私、少し違うみたい。
・今作ったグループはあくまで仮。合わなければ当人同士話し合いの末、変えてもらって構わない。
・グループごとに男女二つの部屋を与える。狭いかもしれないけど勘弁。
・1週間ほど訓練して、その後比較的安全な森に行って魔物討伐の実践。徐々に慣れていく。
元の召喚された部屋に戻れば、そんな説明を聞かされた。
その間私は、スキルを弄る。
だって、あんなに信じてなかった人達が素直に話を聞いてるんだもん。何でかなー?って思うよね。
で、『洗脳』ってパターンも小説にはあったから、【ステータス】で状態異常表示してみれば、ビンゴだった。
……うん。いや、洗脳じゃないんだけどさ。
『チャスノ知識付与』
『チャスノ』はこの世界の名称。『地球』と同じ。
名前そのまんまで、常識とかの基本を理解する。
・魔法や魔術の区別はない。
・人は生まれつき、何かしら『能力』を持っている。
・魔族とは理性ある者。
・魔物とは理性なき獣。
・魔族には2本の角が生えている。
・魔族の国が一つ、獣族の国が二つ、エルフ族の国が一つ、人族の国が五つ、存在する。
・人は頑張れば空を飛べる。
……等々。そんな、この世界に生きる者ならば知ってて当たり前の『常識』。
魔法があるのが当たり前だから、皆は受け入れちゃってるのかな。……あれ?なんかそれ、洗脳と同じ気がする。
……私?私は半々な感じじゃないのかな?
元々、『異世界とか本当にあったらいいなぁ。皆が気付いてないだけで、どこか身近にあったりして?』程度に夢見てたし。
だから、洗脳もゆるーい感じだったりして?――いや、私の勝手な想像だけどさ。
で、ふと思ったのは、【状態異常耐性】のスキルでも作っておこうかなぁ?って。だって毒とか盛られても困るし。
《状態異常をレジスト。発動時通知。》
……あ、まだ空き作ってないからセット出来ないんだったね。まぁ、いいけど。
「俺、この城出ていくわ。」
粗方説明が終わった後の質問タイム。
そんな事言って立ち上がったのは勿論オタ豚さん。なんか既視感?
曰く、自分は足手まといだろうから一人で気ままに暮らしていくそうな。尚、ハーレムメンバーは勧誘できなかったらしい。
以下、オタ豚さんのステータス。
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名前 大田屯勝
年齢 42
性別 男
体力 1
魔力 1
器用さ 1
能力 ポイント制
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ぷくく。名前、名前!ジタバタ。オール1っ!うくく。ゼェゼェ。
……でも、『ポイント制』ってきっとアレだよね?ステータスにポイントを振っていって強くなる奴。それ、十分チートじゃない?
あ、テンプレ如く俺TUEEEEがしたいのかな?一人離れていた彼はいつの間にか、皆より実力の差が圧倒的に上回っていた……的な。
ま、ステータス開示は本人からの口頭だし。若干嘘ついてたりしてね?……あ、でも記録した騎士さんもここにいるから無理かなぁ?
あ、ちなみに出ていく事を王様はOKしたみたい。
少しのお小遣いも一応あげるっぽい。オタ豚さんの要求額よりも圧倒的に少ないけどね。
で、城に眠っている武器や鎧も要求してたけど、『無能なお主に扱える訳がない。』って事で、上手く断られてたよ。うくく。
でも王様達も、結構譲歩したんじゃない?って周りは言ってたなぁ。魔王退治をする気がない奴に、お小遣いあげる時点で十分。
一応、元の世界での未来を壊した慰謝料的な名目だそうな?あのオタ豚さんに、元の世界で未来なんて無さそうだけど?……偏見かな。
で、オタ豚さんはその日のうちに、恨み?を込めて周りを睨みながら出ていきましたとさ。
空はオレンジ。下町までは歩いたら時間掛かるらしいけど、今日は宿に泊まれたのかな?うくく。
そんなこんなで私達も解散。
「ねぇ、君。ちょっと良いかな?」
流れに沿って歩いていれば、急に肩を掴まれた私は緊張で体を硬直させた。
短い人混みは、すぐに前へと過ぎ去っていく。
立ち止まっている私の前に回り込んで来た男性は、なんかモヤシみたい。
「僕、志岐浩二って言うんだけど……。」
――何、何?何の用?
真っ白になりかけの頭は、そんな感情しか出てこない。
「単刀直入に聞くけど、アキちゃんは洗脳の影響をうけてないよね?」
なんで、名前とか知ってるの?って。
ギュッと、心臓が縮む感じがした。……怖い。
「え?あ、えと、だ、大丈夫だから怖がらないで??」
なんで、……読まれてる??……嫌っ。
「(状態異常の欄がエライ事に……)ええと、僕の能力は『鑑定眼』なんだよ。だから君の名前もステータスも分かるというか……。」
えっ。じゃあ、作ったスキルとかバレてたりして……?
「えっと、あのね?……君と、あの出ていった大田って人の状態異常欄だけに、『チャスノ知識付与』っていうのがあってね?」
えぇぇ……。ゾワーってする。
あのオタ豚さんと、同類……。きっと、そう見られたんだろうなぁ。
「僕も最初は、そんな状態異常は無かったんだ。だって知識の付与をされている状態が正常だと判断していたからね?しかし君らのその状態異常を見て意味を理解した途端、僕にもその状態異常が現れた。」
「……?」
私は首を傾げる。……何が言いたいんだろ?
「僕の洗脳も解けたって事だよ。」
あ、首傾げたのはそれじゃないから……。
『分かってる。』という意味を込めて、私は頷いた。
「君達が何故洗脳に抵抗出来ていたのかは分からないが、少なくとも『自分達が魔王を討伐するのは当然の義務。その為なら何物も捨てる。魔王を討伐できるなら自分は死んでも構わない。』なんて考えはないだろ?抵抗し、異常と認識しているのだから。」
私は頷く。
確かに、そこまでの思いは無い。
「じゃあ君は、元の世界……地球、いや日本の、自分の家に帰りたいかい?」
王様さんの質問タイムの時、『元の世界に帰れるか?』と聞いてた人がいた。……この人だったのかな?
ちなみに王様の答えはイエス。魔王を倒した時に生きていれば、なんやかんやして帰れるだとか。
ちなみに、『元の世界に返せ!』とか騒ぐ人はいなかったんだよなー。『全部捨てる』って刷り込まれてるからなのかな?よくわからない。
――私は首を傾ける。
「……ど、どっちでも……良(いです)。」
緊張しすぎて語尾が消えていく。でも言いたいことは伝わったみたい。
もやしさんはあり得ない!!って感じに驚いてた。
「き、君は、元の世界に帰れなくても良いのかい?」
「……?」
それでも良いんじゃないかな。
帰れって言われたら帰るだろうけど……。でも別に、帰れなくても困らないと思う。
大事なものなんて無いし、思い入れも無いし、残してきたものも、心残りも無い。
……あ、一つだけあったかな。頑張って育てたゲームのアバターさん。……まぁ。もったいないけど、いっか。ただの暇つぶしにやってただけだし。
「そうか。」
モヤシさんは悲しげに目を伏せ、しかし数秒後には顔を上げる。
「僕は大事な人たちを残してきた。大切な友人や愛する家族。……だから、何がなんでも帰りたい。」
決意のこもった力強い瞳が、私を真っ直ぐに見る。
でも正直、私にはどうでも良い。『がんばれー(冷)』って感じになる。
「君の家族や友人も、きっと心配しているだろう。」
「……?」
元の世界での私達の扱いは、『いなかった事』になっているハズ。そういう常識。
だから、心配しているわけがない。
……あ、つまりゲームのアバターさんも消えちゃってるのかー。
「忘れているだけだ。僕らが帰れば思い出してくれる。僕らには、帰りを待っている人がいる。」
あ。 ……帰りたくないかも。
私の天秤はガタンと傾く。
「お互い、帰れるように頑張ろうな!」
『この人とは合わない。』と判断した私は、素直にコクリと頷く。
理解しあえない人と会話するのはツラい。平行線。無意味な努力。
思った通り、モヤシさんは満足したみたいで『ついつい長話してしまった』とか『そろそろ部屋に……』とか言って、去ってった。




