私、乾いていく。
部屋に帰って、私は真っ先に下段ベッドに滑り込む。
今はこの狭い空間が、私のお部屋さん。心休まる場所。
お布団を頭まで被れば、冷えた手先がポカポカしてくる。
【気配遮断】セット。
今はどうしても、この場に自分という人間がいる事に耐えられない。消えたい。いなくなってしまいたい。
『アンタ、ずっと笑ってなかった?』 『ニコニコしている様に見えた。』
目をギュって瞑れば、そんな声を思い出した。
また、ゾワリと震える。
ふと気になって、私はベッドを抜け出す。
ベッドから離れた場所、小さな机を囲む糸川さん達3人は、楽しく談笑してるみたい?
私はソッとそばを通り過ぎ、洗面所にある鏡の前に立つ。
相変わらずの変な顔。何処をどう見たら可愛いなんて思えるのか不明。“女の可愛いは当てにならない”ってヤツなのかな。“男の可愛い”も、対して違いなんて無いだろうけど。
私は鏡の前で、口をギュってしてみる。一応、涙を堪えるフリ。
――あ、確かに。
若干口角が上がって、唇が弧を描く。笑ってる様に見えても不思議じゃないかも。
……やっぱり、難しいなぁ。
ワクワクしてたら『悔しい事でもあった?』って聞かれるし、“うげぇー”って憂鬱だった時は『少し疲れたよねぇ。』って話しかけられたし。いや、元気だけども?って思った。
……何なんだろうな。意図的、無意識、どっちにしても変な解釈されるとか。ホント不思議。
「寝てるんじゃないの?」
「そう……かな?でも、気配が全く感じられないんだけど……。」
む?
中野さんの声と糸川さんの声。
「何処かに出掛けたのかな?」
「でも、扉は開いていませんよね?開けば絶対、気付きますし。」
八重鈴夏ちゃんの声もした。
「マキ……じゃなくて、アキちゃーん。寝てるのー?……うーん。ちょっとベッドの中見てみる。」
糸川さん?が立ち上がったみたい?静かな足音がする。
……私の聖域、が。
――ガラリ。
【気配遮断】を解除した私は、存在をアピールするように音を立てて、半分だけ開いてた扉を全開にした。
「あ、いた!マキちゃん。」
八重鈴夏ちゃんが、一番に声を上げる。
「アキちゃん!」
糸川さんが前みたいに『やっと見つけた!』って感じに抱きついてきた。
「あ、また間違えてた。ごめんね、アキちゃん!」
後ろで八重鈴夏ちゃんが、苦笑いで訂正してくる。
……別に慣れないなら、『マキ』のままでいいのになぁ。――そう思うけど、やっぱり私は言えなくて。
「絢子、さっきからなんか変じゃない?その子の事ばっか気にしてる。」
絢子って、糸川さんの下の名前かな?たぶん。
……うん。言われてみれば、名前の間違いを訂正された後くらいから、何かそんな気がする。私の存在なんて気にしなくていいのに。
「うん、そうだよね。……何か、アキちゃんが見える所にいないと、どうしてか落ち着かなくて。」
抱きしめた腕を緩めて顔を上げ、真正面から私を見つめてくる糸川さん。茶色の瞳が不安げに震える。
「……アキちゃんは、居なくならないでね。私はもう、仲間を失うのは嫌なの。」
――こういう時、普通の人ならどんな反応をするんだろう。
必要とされてる事に喜ぶ?
大丈夫だよ、って慰める?
笑って頷く?
――私、は。
……心が抉られる。
プルプルで柔らかなプリンを銀色のスプーンで掬ったみたいに。何の躊躇いもなく、いとも簡単に。でもゴッソリ抉られる。
理由は分からない。……けど、怖い。
――この人、怖い。
感情が凍る。頭の中が真っ白になる。
機能を停止した私。
――いつの間にか糸川さんの隣に座って、談笑に混じってた。
って言っても、ただ座って、たまに頷くだけだけど。
ただ、何でか逆らえなくって。
でも、すっごく怖くって。
無理矢理笑顔になってみせる私は、また手足が冷たくなるのを感じてた。




