んっ、圧勝展開が良いの。
『クッソー。もっと手加減しろよ、イズミ。』
おーちの前、エリアの端。
いつぞやの溶けたでろでろはすっかり消え、瑞々しく新しいツルを伸ばしたアサガオの本体は、前と変わらす青紫の花を一輪咲かせている。
「マスターの敵は私の敵。私は貴方相手に、一切手を抜く気はございません。」
『いや別に、敵じゃねーし!』
「マスターに危害を成す危険人物が、敵ではない、と仰るのですか?」
『危害なんて加えてねーし、危険人物でもねーよ。っていうかオイコラ。呑気に何食ってるんだ?お前も何か言えよ。』
「……う?」
なんか面白そうだなぁ、って思って、ニンジン食べながら眺めてただけなんだけどなぁ。
『「う?」じゃねぇよ。お前、コイツのマスターだろ。きちんと指導してくれや。』
むーん。
そう、言われてもなぁ。
「……え、えっと、ペチャンコに叩き潰して?」
「承知しました。では……。」
そう言い、スッと手を上げるイズミちゃん。
『オイ、ちょと待て!その手はなんだ。俺の上に翳すな!……もしやお前、俺を物理的に潰す気か!?止めろ、マジで!』
「とまぁ、冗談はこれくらいにしまして。」
『冗談でもヤメロこら!』
「さて、お次は何に致しますか?トランプ、オセロ、囲碁、将棋、チェス。何でも受けて立ちますよ。」
『ぐぬぬぬ。』
圧倒的強者って、見ていて心地良いよねぇ。
私、ハラハラドキドキの手に汗握る逆転劇~よりも、最初っから最後まで隙無くコテンパンにする展開の方が、私は好き。ピンチとかいらん。
『……は!そうか、それなら。……クククッ。』
んー?どうしたんだろ。
遂に、負けすぎて頭狂った?
それとも熱中症かな。塩分はちゃんと取らなきゃダメよ?厄付きアサガオなんだから。
『……なぁ、イズミ。“スピード”って知ってるか?』
「スピード……ですか?」
『あぁ。台札の数字に連なるカードを場札から出していき、先に自分の手札を全て出せた方が勝ちってゲームだ。』
「承知しました。受けて立ちましょう。」
キリリとしたお返事を返すイズミちゃん、とっても格好良い。
『良いのか?これはスピードが勝負だ。さっきまでと違って、チンタラ考えている暇は無い。……それに俺は、この4本のツルを存分に活用させて貰うぞ。……あ。これ一応、俺へのハンデな?』
うわっ、ずるぅー。
「……構いませんよ。」
む、むむぅ。
了承しちゃうのか。
ぬーん、ぬーん。なんか……。
イズミちゃんは、頭が良い。
頭は良いけど……素早さってあったっけ。
ホタルちゃんを追いかけるのだって、頑張って走って追い付くレベル。イズミちゃんの身体能力は人並みだと思う。
対してネロは、手数が4倍。
……むぅ。イズミちゃんピンチ?
『よし、いくぞ。スピード!』
いつの間にかゲームが始まっていたみたい。
かけ声と共に、両者が動き出す。
ネロは手札を持つツル1本を残し、3本のツルを器用に操ってカードを出していく。――うん、よく考えたらハンデは4倍じゃなくて3倍だったわ、テへ。
そしてイズミちゃんの方は……。
イズミちゃんの手さばき、ヤバい。見えない。
ネロが“タタタッ。”って感じだとすると、イズミちゃんは“シュババッ!”って感じ。
この感じ、なんかデジャブだ。
そういえば、イズミちゃんってさ“人間ミシン”さんだったわ。……あ、お人形さんだから“人形ミシン”かな?
イズミちゃん、裁縫する時もこんな感じにシュババッ!ってしてるのを思い出した。
とっても高速なの。縫う手が見えないの。
イズミちゃん、素早さも持ってたんだなぁ。
凄いなぁ。
『マジ、あり得ねぇ。なんだこの差は。』
1ターン目が終わった時点で、勝負はとっくに付いていた。
イズミちゃんの場札、残り1枚。
ネロの手札、残りたくさん。
『ズルか。ズルだな。ズルだろう。』
「負け犬が何か言っています。」
ビクッ――。
『うるせぇ、さっさと終わらせ――ん?セツ、どうかしたか?』
「え?あ、何でもない……。」
突然、目の前に赤いウィンドウが出現し、思わず体が跳ねた。
けれど、それに目敏く気付いたらしいネロの問いを、咄嗟に私は否定していた。
点滅するウィンドウ。
ビィー、ビィーと、うるさい警告音。
「えっと、私ちょっと用事出来たから……じゃあね!」
『は?ちょ、待てオイ!』
私はそう言い捨て、おーちへ逃げ込む。
その間も相変わらず、赤く点滅するウィンドウはうるさい。
私の心臓もうるさい。
ねぇ、何これ、ちょっと待って。
意味分かんないよ!めっちゃ怖い。
《【F1洞穴エリア】にて侵入者を感知しました》
《所持エリアに危害を加える可能性大と判断します》




