私、疲れたみたい。
【影鎖】
太陽の下。
ギィン!と嫌な音を立て、自身の影から伸びた鎖に絡み付かれたビッグベアーさんはその場に足を止める。
「今!」
中野さんの声を合図に前衛3人と八重鈴夏ちゃんがビッグベアーさんに飛び掛かり、フルボッコを始めた。あ、ちゃんと中野さんに【闇属性攻撃力UP(他人指定)】と八重鈴夏ちゃんに【打属性攻撃力UP(他人指定)】は掛けといたよ。うん。
洞穴を出たすぐ入り口付近。太陽の光が差し込む場所。
闇属魔術に『影』が欲しいからって事で、途中から戦場は変わった。『影』を使えば魔力効率も良いらしいし。
……移動時に遭遇するはずだった魔物達は、予め私が美味しく戴きました。ご馳走様です。
「離れて!」
中野さんの声に、4人はサッと距離を開ける。十分に距離を取ったのと同時に、鎖が弾け飛んだ。漆黒の破片がガラスみたいに輝いてて滅茶苦茶キレイ。あー!お絵かきしたい。追加のSS戴きましたぁ!3回目だから、似た様な構図ばっかりだろうけど。
ビッグベアーさんが『ブォー!!』って吠える。怒ってるみたい?周りの空気がビリビリ震える。
……あぁ。動物の叫び声も、なんか無理っぽいです。苦手です、ハイ。……早くお城に帰りたい。お部屋さん帰りたい。お布団の中に逃げ隠れたい。耳塞いでジッとして、そのまま寝落ちしたい。
ギィン!って音がして。
見れば、若騎士さんが吹っ飛ばされてた。『あひょー!』って感じに飛ばされて、そのまま空中で一回転。方膝をついた状態で『ズズズー』ってブレーキして止まる。うん。無駄に格好つけてる感。……余裕なの?
でも、若騎士さんを飛ばしたビッグベアーさん、よろけてる?『ゆらゆらー』って、なんか酔っ払ってる感じ。戦闘の終わりが近いのかな?
――と、飛ばされた若騎士さんの代わりに片桐柊くんが前に出る。……なんかさっきから、片方が飛ばされてはもう片方が前に出て、片方が飛ばされれば前に出て、ってのを交代しながらやってるみたい?ゾンビ戦法的なやつかな?少し違うか。
「【挑発】っ!!」
「【千突き】」
片桐柊くんの挑発スキルに反応したビッグベアーさんの隙を突いて、先輩騎士さんが攻撃を入れた。……この人何気に、全然ダメージ受けてないような?強いんだなぁ。若騎士さんと違って。
「【聖なる稲妻】!!」
「【影炎】!」
上から雷。下から黒い炎。
地響きが半端無い。……大きい音、苦手なんだけどなぁ。
「ブモォォォーー!!」
まだ生きてる。タフだねぇ。
叫んだビッグベアーさんは片桐柊くんの方へ突進して行くと、前方に倒れ込み彼を押し潰す。
「【三連突き】」
あら。潰されたと思ったけど、片桐柊くん生きてた。
起き上がろうとするビッグベアーさんの額から、ブシャーって真っ赤な血が噴き出した。
「皆、逃げてぇ!!」
「鈴、障壁!早く!」
唐突に、糸川さんと中野さんが叫んだ。……え?何?
私が思わず2人を見た瞬間。
物凄い爆音と爆風が辺りを包んだ。
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風が止んで砂埃が落ち着き出す。
禿げた地面。周りには爆風で折れたらしい木々。
それらの中心には、大きなクレーターとうつ伏せになってるビッグベアーさんの死体。
「ははは。」
誰かの笑い声。
「フフっ。」
「ウフフ。」
「アハハ。」
「クスス。」
緊張の糸が切れたのかな。
つられて他の皆も笑い出す。
「いやっほーーう!!やったッス☆」
「フッ。」
騎士さん達まで嬉しそう。
「やったぞ!倒したぞ!ハハハ!」
「うん!うん!倒しました!倒せちゃいましたよ、私達!」
(ねぇ。)
――なんか、私だけ雰囲気に付いていけない感。
「アイの仇は打ったぁ!」
「頑張ったよ、私達!!アイちゃん、ちゃんと見てくれていたかな?」
「大丈夫だよ!絶対見てる。見ていてくれる。」
……ふぅん。世良愛菜ちゃんの敵、かぁ。
「やったッスね!まぁ、俺っちの功績が一番大きいッスけどねー!フフン。」
「調子に乗るな。」
「あ、痛っ!ちょっと先輩ー!」
あ、こっちは何かじゃれてる。楽しそうだね。
笑い合う皆はボロボロ。服は所々破けて、土とかで酷く汚れてるみたい。
でも楽しそう。すっごく嬉しそう。
日の光も若干オレンジで、まさに青春って感じ?仲間ってやつ?
――でも私は、端の方でただ突っ立ってるだけで。
(ねぇ。)
『……分かんないよっ!!!』
バキン!って。
盛大に、私の中の何かが折れた。――折れちゃった。
辛うじてバランスを保っていたものが、ガラスみたいに粉々に砕けた。
――思うに、色が違うんだよ。
私にも『倒せた。やったぁ!』って気持ちはあるよ。嬉しいよ。……けど。
……何かがズレてる。若干の温度差がある。
みんなを見てると、段々に冷えてった。
――私は“アイちゃんの敵”って程じゃないんだよ。そこまで真剣じゃない。緊張感持って真面目にやった訳じゃない。どっちかって言うと、ぬるゲーにして余裕で勝てる風にした犯人。真剣勝負を壊した張本人。
『分かんないよ。』
何考えてるのか分かんない。どんな気持ちかなんて分かんない。何も分かんないよ!
さっき、どんな思いで戦っていたかなんて、私は知らない。世良愛菜ちゃんが居なくなって、どんな思いをしたかなんて知らない。……うん、知らない。私は何も知らない。
世良愛菜ちゃんの事も、他の皆の事も。
……歳も誕生日も血液型も、好きな物、嫌いな物、あと家族構成とかも。なぁーんも知らない。
――私はきっと『仲間』じゃない。……ただのくっつき虫、かな。
……仲間じゃないから、死んだって悲しくないんだよ。完全に他人事なんだね。
世良愛菜ちゃんだけじゃなくて。
きっと他の誰が欠けたとしても、私は大して悲しまない気がする。
――仲間じゃない事は分かってた。
――色が違うことは感じてた。
でも、誰でも良いから仲良くなりたいって思ったけど……。
やっぱり上手く出来ないね。
他人と関わる事は、やっぱり私には向いてない。
異世界来たって、コミュ障が治るワケじゃない。私は私のまま。
根っこの部分は変わらない。昔と変わらず同じまま。
異世界行ったら私、変れるかな?とか思ってたけど、そんな事無かった。
他人が怖いままで、踏み出すのが怖いままで。
私なりに頑張ってみたつもりだけど、やっぱりまだ足りないのかな。
……でも、もう無理。
これ以上、私は頑張れないよ。
なんか一気に疲れた。
少しだけ潤んだ視界。
【気配遮断】をセットして、私はフラリと樹木の影に隠れる。
――でも、ダメ。すぐにいないってバレる。
【残り香(物指定)】《付けた場所のすぐ近くに私がいるように錯覚する。》作成。
どこに付けようか。……目が止まったのは高倉さんの鞄。いつもプラプラしている巾着。取り出しやすい様にって、鞄の外側に括り付けてある奴。
使用、発動。
私は少し後退る。もう一つ後ろの樹木に隠れる。……呼吸が苦しい。うまく息が吸えない。
「ケホッ、ケホッ。」
結構大きな咳。我慢出来なかったけど、でもバレてない。【気配遮断】様々。
「ケホッ。ケホッ、ケホッ。……うぐッ。……ケホッ。」
咳が止まらない。……ただの、なんちゃって過呼吸だから。嘘咳だから。止めようと思えば止まるはず、……だよ。……なのに、何で止まらないのかな。
コントロールが出来ないまま、少ししたら自然と落ち着いて。
でもまだ心臓はバクバクしてるし、胸の辺りは若干ゼィゼィするし、咳のせいで涙が2、3滴溢れちゃったし。
ひとしきり落ち着いた頃、皆の方をそっと覗く。
笑顔だった。嬉しそうだった。楽しそうだった。……やっぱ、あそこは違う世界。
「そろそろ戻ろうか。」
ほっこりとした雰囲気の中、糸川さんの言葉に皆は頷く。
そして、ビッグベアーさんを解体してから、皆は集合場所の方に戻っていった。
私はそれに付いていかない。付いていけない。
もう、あそこに居ることは出来ない。限界。無理。
みんなの姿は遠くなり、やがて木々に隠れた。
――私がいない事に気付かないまま。
……ん、そうだ。【残り香(物指定)】《機能追加》
《私がいない事がバレれば自動キャンセル。》
ついでに、皆へ掛けてたスキルもキャンセル。
きっと、もう会わない。会いたくない。
だからバイバイ。って。
1章終了です。お疲れ様でした。




