んっ、着せ替え人形だよ?
前話のあらすじ。
モフさんを着よう!
うむ。慣れ親しんだ感じだね。
おーちに戻ってモフさん着てみたら、やっぱりいい感じー。今すぐダラけたくなるねぇ。
たゆーん、たゆーん、とユラユラしている中、ふとポケットに手を突っ込んでみたら。……おや?何かある。
指先に当たった、コロコロとした小さく硬いもの。
取り出してみれば、……んー?ビー玉とアサガオの種?各々が一つずつ。
反対のポケットには、フルーツ味の飴が幾つか。
何でこんな物が?とも思うけど、理由は分かるよ、うん。覚えてるもん。
フルーツ飴さんは召喚される前日におやつに貰ったのを突っ込んだだけだし、ビー玉さんは家具の隙間に転がってたのをたまたま見つけて綺麗にし、後で片付けようとポケットに突っ込んだんだ。
アサガオさんはアレだね。昔、小学校の授業の一環で育てたアサガオの種の一つだね。当時『これ、私のだもん。』って全部自分の引き出しに入れておいたのね。それから数年後のいつぞやに『もういいや、植えないし。』ってすっかり思い入れも無くなったもんだから、玄関近くにある、雑多に植物の種なんか入れてる箱に移したんだ。
で、召喚される数日前。たまたま引き出しの整理をしてた際、隅っこに1個転がっているのを見つけたもんだから、後で種入れに入れとこーってポケット突っ込んだんだよ、うん。小さいしすっかり忘れてた。
……うーん。このアサガオさん、家の前辺りにでも撒いとこうかなぁ。
って訳で、おーちのお外。庭の隅っこに小さな穴を開け、その中にアサガオの種を落としといた。
【ウォーター】でお水ジャンジャン掛けて、どうか芽が出ますように!って。
だってさー、芽が出て、葉っぱが出て、花が咲いて、枯れ、種をつけたなら、種を倍加できるじゃん?
……ね?
“取り敢えず溜め込む”のが好きな私です♪
「マスター。少々宜しいですか?」
「うにゃー?」
おーちに戻ろうかなー?って足を向けた時、背後から声が掛けられた。
振り返ればやっぱり、イズミちゃんだぁ。
「私のエリアに来ていただきたいのですが……。」
「うんうん、行く行くー!」
イズミちゃんのエリアかぁ。どんなのだろー?ワクワク!
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「すごー!」
ドアを開けた先、そこにはちんまりした子供服が両サイドの壁際にズラリと並んでいた。
「ふわぁぁぁー。」
「お恥ずかしながら、私には趣味と呼べるようなものが洋裁くらいしかなく、また作成すればするだけ置き場に困り、この様な形に……。」
「あ、ねぇねぇ。これ、窓ってあるの?」
「3階の作業場には一応ありますが……。」
「見てみたい!」
「えっと、それは……。」
イズミちゃんは困り顔。むっ。
んーと。さっき確か、作業場って言ってたよねぇ。
作業場って事は色々雑多だよねぇ。私も、グチャグチャな部屋は自分以外に見られたくないや。
「んっ、嫌なら見ない。外がどうなってるか気になっただけだから。ねぇ、外に空間ってあるの?」
「え?……いえ。壁の外側に空間はありません。マスターに与えられた空間とこの部屋の広さは同一です。」
「ふぇぇぇー。」
凄いなぁ、凄いなぁ。
発想が凄いよぉー。
イズミちゃんのエリア。
それは、丸々お家になってた。
エリアのドアを開けた時、通常では草原が広がっている。真上には真っ青な空も。
お家があるとしたら、草原の中にポツンと建っているだろうな、と。私も実際そうだし。
でも、イズミちゃんのは違う。
エリアのドアを開けたらすぐ、そこは玄関なんだ。お家の中なんだ。服がズラーなんだ!
地面は草なんかじゃなくてフローリングで。
上も、空よりは低い、真っ白な天井で。
「3階の窓って、もしかしてペイント?」
「えぇ。上階の壁のを真似させていただきました。」
B1の四方を囲う、遠くまで続いている風壁紙ね!
なるほどなぁ。凄いなぁ、凄いなぁ。
あ。もちろん、たくさんのお洋服さんも凄いよ?
私、型紙と布があったってこんなに作れる気はしないし。そもそも着ないし。
……ただちょっと、ズラーな洋服さんよりも、イズミちゃんのエリアの使い方の発想に思考が全部持っていかれたってだけで。
「んー?そういえばなんか、若干モモちゃんっぽい服が多いような気がするんだけど?」
「使用している布量も多く、一着一着に厚みがありますからね。……それに、皆の中で一番、喜んで着てくれますし。」
ふぁー。なるほど。
モチベって大事だよね!すごく。
「それでですね、マスター。今のうちにマスターに着ていただきたい服があるのですよ。」
「みゃ!?」
呼ばれたのってさ、エリア拝見じゃなかったの?えっ?えっ?
「元々マスター用に何着か服を作成しておりましたが、納得の行くまで手を加えている間に着ていただける機会を逃してしまいました。現在、大きいマスター用の服も数点ほど用意しておりますが、もう少し調節が必要と思われます。
ですが本日、幸運にも小さなマスターをお見かけしましたので、是非とも完成した服を着ていただきたいという思いで声を掛けさせていただきました。」
あゎゎ。ちょっと待って待って。説明が長文過ぎて分かんない。
んーと、“小さなマスター”と“大きなマスター”って、アレだよね。小さなマスターが“アキ”、大きなマスターが“せつ”って事だよね?……いや、そこまで身長違う訳じゃないけど!?
取り敢えず、そのアキ用に服をコッソリ作っていたものの、私が急に“せつ”になったからダメになっちゃった、と。
で、今日偶々、アキと同じ体型の“サキ”に出会ったから、是非とも着てください!って感じ?
「え、ヤダ。」
じわじわ、じわじわっと後退り。
……いやだって、着せ替え人形されるのはこう、注目される系だから、恥ずかしいっていうか超苦手な分野というか。
「マスター、今度一緒にクロワッサンを作りましょう。……ね?」
「なっ!……パンの中ではクロワッサンが一番好きって事、私誰かに言った覚えないんだけど?!」
「あら、そうでしたか。偶々です。」
「ぐっ!?」
自分で墓穴を掘った気がする。……なんか悔しい。
「そうだ、マスター。冷蔵庫にプリンがありますよ。試着終わったら食べます?」
「……ぐぬぬ。」
プリン食べたい……。プリン……プリン……。
「ねぇイズミちゃん。提案があるんだけど……。」
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カシャ、カシャ。
「次は、こうしてこうして……。」
カシャ。カシャ、カシャ。
「マスター。次の服へ行きます。サキさん、青ピンの所まで歩いてください。」
「はいはーい。」
一足先に、私は2階への階段を駆け上がる。更衣室は2階の一角、ズラリと並ぶお洋服に隠されて存在していた。
――不思議だよねぇ。
最初に扉を開けて入った部屋、玄関があったその階は、実は2階だった。
3階は作業場、1階は撮影スタジオになっていた。
普通、扉を開いた先は地続きのハズ。ならば2階が1階で、1階は地下を掘ったの?……そうじゃないらしい。
何でも、エリア内の扉の座標位置をズラしたとか何とか。その為、1階の床と廊下は同じ高さにあるのに、扉を開ければそこは2階という、摩訶不思議な現象になっている。……ちょっと、私には原理がよく分からないや。
まぁ良いや。それよりも。
1階の撮影スタジオ。さっきまでそこで“サキ”の写真を撮っていた。
無機質な瞳の彼女が、イズミちゃんに操られるままポーズをキープする姿を、私は傍観していたんだ。――“せつ”として。
――私の提案はこう。
脱け殻じゃ、ダメ?と。
“私自身が注目される”のが嫌。着せ替え人形という見世物にはなりたくない。
けれど、“サキが着せ替え人形にされているのを傍観する”というのならば、全然平気なんだ。だって、こっちに視線は来ないし。
サキが脱け殻になるその代わり、カメラでの撮影も許可した。……写真は嫌いだけど、私自身を撮ってる訳じゃないからやっぱり平気なんだよなぁ。っていうか、サキは普通に可愛いから写真は分けてもらう予定でいるし。
サキにはもちろん、新しい機能を付けた。
脱け殻の際、『指底されたピンの場所まで歩く』『バランスを保ち、じっと立っている』の2つ。
写真撮影の際のポーズはもちろん、イズミちゃんにマネキンの様に動かされる。
……でも、地味に凄いよな。私なら、あらぬ方向に捩っちゃいそうだよなー、と思ったり。
撮影中は傍観者の私だけど、ずっと傍観者でいる訳ではない。
サキとして、新しい服に着替えるのは私の担当。……だって、脱け殻さんじゃ、着替えるのは厳しいんだもーん。
先に“サキ”を更衣室の中に入れ、“せつ”である私は倒れない様にひじ掛けのある椅子に座る。そうしたら“せつ”から抜けて“サキ”の中へシュルシュルりん♪っと。――更衣室の中なら人目が無いから、らしくもない服を着ても耐えられるのです。うー!!
あっ。コレ、またヘアアクセ付きだぁ。こういうのはやっぱり、外側からやる方が良いよね。
サキからせつへ、シュルリンちょ。
学生時代、髪は自分で結ぶよりも……こう、パコッと頭取って、他人の髪を結ぶみたいに自分の髪もそうやって出来たらなぁ、って思ってた。だって、自分じゃ上手く出来ないんだもーん。不器用だから、全然左右対称じゃなくなる。
……でも、そうだよねぇ。
こうやって分身なんかすれば、自分の髪を好きに弄れたりするんだよねぇ。もちろん逆も出来る。
それに、伸びた髪を切るのだって、分身した状態ならとっても楽に出来るよねぇ?髪切るのって、自分一人でやると毎度毎度かなり苦労するんだよ!……え。美容院?ヤダ、無理。
あー、でも。お人形の髪が伸びたら、それはそれで怖いか、うん。伸びない設定にしてあるし、余計に。
「マスター、出来ました?」
「うんー。こんな感じでどーう?」
「良いですね。……後はここを、こうしてこうして――。」
すっごい手際の良さ。単にシンプルだった髪型にアレンジが加わっていく。
……私もこんな風に、出来るようになりたいなぁ。幸いにも練習台はあるんだし、練習してみようかなぁ。――あ、ごめん。無理。私、センス無かったわ。
「メイクも良し。では撮影に行きましょう。サキさん、赤ピンの所まで歩いてください。」
あら、可愛い。サキちゃん可愛い。
フワリと広がる純白のドレス。
背中に背負った薄水色の羽根。
緩くウェーブのかかった髪には大きなお花。そして所々には黄色とピンクの小さなお花が編み込まれている。
妖精さんだぁ、可愛い。
サキちゃんってばホント、何を着ても可愛い。
自分で着て鏡を見た時とは全然違う感想が出てくるんだから、やっぱり他人事って凄い。サキちゃん可愛い。
後日、“せつ”も着せ替え人形に&撮影もされましたとさ。
せつちゃん可愛い!(他人事)
お人形ちゃん達にとって、
あれもマスター、これもマスター、それもマスター。
中にマスターが入っている方がマスターです。
それが何か?
という認識。
っていうか、イズミさんや。
“マスターの着せ替え写真”を特別大切に保存してるみたいだけど、
君ってそんなキャラだったっけ?
……え??『“クールに見えて実は主人が大好き過ぎる変態従者枠”は私のものです。』っていや、それどういう事だぃ?(困惑)
え?……あ、シノブちゃんまで参戦して来ないで!?『お前より自分の方が主の事を理解している。』って!!そりゃ、影から常にストーカーしてたらね!?
……ん?『今回、イズミ殿のエリアには入る事が出来なかったのだ……。』って、そんな事。……え?ちょっと待って。なんで笑顔でクナイ研いでるの?それになんか、真っ黒いオーラが見えるんだけど、ナニコレ?……ヤダ怖い!
ん?イズミちゃん、何なに?
『……なるほど。シノブさんは“主人の為ならどんな悪事でもやってのける、ヤンデレ従者枠”ですか。』って、何それ怖い!!
ねぇ君達ってば、そんなキャラだっけ!!!(悲鳴)




