んっ、怖くない。
お待たせしました。
アホほど長いです。
薄暗い部屋の中。部屋中に生えた水晶の、水色のような青のような紫のようなキラキラした輝きが、暗闇に良く映える。
しかし今私が見ているのは綺麗な水晶ではなく、目の前にある濃い灰色をした四角いウィンドウ。
---
人形設定
空腹(OFF)
睡眠(OFF)
疲労(OFF)
汚れ(OFF)
老化(OFF)
濡れ(OFF)
感情(OFF)New!
表情(OFF)New!
---
何か追加されてるぅー。
確かに。確かに私は、感情とか表情とかを消したいって思った。消えて欲しいって思ったよ?でもでもね?何て言うか、こんなにも早く反映されるとは思ってなかったというか、いや、そもそもなんで反映されてるの??って。
ただ願っただけで、理想が叶うの?いくら魔法とはいえ、そんな都合の良いものじゃないと思うんだけどな。
よく分からないや。難しい。
『お?こりゃローズ水晶じゃねーか。こっちはゴールド結晶か。凄いな。』
「…………。」
ビックリした。心臓、メッチャ跳ねた。
部屋が薄暗くてちょっと分からないけれど、緑色っぽいツルが地面から十数センチの辺りをニョロニョロとダンスしてるのがうっすら見えた。
……一体いつから?いつの間に居たの??何でアサガオがここにいるの?……ってそうだ。ここB2だ。ミスった。このままだと入られちゃうじゃん。後でB4に移動しなきゃ。うん。
『なんだぁ?反応薄いな。流石に気付いてたか。……まぁいい。ちょっとお前に聞きたい事があって来た。大事な話だ。』
ん~?何かな?
正直、さっさと出ていって欲しいけど、話を聞くだけなら私は聞く派だよ?うん。
『この話を聞いた時、恐らくお前は怒るだろう。だが、いいか?変な気は起こすなよ?自分の秘密を知られたからって、「コイツ消えてくんねぇかなー?」とか思うなよ??本当。それされたら俺、マジで消えるからな??お前、毎度毎度俺がどれだけビビってるか知らねぇだろ。……まぁ、今回ばかりは俺も相当無茶な博打してるのは分かってんだが、コレばっかりはどうしようもねぇ。当たって砕けるしか──』
「……あ、えっと。」
『あん??』
んーと、んと。
「私が、『ネロ消えろ』って思ったら、ネロは消え、……る?」
『あぁ。お前が心底そう思えば、俺は綺麗サッパリ消えるだろうな。そしてまた、俺はあの暗い空間に逆戻りって訳だ。』
──やっぱりそれって、……何て言うか、こう。
「私が願うと、それだけで叶う……?」
『お前、やっぱりそこも無自覚か。』
そこ……も?……え。『も』って何?まだ何かあるの??
『……ここはお前の空間だ。お前の作り出した、お前が自由に好き勝手する世界なんだろ?だからこそ、空間側もお前の突発的な願いを叶える為にプロセスが最適化されてるんだろう。この空間の中でなら、お前の願いは一瞬で叶うだろうよ。』
「で、でも、それって……。」
『あぁ。今はまだなんとも無いだろうが、その内、場合によっては取り返しがつかない事になりかねない可能性はあるわな。』
「うん……。」
何でも思い通りになるってのは、とっても便利だと思う。
でも、ただの妄想が即現実になっちゃうかもしれないってのは、あんまし良くない。
──ピコン。
〈設定変更時、メッセージ通知を表示しますか? YES/NO〉
うぉぅ。何か来た!?
目の前に現れる、灰色のメッセージウィンドウ。
──願った事が即叶う。……実感した。
もちろん私は〈YES〉を選択する。すると、新しいウインドウが開いた。
そのウィンドウは、デスクトップ画面みたいな所。
『マップ』やら『時計』やら『お絵かき』やらが項目が並ぶその最後に、『ログ』という項目が追加されてた。
……なるほど、ここから見るのね。
わざわざありがとう?
『お前、俺の話聞いてないだろう。』
「え。何?」
『全く。せっかく俺が、お前の気まぐれでいつ消されるかもしれない恐怖に怯えながら過ごしたこれまでの日々の苦労話を語ってやってたのによ!やってらんねぇ。酒だ。酒出せ。』
「みゅ……。何が良いの?」
『……はぁ。お前は相変わらず、酔っ払いの戯言を真に受けやがって。まぁいいや。本題に戻るぞ。俺は、お前に聞きたい事がある。』
「うん、なぁに?」
『……お前、マジで「こいつ消えろ」とか思うなよ??本当。絶対だぞ?勘弁してくれよ??』
「…………。」
──むぅ。しつこい。
余程の事がない限り、そんな物騒なこと思わないも~ん。たぶん。
で、聞きたい事って、何かな?何かな?
『……お前さ、本当は「スキル作成」って能力だったりしねぇか??』
「……っ。」
むむむぅぅぅー。
──あぁ、確かに。これは『消えろ』って思う。しつこいくらいに言われなかったら100%願ってた。
知られたくない秘密を知られちゃったからさぁ~、知っちゃったその人の存在ごと無かった事にしちゃいたい~な☆
『お前今、絶対怒っているだろう!頼むから何も願うなよ?俺はまだ消えたくないからな!?』
「……ねぇ、お塩掛けたら記憶消えたりしないの?お望みならばいっぱい用意するよ??いっぱい!山盛り!!どっさり!!!」
ドサドサドサー!のどっかーん!なんだよ?
ぐぇ~ってしてキュ~なんだよ!
『落ち着け、落ち着け。どぅどぅ。俺に塩掛けたってな?俺の記憶は消えねぇし、俺は俺に出来る最善を尽くして意地でもここに居座り続けてやるぞ?だからほれ、イズミ菓子新作の抹茶プリンだ。これでも食って落ち着け。』
わーい。抹茶プリンだー。えへへ♪
いただきます!あーん……んんん~~!!んふふふ~~。超幸せ。
「……で、何でバレたの?」
『あ?……へ?お前、マジで「スキル作成」なのか??いやいや。……は?……いやいやいやいや。』
「何?ダメなの?」
『いやいや……。「スキル作成」はレジェンド能力だぞ?人類数千年の歴史の中で9人しか居ない希少能力だ。しかも超強力。見付かれば国で保護レベルだぞ??一生遊んで暮らせる。だが下手すりゃそいつを巡って国と国との戦争になったりしてな……。……そんな奴がこんな森深くに穴蔵掘って、のほほーんと菓子食ってるワケねぇだろ……。』
「へぇー。」
もしかして、最初のあの時能力を偽装した私、超偉かった?
『「へー。」ってお前なぁ……。』
「おかわりはー?」
『……ほれ。』
「わーい。」
ダメ元で言ったら出てきた。うふふ。幸せ♪
「で、何で私の能力が『スキル作成』だってバレたの?」
『そりゃあお前、家一軒丸ごと消したり、遠くの場所に物質を正確に届けたり。あんなとんでもスキルがこの世にあると思うか??本人が願うだけで願いが叶う空間やら、どっかから酒だの塩だのを一瞬でポンと出したりもな。……まぁ、どれか一つくらいなら出来る奴も居るだろうが、何でもかんでも出来る能力っていったら、「スキル作成」くらいしかねーだろ?』
「ほー。」
『「ほー。」ってお前……。俺はこれでも半信半疑だぞ??……鑑定して確かめようにも、お前のステータス、ロック掛かってるし。』
ん?ロック?……んー。
「【ステータス非公開】の事?」
『そりゃ知らねぇよ。だがな、お前を鑑定すると「彼女を鑑定しますか?」って念押しされるんだよ。なんでこいつにだけそんなものが出るんだ?って。何が起こるか分からねーし、そんな得体の知れないものにYesなんて押せるかよ!ってな。』
〈ネロさんからステータス情報の閲覧申請が来ています。許可しますか? Yes/No〉
うぉう!?
「……ステータス情報の閲覧申請……の許可?」
『ほぅ?パンドラの箱の中身は許可申請だったか。』
………あ!ん。察した。
「もしかして、今鑑定してYes押したの?」
『おう。』
ほー。なるへそ。〈No〉っと。
『おい!!「閲覧に失敗しました」って何だこれは。さては拒否したなお前。』
「えへへー。」
『……この薄暗闇でも分かるぞ。お前、今超ニッコニコだろう?見なくても分かる。…………いやそもそも、なんでこんな暗いんだここ。』
ん~。甘いものは満たされたし、今度はしょっぱいもの欲しいなー。
「ねぇ。海苔のくっついた醤油煎餅食べたい。あ、後ほうじ茶も。」
『へいへい。(イズミに頼んで)用意してやるから。お前のステータス、ちゃんと見せろよ?ほれ。』
「えー。」
〈ネロさんからステータス情報の閲覧申請が来ています。許可しますか? Yes/No〉
仕方ないねー?〈Yes〉っと。
『えーっと何々?「能力名:補助魔法」……ってオイ、さっきと話が違うだろう。どういう事だ?』
「だって、『ステータス改変』してるし。」
『ほぉ?偽装って訳か。そりゃ、レジェンド能力の癖に森深くの穴蔵でボケボケしてるのも有り得るってか。……ほい、煎餅と茶だ。これやるからさっさと偽装解け。』
目の前に、暖かそうなマグカップと海苔付きお煎餅がたくさん乗ったお皿が置かれる。でも今度は、それにすぐ手を伸ばせない。
「えっと、……見せなきゃダメ?」
だって……。ステータスっていうのは、私自身の情報がいっぱい乗ってるじゃん。だから私自身の事をきちんと認識されてしまうという事。そういうのは私やっぱり苦手。怖い。嫌。
『じゃあ、こうしよう。』
バリッという小気味良い音にアサガオの方を見れば、お煎餅食べてた。
──私のお煎餅食べてた!!!!
『お前も俺のステータスを見れば良いだろう。お互いの情報交換だ。これでどうだ?』
「おせんべ……私の……。」
『あん?』
「おせんべ……!」
『おぅ、すまん。』
そう言ってネロは器用にツルを使い、お煎餅の乗ったお皿を私の方へズズィっと押した。
ん。1枚盗られたのは許してあげよう。
って訳で私も。はぁむ!……うん!美味しい。
ついでにお茶も~。ん、ほっこり。
「……ん。で、ネロのステータスを見た所で、何があるの?」
『俺の事を詳しく知れるだろう?』
「…………。」
知った所で何なんだろう?見たって何も変わらない。
『俺の能力は「能力書の管理人」だ。お前の能力が本当に「スキル作成」なら、お前にとって俺はかなり役に立つと思うぜ?』
「ほー。」
よく分かんないけど、たぶん凄い?
っていうか、能力持ってたんだね。そこにまずビックリ。
「どんな能力なの?」
『俺の能力か?聞いて驚け。まず、能力名が分かれば、相手がどんなスキルを持っているか、また将来どんなスキルが発現するかが分かる。そして、相手が使うスキルから、相手の能力名のおおよその見当をつける事が出来る。こっちは所謂逆引きだな。まぁ平たく言えば、俺自身が“能力について書かれた辞書”って事だーな。ちなみに、お前がスキルを作る際の合成材料も分かるぞ?な、便利だろ?』
「ごーせーざいりょーぉ?」
んー?はて。何の事だろう??
『……おー。なんか話がマイナスからスタートしそうだからこの件は後回しだ。取り敢えず、お前のステータスを見せてみろ。話はそれからだ。』
「むーん。」
やだなー、やだなー。
私の、どんな情報をどこまで見られるか、分かんないんだもん。
変なこと知られたらやだなー、って。
……ん、あ。そうだ!私が横で一緒に見てれば良いか~。うん。
で、ダメなとこ見たらお塩かけてあげよう。そうしよう~!
「ねぇ。ネロが鑑定した画面って、私も見れる?」
何ていうかこう、ウィンドウを自分以外にも可視状態にする……みたいな。
『は?いや、無理だろ。鑑定画面は個人固有のもので……あー、あれだ!!』
何やらぶつくさ言い始めたと思ったら、ネロは急に大きな声を出す。
『灰色の、なんだこう……薄っぺらな、白い文字の書かれたアレは……?前にあれやったの、お前の仕業だろう?』
はて?何の事だろ。
ん、でもまぁ確かに、目の前のやつは灰色で薄っぺらくて白い文字だなーって。
〈概念構築:作成したスキルを他者に贈与する事が出来ます。〉
あぁ。作れば良いんだね、ネロ用のウィンドウ。
【ウィンドウ】(贈与用)
機能は取り敢えず、指定した画面を表示させる事と、他者にも見えるようにオンオフ出来る事。
作成、贈与っと。ほぉら、飛んでけーって。
『うおっと!?お前、なんだこれ。………なるほどなるほど。……ほぅほぅ。ここをこうして、こうしてやれば……よっ、と。』
薄闇の中、ポッと明かりが灯るように、アサガオの前に薄茶色のウィンドウが姿を現す。
『少々色を変えさせてもらったぞ。』
後ろに回って覗き込めば、中心から四隅の角へ向かうにつれ薄茶色が濃くなっていく背景に、色褪せたような焦げ茶色の文字。
なんか褪せた古本みたいな、貴重な古書のような、そんな雰囲気の画面になっていた。
そして、その画面に浮かぶ〈彼女を鑑定しますか? Yes/No〉の文字。
『偽装は外したか?』
あー、そっか。……ホイホイっと。
「いいよ。」
『よっしゃ。』
ネロがツルで器用に〈Yes〉を押せば、私の目の前には承認許可のメッセージが飛んできた。
私はサクッと〈Yes〉を押し、ネロの画面へと視線を戻す。
---
サキ / ?? / 女 / 2-3-1
癒しの風 (スキル作成 Lv199)
体力適正 83%
魔力適正 4600%
スキル経験値軽減 0.76倍
スキル経験値倍率 98倍
スキル一覧
・癒しの風 (Lv60)
・スキル作成 (Lv60)
---
『はっ……!?』
変な声を上げたネロは、ステータスの表示された画面を凝視したまま動かなくなった。
……そんなマジマジと見ないで欲しい。恥ずい。
にしても、鑑定画面は私のと全然違うねぇ?
適正だのスキル経験値だのって、一体何だろ。
『ぷはっ!うぃ~。やっぱ酒は良いねぇ。沁みるぜ。』
気付いたら呑んでるし。
『お前のステータスがアホ過ぎて、呑まねぇとやってられねーわ。』
「みゅぅ……。」
アホってなぁに?そんなに……ダメ?
『んな猫みたいな声で鳴くな。悪い意味じゃねーから安心しろ。』
「みぃ……。」
そんな事言われたってねぇ?たぶん、私チートだもん。いろんな所が、たぶん絶対おかしい。落ち着かないまま、手元のお煎餅をチビチビ齧る。……おいちい。
『まずどっから行くか……。“体力適正”、“スキル経験値軽減”はまぁ、普通だな。正常値範囲だ。……問題は、だ。“魔力適正”と“スキル経験値倍率”な。魔力適正ってのはだいたい、100%が基準だ。多くても精々150%~200%くらいだ。それがだ。……なんだお前、4600%って!!頭おかしいだろう。……経験値倍率もな?低くて1倍~1.2倍くらいか?1倍を切る事は滅多に無いからな。で、多いやつでも2.5倍程度だ。それがお前、98倍だぞ?……世の中の人間が一つ一つ地道にレベルを上げてる中で、お前はスキルを一回使うだけで一気に数レベル上がるんだ。なんだそれ。世の中の人間が不憫すぎるわ。最初見た時、若さで能力レベルがMAXってなんだそりゃあ?!とも思ったが、経験値倍率が98倍ってなりゃ、そりぁ有り得る話だな。……それでだ。』
機関銃の様な説明を一旦切り、何かを確認するように、アサガオの花がこちらを向く。
『お前、このステータスはこれ以上何も隠してねぇんだよな?』
「みっ、みぃ……?」
その、咎めるような口調に身体がキュゥ~ってなる。
『……あー、そうか。お前それ人形か。』
「みぃ……。」
『よし。本体はどこだ?そっちも鑑定させろ。』
「みっ!!!」
『「嫌!!!」ってか?まぁ、お前ならそうだよなぁ~。だがな、お前にとってもこれは必要なことだと思うぞ?お前が無意識でやっているであろう事、俺ならちゃんと説明してやれるんだが……。』
「むーぅぅ。」
確かに。確かにネロは、たぶん頭が良い。私が理解出来ないことも、ちゃんと理解して教えてくれるとは思う。私がなんとなくでやってる事も、ちゃんと仕組みが理解出来たらもっと効率良くなると思う。
嫌!めっちゃ嫌だが……しゃーないのぅ。
「それで、どうやって行くの?」
私の場所、B4の周りの空間はすべてお塩で固めた。根っこでは来られない。来させる気もない。
『あぁ、それな。……前から思ってたんだが、俺にもその人形の身体、作ってくれねぇ?』
「にゃん……?」
『不便なんだよ、この体。自由に動けねぇし。』
「むぅ。」
面倒臭いから……うん、こうしよう。
ウィンドウ機能にキャラメイクシステムを添えて……送信っと。
『あ?自分で作れってか?……ほー、こうなってるのか。……へー。』
私には可視出来ないウィンドウに向かって、ネロはブツブツと何やら呟きながら、数本のツルを空中で動かしていく。
パッと見、かなり不気味。……もぐもぐ。おせんべ、おいしっ。
『おい、出来たぞ?だがこれ、誰の魔力で作るんだ?俺に、こんな量の魔力は無いからな?』
「えっ?あ、私ので良いよ。」
私っていうか“アキちゃん”の魔力、かな。彼女、魔力いっぱいあるし。
っていうか、私がプレゼントしたウィンドウ機能のエネルギー源は、全部“アキちゃん”からで良いと思うよ。
〈概念構築:贈与スキルのうち、指定したスキルは本体と紐付け、魔力を供給します。〉
〈魔力供給源《アキ》設定しました。〉
うん。それで良いと思うよ。
『ふぅん。じゃあ、作るぞ?』
白い光が現れたと思ったら、そこから現れた長身のシルエット。
「よっ、と。これで良いのか?」
ふわっとした金髪の髪に、キラキラとしたエメラルド色の瞳。悪戯っぽい笑みを浮かべながらも崩れない整った顔立ちの青年。
ちょっと悪戯好きな、それでいて性格が良く、いつもクラスの中心にいる様な、学年一モテる感じの、でも性格の悪い女子にはバシッと物を言い、地味だけどとても性格の良い子を見つけて構い始め、恋愛ストーリーになっていく感じの、そんな風なイケメンがいた。
「お?何だ?俺に惚れたか?」
「え?やだ、無理。」
前にも言ったけど、私はイケメンが無理なんだ。イケメンというのは、そこに存在するだけで視線を集め、一挙一動を観察され、ソレと接する人間さえも監視の対象となる。
え。やだ。無理。私、こんなのに見つかって構われ始めたくない。そんなの地獄じゃん。私は画面の外から見てるだけでいい。私の半径10m以内に近付かないで欲しい。
「即全否定かよ、ったく。これで惚れてくれりゃ、楽だったんだが。……まぁいいわ。これで動けるぞ。案内してくれ。」
正直、この容姿は生理的に受け付けないんだけど……。んっ。中身はアル中。中身はアル中。
さーてと。
グイッと腕を掴み、イケメンネロも一緒に【テレポート】っと。
飛んだ先は《秘密の地下室》。本体である《アキ》やお人形の《セツ》が、カプセルベッドで寝ている部屋。
この部屋は少々薄暗く、明かりは最低限しか置いてないけれど、さっきの《闇の水晶エリア》よりは明るい。
「おっと。いきなりかよ。……まぁ、いいか。んで?どいつがお前の本体だ?」
「一番奥。」
「ほぅ、どれどれ?……あぁ、この前見た可愛いのか。これが本体だったんだな。」
“この前”という言葉で、ふと前に、私が行く先行く場所現れ、まだエリア扱いだったこの部屋にも入り込んだものだから、無意識に追い出しちゃったあの時かな。と思い出した。──そういえば、誰かを覗き込んで、可愛いだの、言ってたようなー?って。
スッと視線を落とした先には、イケメンの靴があった。私はそれを、思いっきり踏みつける。
「いったたた!?いやいや、あの時は事故みたいなもので……じゃなくて、勝手に入ったのは悪かったと思ってる。あー、後でイズミ特製新作ケーキやるからな?それで勘弁してくれねーか?な?」
むー。なんか物で釣ってる気がするけど、まぁいいや。ケーキは大事。
最後に思い切りグッと一踏みしてから、私は仕方なく足を退ける。
「サンキュ。それで本題なんだが、本体はこいつだったよな?」
イケメンは私の頭をポンと一撫ですると、ここへ来た目的である部屋の奥にいる《アキ》の方へと向かっていった。
……ねぇ、今。
頭ポンされた!!!!?
イケメンが私の頭ポンした?
数秒固まった後、全身がゾワゾワゾワゾワってしてくる。
だって、イケメンの頭ポンだよ?漫画だったらキュンってなるやつだよ?
わわわわ私には無理無理無理無理。
「あ?どうした?俺の鑑定画面が見たいんだろ?早くこっち来い。」
イケメンが手招きして呼んでるぅぅぅぅー。
……大丈夫。中身はアル中、中身はアル中。
恐る恐る近付いて、隣からネロの目の前に開かれた薄茶色の画面を覗けば〈彼女を鑑定しますか? Yes/No〉という文字。
私が来たのを確認したネロが〈Yes〉を押せば、私の目の前にもウィンドウが現れる。
〈ネロさんから《アキ》へのステータス情報の閲覧申請が来ています。許可しますか? Yes/No〉
あ、なんかさっきとちょっと違うね。確かに今は対象が《私》じゃないもんね。こうなるんだ、へぇ。
私がYesを押せば、ネロの前にはウィンドウが広がる。
---
アキ / ?? / 女 / 2-3-1
スキル作成 Lv199
体力適正 83%
魔力適正 4600%
スキル経験値軽減 0.76倍
スキル経験値倍率 98倍
スキル一覧
・スキル作成 (Lv60)
---
「はぁ……。」
呆れたような、落胆したような、ネロはため息をつく。
そして、何かを空中で操作し始めたかと思えば、隣にもう一つウィンドウを出した。
---
サキ / ?? / 女 / 2-3-1
癒しの風 (スキル作成 Lv199)
体力適正 83%
魔力適正 4600%
スキル経験値軽減 0.76倍
スキル経験値倍率 98倍
スキル一覧
・癒しの風 (Lv60)
・スキル作成 (Lv60)
---
「もう一度確認するが、お前、これ以上ステータスは隠してないんだよな?」
責めるような視線に射ぬかれ、縮こまる私はブンブンと首を横に振る。
『本当だな?』
「……な、んで?」
なんでそんなに、確認するんだろう。
「……あー、そうだな。」
少し何かを考えるように、ネロは視線をウィンドウへと戻した。
「これ、何が書かれた欄だと思う?」
そう言って、ネロが指差したのはサキウィンドウの上の方にある〈癒しの風 (スキル作成 Lv199)〉と書かれた部分。
「……能力名?」
「そうだな。」
ネロはそう言って、今度はアキウィンドウの能力名欄を示す。そこには、〈スキル作成 Lv199〉と。
「これを見た時の、マジのレジェンド能力じゃねーか!とか、この若さでやっぱりレベルMAXかよ!とかいう俺の驚愕は置いておくとしてな……。」
ネロはため息を一つ吐き、説明を続ける。
「俺の鑑定画面では普通、能力名と能力レベルが一緒に表示される。だが、これはそうじゃないな?」
そう言って、ネロはサキウィンドウの〈癒しの風〉という部分を指差す。
うん、確かにレベルは出てないねぇ。
「なぜかって言えば、……まぁモモ達を鑑定して出した結論なんだが、これは恐らく“デミ能力”。デミ──不完全な形の能力だな。お前の作った人形、特有の現象なんだろう。お前の作った人形は皆、何かしらのデミ能力を持つ。それはお前……あー、サキだったか?も例外ではなかった訳だ。」
確か、モモちゃんは《開花》、ホタルちゃんは《泥沼》、シノブちゃんは《忍者》、コズエちゃんは《浮遊》、イズミちゃんは《物知り》、アカネちゃんは《力持ち》だったかな。
「そしてデミ能力には、能力としては不完全だ。それ故にレベルが無い。そして不完全故に、与えられたスキルもたった一つなんだ。」
そう言って、ネロはサキウィンドウの〈スキル一覧〉と書かれた所の〈癒しの風 (Lv60)〉を指差す。
「その上、最初からスキルレベルもMAXだ。人形故か、成長すらしない。」
うん。お人形は成長しないよ?
「さて、問題はここからだ。こっちの、《スキル作成》っていうレジェンド能力は、確かにお前本来の能力なのだろう。アキにデミ能力は無く、デミ能力を持つサキにも表示されているからな。……それでだ。」
ネロは一度言葉を切り、ウィンドウ下にある〈スキル一覧〉と書かれた部分をコツコツと叩く。
「お前のスキルは本当に、この【スキル作成】ってやつだけか?まだ何か、隠してるんじゃねーのか?」
……ふぇぇ??
「……つ、作ったスキルはいっぱいある、けど……。」
「あー、それは俺の鑑定管轄外。お前が能力を使って作ったスキルじゃなくてな、本来お前が持っていた方のスキルだ。」
「……わっ、分かんない……。」
「あのなぁ?確かにデミ能力のスキルは一つだ。だがな《スキル作成》はちゃんとお前が持って産まれた能力だ。デミじゃあない。なのに、なぜスキルが一つしかない?分かってると思うが本来、スキルってのは誰しも最初に3つ持っているものなんだよ。能力レベルが上がるにつれて順次増えていき、最終的には通常スキル15つ、加護スキル5つの合計20つになるんだ。なのに何でお前スキルが一つなんだ?レベルMAXなら、20つ全部あってもおかしくないくらいだろう?……つーかそもそもお前、『スキル作成』のスキルが【スキル作成】ってどういうこっちゃ?『スキル作成』能力の初期スキル3つは【スキル錬成】【魔方陣召喚】【スキル表示】のハズなんだが……。」
──スキルは最初に3つ。
──レベルが上がればスキルは増え、最終的には20つ習得。
──『スキル作成』の初期スキルは【スキル錬成】【魔方陣召喚】【スキル表示】であるハズ……らしい?
〈スキルの概念を認識。一部知識の定着を確認。凍結されていた能力スキルが解放されます。〉
〈【スキル錬成(Lv60)】習得しました。
【魔方陣召喚(Lv60)】習得しました。
【スキル表示(Lv60)】習得しました。
【素材鑑定(Lv60)】習得しました。
【スキル図鑑(Lv60)】習得しました。
【調合素材枠増加 (Lv40)】習得しました。
【素材加工(Lv60)】習得しました。
【素材感知(Lv60)】習得しました。
【スキル付与(Lv60)】習得しました。
【基礎身体値増強(Lv40)】習得しました。
【スキル鑑定(Lv60)】習得しました。
【スキル映写(Lv60)】習得しました。
【スキル贈与(Lv60)】習得しました。
【品質関知(Lv40)】習得しました。
【スキル還付(Lv60)】習得しました。
【素材生成(Lv60)】習得しました。
【素材採取量(Lv40)】習得しました。
【スキル改編(Lv60)】習得しました。
【スキル破壊(Lv60)】習得しました。
【祝福(Lv40)】習得しました。〉
〈暫定スキル【スキル作成(Lv60)】の消失──失敗。今後も使用が可能です。〉
ズラズラーと現れた灰色のウィンドウ。
私は、その最初の一部分を読み上げる。
「凍結されていた能力スキルが解放……?」
「……はぁ!?」
私の呟きを拾ったネロはその途端、急に慌ただしく空中を操作し始める。
そして──。
「あーイチイチ面倒くせぇ!こっちの方が手っ取り早いか……ほらセツ、さっさと許可出せ!」
〈ネロさんから《アキ》へのステータス情報の閲覧申請が来ています。許可しますか? Yes/No〉
私が〈Yes〉を押せば、ネロの前にはまた薄茶色のウインドウが姿を見せる。
---
アキ / ?? / 女 / 2-3-1
スキル作成 Lv199
体力適正 83%
魔力適正 4600%
スキル経験値軽減 0.76倍
スキル経験値倍率 98倍
スキル一覧
・スキル作成 (Lv60)
・スキル錬成 (Lv60)
・魔方陣召喚 (Lv60)
・スキル表示 (Lv60)
・素材鑑定 (Lv60)
・スキル図鑑 (Lv60)
・スキル加工 (Lv60)
・素材感知 (Lv60)
・スキル付与 (Lv60)
・スキル鑑定 (Lv60)
・スキル映写 (Lv60)
・スキル贈与 (Lv60)
・スキル還付 (Lv60)
・素材生成 (Lv60)
・スキル改編 (Lv60)
・スキル破壊 (Lv60)
・調合素材枠増加 (Lv40)
・基礎身体値増強 (Lv40)
・品質関知 (Lv40)
・素材採取量 (Lv40)
・祝福 (Lv40)
---
「今取得したのに全部レベルMAXかよ!!!……はぁ。お前だもんな。まぁいいわ。」
──『まぁいいわ。』って。その言い方、何なのだっ!!ぷぅ。
「にしても、このタイミングでスキル解放か。……まさか、お前も記憶喪失なのか??」
う?それ、前にも……。
「…………違うけど。……それ、前にも聞かれた。なんでそう思うの?」
「いや、能力ってのは幼少期に発現するんだがその時はリミッターが掛かっていて、ちゃんと使えるようになるのは成人した12歳からだろう?その時点ではちゃんとスキルは3つ以上あるはずだ。」
ほー。
「だが、何らかの身体的ショック、もしくは精神的ショックが加わると、例えば自分に関する情報を忘れたり、周りの人間の事を忘れたり、自身の能力に対する記憶、または能力自体も欠損することがある。これが所謂、記憶喪失ってやつだな。お前もそうだろう?」
「どうだろ。」
「例えばお前これ。お前、自分の年齢分かるか??このアキの容姿を見る限り、10代前半……成人したてっぽく見えるんだが……。」
そう言いながら、ネロは一番上の<アキ / ?? / 女 / 2-3-1>と書かれた行の“??”の部分を指差す。
たぶんそこが、年齢なんだろうな。……年齢か。年齢ねぇ。
「分かんない。」
いつぞやにパニクった後、落ち着いた後に考えてみたんだけど、結局分からなかったんだ。こっちの世界に来た時、あっちの世界が何年何月何日だったのか。それが分からない。ここ数年、ずっと────たから、日付の感覚があまり無かった。西暦何年だったかすらも曖昧なんだ。
もうすぐ××年だ~!と言っていたかと思えば、既に××年になっていて。もうすぐ○○年だ~!と言えば、すぐに○○年が来た。私が追い付けないほどに、1年という時間はあっという間に過ぎていったんだ。
だから今がいつで、自分が今幾つなのか。考えてみてもやっぱり分からないんだ。
「じゃあやっぱ、記憶喪失なんだろ。」
「抜けてる所はないと思うんだけどねぇ。」
「忘れている事も忘れてるんじゃねーか?」
「そんな事無いと思うんだけどなー。」
何でそんなに私を記憶喪失にしたいのー?ちゃんとたぶん恐らく記憶はありますぅ。ぷすぅ~。
「まぁいいわ。それよりさっきから気になってたんだがな?」
突如、腕をグイッと引っ張られたかと思えば、次の瞬間目の前にはイケメンの顔面があった。エメラルド色の瞳が、鋭く真っ直ぐに私を射抜いている。
そして、その真っ直ぐな視線を遮るように、灰色のウィンドウが現れた。
〈ネロさんからステータス情報の閲覧申請が来ています。許可しますか? Yes/No〉
「・・・・・・許可を出せ。」
低い声と共に、半透明なウィンドウの向こう側からギンッと鋭く威圧的に射抜いてくる瞳。
そんな彼の唐突な豹変に怯え、私はウィンドウの〈Yes〉を選択する。
すると、エメラルド色の視線は少し逸れ、少しの間空へ向く。
その間も、腕は強く握られたまま。──そして。
「……なあ、これはどういうことだ?」
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オリジナル人形(サキ)
材質:Unknown
所有者:アキ
備考:空腹(OFF)
睡眠(OFF)
疲労(OFF)
汚れ(OFF)
老化(OFF)
濡れ(OFF)
感情(OFF)
表情(OFF)
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……バレた。
『最初から、どーにもテンション低い様な気がしてたんだが、ま、プライベートに土足で踏み込んでる様なものだし、機嫌悪くても仕方ねぇとは思ってたんだが。』
むぅ!!
……でもまぁ確かに、おやつに喜びつつも言動の棒読み感は否めないなー、とは自分でも思ってた。うん。
「ただでさえ分かりにくいのに、感情切られたら何も分からねーわ。これも、何も反応無いし。」
そう言って、ネロは未だ掴んだままの私の腕を持ち上げて見せる。
……ま、いつもだったら容赦なく塩で押しつぶして、即追い出してるだろうけど。今は、むっすー!!って思うだけで終わるよね。
何て言うか、私の中の中心ではちゃんといつも通りキャピキャピしてるんだけど、それを包みこむように冷たい私が俯瞰しているような、そんな感覚。
甘々の餡子をお餅で包んだら甘くなくなった、みたいな。……違うか。
「……切っちゃダメなの?」
「いつものお前の方が良いと思うぞ?」
「…………。」
……それはなんだか。……なんだか。
…………何て言うかこう、《私》を否定されているようで。
「なあ、ちなみにさ?もう一個聞いて良いか?」
「……なぁに?」
「これは何だ?」
奥から4番目。アキ、セツ、サキの、その隣。そのカプセルベッドには深緑色の布がすっぽりと掛けてある。
「それはダーメー。」
「今のうちだったらお前怒らないだろ?ちょっとだけ、チラッとだけだから。……な?」
焦らすようにそーっと、深緑色の布に手が伸ばされていく。
そして、その指先が布の端に触れ──
「「ダメっ!!」」
その瞬間、身体がカッと熱を持ち、私のような私じゃない声が発せられる。
そして、目の前には次々にログが表示されているような……。と思えばスッと意識は暗転した。
〈スキル【モード】発動。『サキ』は自我を取得しました。〉
〈『サキ』はスキル【絶対の防壁】を取得しました。〉
〈『サキ』はお人形傘下から離脱しました。〉
〈お人形の消失を確認。お人形の空きを検索──『セツ』に移動します。〉




