んっ、侵入者はポイッしたいよ。
……んぁ。
むぬーっ、むぬーっ。
お目めパシパシ。ふわぁー、はふ。
むにゃ。なんか寝てたっぽい。何でだろ。
……ん、何故か毛布掛かってるし。
…………。……むーん。
まぁいいや。それよりさ!!早くお塩持って行かなくっちゃ。みんなを待たせたまんまだよ。
……っていうかお塩なんて、現地調達で良いじゃん?何で気付かなかったんだろ。
……緊張して、あゎあゎして。
まともに思考出来なかった自覚がある。
イズミちゃん達も何か言ってくれていた気がするけどさ、ごめんね、全く覚えて無いや。
モシャっとした髪を手櫛で整え、慌てて外へ飛び出す。
アサガオの場所に辿り着けば、そこにはアサガオ以外に誰の姿も無かった。
『おー、小娘。遅かったな。何処に行ってたんだー?』
むぅ、小娘て。ふぬぅ……。
「えっと……。あれからどれくらいの時間が経ったか、分かる?」
時計はウインドウ画面でチラ見したけど、そもそも寝落ちたのがいつだったのかを私は知らない。
この場所は、常に昼。故に、『夕方だった!』『夜だった!』とかいう大体の時間すら把握出来ないんだ。
『さぁなー?時間を計る物がねーから分からん。』
うん、だよねー。
……にしてもさ、何で寝ちゃったかなぁ?私、睡眠とか必要ないし。眠くもなかったし。
『おめーさん、疲れてたのか?』
う?そんなワケ無いけどなぁ。ま、良いや。
「……で。」
このアサガオは嫌い。今すぐ引っこ抜いて、お外に捨てたい。ポイッしたい。
でも出来ない。
――だってコレには、自我があるんだもん。
引っこ抜いてポイッすれば、きっとこの人の中で、私の存在が強く印象に残ってしまうんだろうな、なんて。
だって、恨むじゃん。当たり前じゃん。
私は嫌なんだ。誰かの印象に強く残るってのは。
だから私は、この人を前に手を出せないでいる。
手を出す勇気が、無い。
――で。
「なんで、あなたはココにいるの?」
この場所に、私以外が通れる出入口は無い。ココはある意味、密室状態なんだ。
だから、どこから来たの?……って、そうじゃないね。
これはきっと、私の植えたアサガオ。その中に、この人が居るんだ。
この人は、アサガオに取り憑いたのか、それともアサガオに自我が芽生えたのか。……たぶん、吸い込まれる様な形で取り憑いたんだとは思うけど。
『なんでって、そりゃこっちが聞きてーよ。』
うん、そうだよね。……って、そうじゃなくて。そうじゃなくて。
……なんて言うか。……私はこの人に、“居て欲しくない”んだ。
『なんだ?おめーさん、俺が白髪だBBAだ言った事、まだ怒ってるのか?俺はただ、思った事を素直に言っただけd…………あ、いや、本当スンマセンでした。どうか堪忍してくだせぇ。』
「……んー?」
高圧的な態度が一変。アサガオは土下座でもする様に、ヘニャリと地面へ倒れ込んだ。
……はて?何、急に。
アサガオはヘニャリとしたまま、『スンマセン、スンマセン……』と謝罪を繰り返している。
……何が起きたのか、よく分かんない。
でも……。
でもなんか。
……なんか嫌だ。
目の前の人から『謝罪』という“強い感情”を向けられているこの状況に、ゾワゾワする。
――ねぇ、何で謝るの?よく分からないけど、それはたぶん誤解だよ?貴方には私の何が見えてるの?……嫌だ。怖い。
白髪呼ばわりは『むぅー!!!』なんだ。でもそれよりも、怖さが勝る。
「……えっと。急に、なぁにー??」
怯える感情を塗り潰す様に、コテンと首を傾げてみせる。
意味もなく謝らないでよ、怖い。
『…………へ?……あぁ、スマン。』
顔を上げたアサガオは、呆けた様に呟いた。
そして数秒黙った後、堪えきれなくなった様に言う。
『なぁ、酒くんね?』
「ん?」
『酒をくれ。』
「……どんな?」
『辛いやつ。』
「辛いやつ?……ってどれ。」
私、お酒飲んだ事無いもん。分かんない。……たぶんこの前出した、日本酒、ビール、ワインのどれかだとは思うけど。
『……透明のやつだ。』
「ほー。」
日本酒かな。辛いのかー。へぇ。【クリエイト】っと。
『あー、あと、グラスに穴があると助かるんだが。』
「うん??」
穴?……穴なんて開いてたらこぼれるよ、な?
『これに、これのココが付いたやつで頼む。平たいと掴みにくくてな。』
そう言って、見せられたのは日本酒を入れたシュッとしたコップ。それと、空のビールジョッキ。
……んーと、えーっと。
コップに『取っ手』が欲しい、って事かな?――“穴を開けて欲しい”ってのは、“取っ手が欲しい”って感じだよね。
ふむふむ。
……あ。マグでいいかな、マグカップ。
ん?マグカップで日本酒?……まっいっか。私は知らない。気にしない。
【クリエイト】っと。
「はいー。」
『おー、サンキュー。』
日本酒の入ったマグを差し出せば、アサガオは器用にツルを絡ませ、受け取った。
そして花へ向かってコップを傾けると、お酒は不思議と花びらの中に消えていく。
『カーッ!やっぱり酒は良いねぇ。お代わり!』
「んっ。」
『くぅ〜。全身に染み渡るぜぇ。』
んっ。
なんか。なんだか。
……幸せそうなアサガオに、ちょっぴり腹立つ。……むぅ。
ちょちょいと【クリエイト】してみたものを、手のひらでコロリン、コロリン、遊んでみる。
『おー?お前さん、なんだそりゃあ?』
「んー?お塩だよー?」
立方体の固形物。
角砂糖の様に固めてみたコレは、“お塩”。
だってサラサラ状態だと、簡単に指の隙間からこぼれ落ちちゃうじゃん?
だから弄びやすい様に、固形化してみたんだ。
「……これ、掛けてみたらどうなるかな。」
『あ?俺にか?勘弁してくれ。』
本気で嫌そうにツルを振るアサガオに、ムクムクと悪戯心が芽生える。
「……ねぇ。あのさ、私の髪色ってどう思う?」
『あ?あー。……言われてみれば確かに、銀髪と言えなくもない、か?』
「…………んっ、えぃ!」
私は少し迷った後、手に持った固形の塩を投げた。
宙に投げた瞬間、固形化していたはずの塩はサラサラと崩れ、アサガオの上に舞い散る。
『オイ?!おま……ぐあっ。』
……むぅ。
また、BBAだの白髪だの言うと思ったのに。
そしたら、心置無く投げつけてあげれたんだけどな。……迷っちゃったじゃん。
迷った結果。期待した回答じゃなかったからって事で、投げておいた☆
『てめぇ、なんだよコレ。塩じゃないじゃねーか!いやマジ、死ぬかと思ったわー。痛っ~。』
「掛けても枯れない特別仕様のお塩、わざわざ作ったんだよー?」
【クリエイト】で、チョチョイっと。
嫌がらせ用のお塩。
通常は角砂糖みたいに固形化してるんだけど、宙に投げればサラサラの状態に戻るんだ。
掛かれば痛いけど、植物の身体に影響は無い感じで。
『アホか!無駄な技術だ。』
「ニヘヘ~。」
――良きツッコミです♪
『いやいや、褒めてねぇし。』
「んっ~♪」
――良きツッコミ、2連続ですね!
んっ、機嫌直った。
良きツッコミのアサガオなら、ここに居させてあげなくもないかもね!
ようやく3章本格スタート。




