もあります。ヘリコプターに乗る医療スタッフは、その為の研修を受けていないといけません。誰でも乗れるわけではないのです。

 当院には、フライト研修を受けた救命救急医が二名います。どちらかをお迎えに来ている場合もあるわけです。



 このフライトドクター、年配の方は、私の先輩(内科医)の元同級生です。他院に勤めている先輩が、驚いて言いました。

「え? あいつ、今そんなカッコイイことやってんの? 高校時代、太っていたのに」

「何十年前のお話ですか……。今は、凄くスリムですよ」

「え〜? 本当に? 太ってるって、俺たち、からかっていたのに」

「高校生のお嬢さんに『スリムなパパでいて』と言われて、ダイエットしたそうです。足首なんか、ルパン三世みたいですよ」

「(SNSの写真を観て)うわ、本当だ。痩せたんだ……。いいなあ、フライトドクター」


 ベテランの医師にとっても、憧れのようです。でも、この先輩は、フライト研修を受けるつもりはないそうです。理由は単に、面倒だから。

 え? 私ですか? ……ヘリポートのある屋上は、普段は立ち入り禁止です。手すりがないので……。高所恐怖症の私がそんな所に登ったら、床に貼りついて動けなくなるでしょう。無理です、ゼッタイに、無理。


 誰でも空を飛べるわけではないのですよ。







(注1)災害拠点病院

 平成8年に厚生省の発令によって定められた「災害時における初期救急医療 体制の充実強化を図るための医療機関」で、次のような機能を備えています。

① 24時間いつでも災害に対する緊急対応ができ、被災地域内の傷病者の受け入れ・搬出が可能。

② 重症傷病者の受け入れ・搬送をヘリコプターなどを使用して行うことができる。

③ 消防機関と連携した医療救護班の派遣体制がある。

④ ヘリコプターに同乗する医師を派遣でき、これらをサポートする、十分な 医療設備や医療体制、情報収集システムと、ヘリポート、緊急車両、自己完結型の医療チームを派遣できる資器材を備えている。


(注2)ICU、HCU

 ICU: Intensive Care Unit 集中治療室、HCU: High Care Unit 高度治療室。

 いずれも、生命の危機のある急性期の重症患者様を収容し、集中して治療と看護を行うための治療室です。略語ばかりで、本当にすみません。


(注3)免震構造

 耐震、制震、免震、という地震対策の建築工法があるそうです。免震構造では、建物と基礎の間に積層ゴムやダンパー(振れ止め)を入れ、地震のエネルギーが直接建物に伝わるのを防いでいます。


(注4)コード・ブルー

 医療スタッフの間で用いられる「隠語」です。コード・ブルー、コード・レッド、コード・ホワイトなどがあります。隠語を堂々とドラマのタイトルにしたら、隠す意味がないじゃないかと思うのですが……。都会の病院では使っているのかもしれませんが、うちの病院で聞いたことはありません。


 医療ドラマには、いろいろと「あり得ない」フィクションが含まれています。私たちは、内容よりもまず、「医療従事者が全員美男美女なんて、あり得ないよな~」と思っています(山○智久くんはいません。新垣○衣ちゃんもいないんだ……)。


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