ねぇ、リア充さん相手は緊張しちゃう。
「マスターぁ。針に糸が通らないのですっ。」
……んっ。
「マスターぁ。ミシンの糸、掛けてくださぁい!」
あー、ハイハイ。
「マスターぁ。糸が絡まっちゃったのです……。」
……うん。どう扱ったらこんな風になるんだろ。
「マスターぁ。」
んー?今度はなぁに?
「出来ましたっ!」
そう言って、モモちゃんは精一杯作った物を私に差し出す。
……んんん。
縫い目はガタガタ。布の切り端は処理せずそのまま。ミシン目が曲がって、所々縫い合わさってないし。……それにあれ?フリフリたくさんじゃなかった?ギャザー入れないの?上から布を貼り付けただけみたいになってるけど大丈夫?
……っていうかそもそもがアレだった。
布一枚だった。ピラッと前の部分だけだった。
あの。……これ、エプロンですか?紐を付けて後ろで蝶々結びする感じですか?
昔テレビで見た、前から見るときちんとスーツ着た人だけど、後ろから見るとパンツ一丁な感じのアレですか?前しか服着てない感じのやつですか?
確かに形は長方形に台形をくっつけた感じになってて、見た目ワンピースっぽいけど……。
――えぇっと。
「……綿花、余ってる?」
「はいなのです。まだいっぱいあるのですっ!」
「……ちょっと待っててね。」
私はシャワー室の脱衣室に避難する。
……いやだって、私が地下で身を隠せる場所ってここくらいだし。誰かに見られているのって落ち着かない質だから、つい。
……モモちゃんが針に糸を通せない時点でさ、なんか不安だなーとは思ってたんだよ。
でもなんか、作ってる本人は目がキラッキラしてるし。
『……大丈夫?』って聞いても『大丈夫です!モモに任せるのです!』とか言われたら、それ以上は何も言えないって!!
ゲームのNPCはシステムから外れた行動を出来ないように。
NPCとして作った(はず!)のモモちゃんも、想定外の行動は出来ない感じなのかな……。
――っていうか服ってさ、たぶん型紙から作るべきだよね。うん。
型紙と布と説明書があれば、私も服くらい作れるよ!だって手順通りに縫うだけだもん。でもその型紙は無いし説明書だって無い状態じゃ、完全にお手上げだよねぇ。私だってそれじゃぁ作れないもん。
ってワケで。
新しい人形を【クリエイト】。
何でもこなせる頭の良い子。高スペック。しっかり者の委員長的な感じでお願いします。色は水色。髪型はストレートロング。……合成繊維のような綺麗な髪。真っ直ぐで羨ましい。
【クリエイト】したお人形さんの瞼が、ゆっくりと開く。
大きくて透き通った青い瞳が、真っ直ぐに私を見た。
「はじめまして、マスター。」
あ、……ぁぅぁぅ。あゎゎ。
見詰め合い、沈黙。
……あのの、えっとっと、あわわわあぅあぅ、えっとその、はゎゎゎ。
「…………どうやら。……なるほど。私の初仕事は、モモさんの服を作る事で宜しいですか?」
「……!!(コクコク)」
「了解しました。では早速行ってきます。」
…………。
パタンと扉が閉まってから数分後。
ようやく私は息をつく。
……アレはリア充の瞳だった。
社交的で誰とでも話せて、正にクラスの中心にいる存在だよ、絶対。
はゎゎゎ、あぅあぅ。
思い出しただけで緊張ががが。うががが……。
へなへな、へなりん。
もうちょっと、ここに閉じ籠っていたい。
…………。
でもなー。
キノコさんから落ちたピカピカさん、もう少し取って来たいと思ってたんだよねー。もう数時間したら夜になって、今度は狼さんの時間だし。
……んっ。
ササッと行けば、あの水色ちゃんに会わないと信じて!
可愛いお洋服は任せたっ!
私はお外に行ってきませう。
べべ別に、あの娘に会いたくないからってわけじゃないからね!?
農園ゲーム=自給自足が基本。
可愛い服は【クリエイト】しちゃえば良い!という発想は、この時のアキちゃんには無かった模様。