私、方向音痴だもん。
ぽつーん って。
立ち尽くす私は、焦ってた。
――道、分かんない。
お城、迷路だもん。誰かさんのせいで、皆と逸れちゃったんだけど。
頭の中真っ白で、心の中でワタワタ。
背中に嫌な汗かく。
「お前、ここで何をしている?」
はわ!?
横の通路から、騎士さんに声掛けられた。
「ん?……迷子にでもなってたのか?」
コクリと頷く。……ヤバい。心臓バクバク。
「目的地は客室だよな?」
「(コクリ)」 たぶん、そうだよね?
「番号は?」
「……?」 えぇーと?
「部屋番号だ。」 ハッ!なるほど。
「……お前は確か、207だったか?」
あ、先に言われた。……確か、男部屋が100~。女が200~だったっけ。で、7つあるグループの、私は7番目。
「(コクン)」 正解です。でも何で分かったんだろ?
「行くぞ、こっちだ。」
手ぇ掴まれた!……なんか複雑。……嫌悪は無い。それが不思議。
騎士さんは大股でズンズン進んでく。私も歩くの早い方だけど、さすがに負けるから小走りで着いてく。
途中すれ違う人に、興味有り気にチラチラ見られた。怖かった。
部屋にはサクッと着く。
『迷惑かけたかも……。』って、申し訳なさが止まらない。
『じゃあな。』って、部屋の前で騎士さんは去ってった。廊下には他に誰もいない。だから今は一人。でもまだ、心臓バクバクしたまんま。頬が火照って熱い。
……人、怖いっ。
滅茶苦茶怖い。人怖い。……こんな重症だったっけ?いつの間にか、悪化してたのかな。
とりあえず、部屋の中に入る。
「あ、マキちゃん。どこ行ってたの?心配したよ?」
ニコリと声を掛けてくれる糸川さんに、私は曖昧に笑む。
「マキちゃんのベッドは一番下だけど、良かったかな?」
八重鈴夏ちゃんが二段ベッドの上段から下を指差す。
「勝手に決めちゃってごめんね。」
私は『大丈夫だよ、了解。』という意味を込めて、笑顔を作って彼女に頷く。
私のグループは女5人男2人だから、私達の方は5人部屋。二段ベッドと三段ベッドがそれぞれ部屋の両壁側にある。
三段ベッドの方は下から、糸川さん、世良愛菜ちゃん、中野さん。
私は下段のベッドに滑り込む。
……なんか落ち着く。
薄暗くて狭い空間、好き。
ベッドの上段に憧れてたけど、下段で良かった気がする。
心臓も、少し落ち着いてきた。
でも騎士さんへの『迷惑だっただろうな。』って気持ちが消えない。罪悪感でチクチクする。
『自ら進んで連れて行ってくれたのだから、たぶん迷惑とは思ってないんだろうけど……。』って思うけど、でも無理。チクチクは収まらない。
『私がいなければ……。』酷く、消えたくなってくる。
――マップ。
ゲームのマップ的なのがあれば、きっとたぶん恐らく迷わない……だろう。……私方向音痴だけど。地図見たって理解できない人だけど。
【マップ】|《半透明のウインドウに周囲の地図を表示する。縮尺は任意で変更可。》
マッピングは面倒だから全自動で(笑) 私、全て埋めたくなっちゃうタイプだもん。1mmでも空白あれば、それがストレスになる。だから、最初からそんな機能は付けないっ。
【マップ】 使用、発動。
……何となく、眺めてみる。
青色の透明ウィンドウに、白い線で壁が表示されてる。
私を示すのは赤色の三角。……ここは4階みたい?
各階層を選択して見れる。便利。
一部の緑の点は忙しなく動く。……これは私以外の他人。
……糸川さん達に、チェック付けておこうかな?
見分けが付くように。
糸川さんに薄黄色。
八重鈴夏ちゃんに橙色。
中野さんに栗色。
世良愛菜ちゃんに朱色。
《チェック付きの元緑点を指定すれば、プロフィールの表示》も追加。
どの緑点かわからないけど、今まで接触した人も、無理矢理入れておこっ。
万能なスキルさんに丸投げして、どこにいるか検索してもらう。
同じグループの、おっさんな鍛冶屋さん。(名前忘れた)金属っぽく、灰色。
同じグループの、男子学生さん。能力が盾槍の子。制服のネクタイ青かったから、濃いめの青色。
……むぅ。ウィンドウの青色と被って、なんか見にくい。
ウィンドウの色、黒にしよっ。
んで、モヤシさん。能力は鑑定眼で、色は黄色に。
あとは……。
オタ豚さんは茶色。
王様さんは紫。……の、服着てたし。
……あ、名前聞いてきた騎士さんは……水色? 歳→成人→お酒→日本酒?→水色、な連想(笑)
時間は戻るけど、卵みたいな機械の人は若葉色。若葉みたいな髪色だったような?
豚大臣さんは淡いピンク。肌色みたいな色。豚色。
演劇説の人は薄茶色。これも髪色で決めた。
大宮議員は薄灰色。事務所っぽいような。
ギランギランの金持ち女性は蛍光紫。
これで全部かな?……あ。
迷子の案内してくれた騎士さん。……焦げ茶色かな。部屋のドアの色。
〈既に登録済みです。情報を追加しますか?〉
はわわ??
確認すれば、名前聞いてきた騎士さんと同一人物とか!?
……あゎゎ。
……恥ずい。消えたい。うぅー。
……あ、迷子のお礼言い忘れてた。
もうやだぁ……。