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私、現実逃避してるのかな。

お葬式するんだって。



甚大な被害を出した魔獣、ビッグベアーさん。

今回の件で、死者は世羅愛菜ちゃんを含めた計7人。ちなみに全員、勇者組みたい。


ビッグベアーさんが『比較的安全な森』にいるなんて、普通あり得ないんだって。

だから、こんな被害は想定外。国側も『こんな筈じゃなかった……orz』って感じみたい。有益な人物を失ったとかなんとか。




最初にビッグベアーに遭遇したのは5人のグループ。身構える暇も無く、不意を突かれた襲撃、そして壊滅。

騎士さんが頑張ってメンバーさん達を庇いつつも、全滅の危機。その時丁度、引き返してきた6人グループさんと鉢合わせ。こちらも身構える事無く襲撃。かなりの劣勢へ。


そこへ世良愛菜ちゃん登場。

少し遅れて他のメンバーも到着。もう一つのグループと騎士さん集団も集まって、何とか拮抗状態に……だとか?


そんな状態だったみたい。みんなが話してるのを聞いた程度だけど。



ビッグベアーを討伐するには、最低でもそれなり以上に戦える人が4人以上集まったグループじゃないと無理みたい。それも対一の場合。

今回はビッグベアーが2体とキングベアーが1体。キングベアーはビッグベアーの上位種で、強い4人以上のグループが3つ必要な程度だとか?半端ない強さって事だねぇ。

今回は、ビッグベアー1匹討伐するのが精一杯で、後の2匹は追い払うだけに留めたんだって。圧倒的に不利な状況での、最大限出来る処置だったとかなんたら。



その証拠に、最初のグループは壊滅。4人が死亡、残った1人と頑張った騎士さん2人が重症。2番目のグループは2人が死亡、メンバー2人と騎士さん1人が重症。私達のグループは1人死亡、2人重症。最後のグループは1人重症。

まぁ重症って言っても、お城に運ばれた後に魔法でチョイチョイとすぐに治ったみたいだけど。でも死者は生き返らない、と。



『比較的安全な森』今は封鎖されてるし、

討伐隊が組まれ始めてるからそのうちなんとかなるみたい。




で、お葬式するんだって。


私には、面倒だなぁ。って感想しか出てこない。

だって、絶対暇じゃん。待ち時間多そうじゃん。すごく退屈なんだろうなー、って。



……パーティーメンバーだった世良愛菜ちゃんが死んだのにね。……瀕死のビッグベアーが、最後の力を振り絞って出した『ドッカーン!』に巻き込まれたんだってさ。直前に誰かを庇ったとか何とか?……全部、周りの会話を聞いた程度の情報だから、正しい情報かなんて知らないけど。糸川さん達は知ってそうだけど、やっぱ聞けないなー。温度差があるんだもん。


うん。メンバーが死んだのに、私は何も感じないんだよねー。

私以外のメンバー5人は仲間を失ったショックでションボリしてるのに、私は特に何の感情も出てこない。

現実逃避でふわふわしてるだけなのかなぁ?

何か、完全に他人事なんだよねぇ。なんでだろ?




----------



「つか、魔物に殺られて死ぬとかダサくね?俺は絶対嫌だわー。」


「健くん、その言い方は余り良いとは言えないよ。……しかし、君のその言葉は一里あるかな。強いとはいえ魔物ごときに負けるようじゃ、魔王なんて倒せるわけがないだろう?結局彼らは、弱い側の人間だったという事だろう。」



お葬式に出る為に、ほとんどの勇者組が集合している場所で。

……とある二人の会話に、なんか空気が冷えた?


あ、『ほとんど』って言ったのは、今回の件で精神を病んだ人が数人いる訳で……ってのは、今はどうでも良いかな。


二人の言葉に、さっきまでざわざわしてたのに、急に静まり返って。……なんか、空気がトゲトゲしてる?



「やっぱそうだよな!……チッ。遭遇してたのが俺らなら、サクッと倒してやったのによ。」


「そうだね。もしかしたらこんな事にはならずに、全員無傷で帰って来れたかもしれないのに。」



周りが注目してる事に、気付いてないみたい。片方の男性は不満そうにボヤいて、もう片方の男性は悔しそうにしてる。


――えっと……何かのフラグ??



「そうだねー。貴方達の行き先が反対側で、ホント残念だねー。もし貴方達が出会ってたなら、アミが死ぬ事は無かったかもー。」


誰か分からないけど、間延びした女性の声。感情の無い棒読みで、言葉が若干刺々しい……かな。

うーん。でもこの2人って、かなり強いグループの人達じゃなかったっけ。


「おぉ。やっぱ、そうだろ?俺らも討伐隊に加えて貰えるように頼んでみようぜ!」


「ちょっと、健くん!!」



「――そして死ね。」


周りの空気に気付いたのか、女の子が『健くん』を止めようと声を上げ、そしてさっきと同じ声に遮られた。


みんなが注目する先には、丸い眼鏡を掛けて手には分厚い本を持った、背の小さな女性。まさに大きな図書館の一番奥で、本の虫していそうな見た目。本が山積みされた中心で、一日中、大量の文字を貪ってそう。その女性が、捲し立てるように言葉を発す。


「アミの代わりに、貴方達が死ねば良かったんだよ!アミは弱くない。アミは優しい、他人を思いやれる。貴方達みたいに、死者を馬鹿にしたりしない。なんで貴方達みたいなクズが無事で、優しいアミが死ななきゃいけなかったの?貴方達、アレを倒せるんでしょ?だったら早く倒してきて!アミを返してよ!」


無茶苦茶な言葉を投げつけて、その人はその場に泣き崩れる。それを、隣にいたもう一人の女性が支えた。

そして、注目される二人の女性を庇うように、男の人が一歩前に出る。



「……お前らにとっては他人事かもしれねぇけど、俺らにとって死んだ奴らは、大切な仲間なんだよなぁ。だから居なくなったら悲しいし、馬鹿にされたら怒るだろ、普通。」








……仲間が死んだら悲しいんだ、普通。


……じゃあ、悲しいとか思わない私は?



お葬式の間、ずっとそんな事をボンヤリ考えてた。


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