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私、勇者召喚されたみたいだけど、異世界に来たからって何かが変わるワケじゃない。  作者: たんぽぽ
第二章 ねぇ、一人でいる方が幸せだと思うけど。
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ねぇ、思い出したよ。

カタリと、何か小さな物が外れる回。


――あぁ、やっぱり。


適当に森をふらつき、狩りをしていた私。今日はずっと、何か違和感があったんだ。

目の前には、大きく広げたマップウィンドウ。マップの東南方向に、黒(ふち)の赤点。そして、移動している赤点が向かう先には、緑の点が6つ。


緑色の点は人間。赤色の点は魔物や魔獣。

赤点の縁が黒なのは、その個体がヤバいくらいに強いって事。


――つまりは。ここから東南方向にて、とあるパーティーがヤバい個体に追い掛けられているー、んだと思う。



……行くだけ行ってみよっと。

だって、気付いてたのに死なせるとか、嫌だし?


それに。…………それに??



――うん、何でもない。


現実味の無い淡い考えをかき消すように、私は東南の方向へ走り出した。




----------


6人を追い駆けるのは、体長が5mくらいの人喰い植物さん。

太い茎。そこから伸びる多数の蔦。

てっぺんには赤く丸い一輪の花。蕾を開けば、中では鋭い牙がギラリと光ってる。

足元は無数の根っこ。一本一本、各々が地面を蹴って走ってる。

……案外速いんだけど、足である根っこ達がワサワサ、ウヨウヨしていて正直気持ち悪い。


アレに追いかけられるとか。――おぞましいなぁ。

ホラーだろうに。




「あっ!」


「リリーっ!!」


あ、女の人が転けた。大きな人喰い植物さんは、すぐそこまで迫ってる。……あのままだと、パックンチョされるかもねー?



「クッソ!【斬撃】ぃ!!」


おぉー。頑張るのか。

まぁそれでも変わらず、後ろに庇ってる女の人ごとパックンチョされそうだけど。



『グォォォ!!』


女の人を庇いながら振るった男性の攻撃が、どうやら効いたらしい。人喰い植物さんは甲高い声で叫び、怒りを露にする。

――意外と声、高いんだねぇ。思ってたのと違ってて結構違和感。



「ショウ!ボーッとしてないで動け!今のうちに逃げるぞ!」


「あ、あぁ……。リリー、大丈夫か?走れるか?」


「私は大丈夫。ありがと。行くよ!」


そう言って、二人は手を繋いだまま走り出す。――仲良いのかな?恋人……いや、両思いのすれ違いだったら面白そう。そういうの、小説の定番だよね!



「【(ファイヤ)(リング)】!!これは足止めです。早くこちらに!」


人喰い植物さんの周りには、輪投げをしたみたいに、炎の輪っこが出現する。


その間に逃げていく人達。

――うんうん、早く逃げた方が良いよ〜。バイバイ。


ちなみに、人喰い植物さんは追いかけない。その場から動けないでいる。……火、怖いのかもね?



さーてと。


逃げるパーティーを見送った私。

炎の輪っかはすぐに消えそうだったから【捕縛∞秒(他人指定)】をしておきまして。



マップを確認。あの人達が確実に居なくなってから片付けようね。


緑の点は森の外へ向かって順調に走って行く。…………あ、あれ?立ち止まった?

そして、散開していた仲間との距離を縮め、一ヶ所に固まり出す。まるで、作戦会議でもするみたいに。


……あっ。え?今、ゆっくりとだけど、こっちに戻って来た?何で!




「なぁ、やっぱり追い掛けてこねーぞ。」


「足止めの魔術も、既に効果は切れています。にもかかわらず、動こうとしないのには何か訳が……?」


ごめんなさい、ごめんなさい。追いかけて来ない事を気にして、だから戻って来たんですね!?そんな大した事ではないので、早くお家に帰ってくださぁい!




「……よし。倒すか。」


「「えっ。」」


……えっ!?あゎゎわ。



「こんな珍しい魔物、きっと十分な金になるぜ?動かない今がチャンスだろ。」


「ちょっ、まっ!刺激したら動き出すかもしれな……っ!」


「【桜乱斬舞】っ!!」


女性の言葉を無視し、一人突っ走る男性からは白く輝く刃が大量に放たれる。それは何十本の触手(つた)を切断し、茎を裂いていく。

だが人喰い植物さんはピクリとも動かない……っていうか、私のせいで動けないんだけどさ。


おや?っとなった仲間も恐る恐る攻撃をし始め、それはだんだんと勢いを増していく。

最後にはもう、フルボッコだった。



想定外の事態に思考が固まり、何も出来ないでいる私が見守ってる中、人喰い植物はそこそこ時間をかけた後に討伐された。


「ウェーイ!楽勝!!」


「俺達サイキョー!」


「うるさい、馬鹿共!今回は偶々運が良かっただけよ。ホント、抵抗されたらどうなっていた事か。」


「同感です。あの程度の魔法で、この魔物が動けなくなる事など有り得ません。何かしら別の要因があった事は確かかと。」


「この幸運、神に感謝を。」


「……。(コクッ)」


男女6人のメンバー達は各々に喜びを分かち合っている。

硬直から立ち直った私だけれど、やっぱり私は隅で突っ立っているままで。



興奮が少し落ち着いた後、徐に一人の男性が倒れた人喰い植物に近付く。

そして、持っていた短刀を突き立て解体を始めた。


一つ部位が剥がれる度、仲間からは歓声が上がる。



「って、おい!コレ、魔石だよな?……マジか。こいつ、レア魔物じゃなくて魔獣だったのかよ。」


一際大きな声が上がり、会話の盛り上がりが増す。

――でもさ。



(ねぇ。)


立ち尽くし、ボーッとその状況を瞳に映すだけの私に、会話の内容は入ってこない。

ただなんか――。



「粗方回収したし、そろそろ帰るか。」


「そうだねー。」


「おい!今夜は肉食うぞ!肉!」



……楽しそうだね、なんか。

――でもそれはやっぱり、私とは世界が違くて。


ボーッとマップを眺めていれば、今度こそちゃんと帰ってったみたい。

無事に森を抜けてる。


この場に残ったのは、人喰い植物さんの残骸。

……ふぅん。こういうのって、放置するんだ?……貰っちゃおうか。【昇華】と。





(……ねぇ。)


煙のようなモヤが鎌首をもたげる。

そんな情景を幻視すれば、途端にモヤモヤとした煙が心の中、辺り一面に広がっていく。

それは徐々に濃度を増していき、妙な気持ち悪さを覚えて。











――ねぇ。



溢れた。






(ねぇ。ねぇ。ねぇ、ねぇ、ねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇ……)


溢れて溢れて溢れて溢れて。




「ねぇ。」


口からポトリとこぼれた言葉。

一人言なんて、滅多に呟かないのに。



……あぁ、でも。

続く言葉は、とてもしっくりと来て。



――それは、久しぶりに訪れた感情。

見ないふりして、隣の部屋に閉じ込めた『心』が、扉を蹴破って来て。



(帰ろ。)



思い出したんだ。前にした誓いを。


そしたらもう、全部がどうでも良くなった。

――もう、期待なんてしない。



















 ねぇ、私はここにいるよ?



章タイトルの『ねぇ』をようやく回収。

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