私、結構ギリギリかも。
夕暮れ時。
極力気配を薄めた私は、お城の庭を彷徨く。オレンジの光が周囲を染める中。歩を進める度に足元から、芝生のサクサクとした小気味良い音がする。
サクサク、サクサク。だんだん楽しくなってきた。
しばらくして辿り着いたのは生け垣の角隅。
眩しい夕日はちょうど遮られて良い感じの場所。
レッツ、お絵かきタイム!
座り込んだ私はウィンドウを出す。
お絵かき用の画面とペン、見本のSS。それと誰かが来ても分かるように【マップ】も。
シャカシャカとペンを動かす。
徐々に浮き出てきた葉っぱが、やがて厚みを帯びていく。柔らかく咲いた花がフワリと笑む。
幸せな時間。
……大丈夫。まだ大丈夫。
こんな素敵な時間があるから、私はまだ壊れないでいられる。
砂漠の中の、唯一のオアシス。
――大丈夫。まだ、頑張れるから。
私はせっせと、ペンを動かす。
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部屋に帰る道すがら。
『大嫌いなその声』に、私は思わず立ち止まる。
T字の廊下。直角に曲がったすぐの場所に、数人の女達がいる。……言い争いと言うよりは、一人を数人で囲んで一方的に罵ってるのかな?
――怒鳴り声が大嫌い。
――ヒステリックな声が大嫌い。
――大きな声が嫌い。
――感情の乗った声が嫌い。
――人間の発す声が苦手。
嬉しそうな声、楽しそうな声はまだ平気。
泣き声、弱々しい声は少し苦手。
怒る声、責める声、叫ぶ声。……大嫌い。
別に、親が不仲だったワケじゃない。
怒られたのがトラウマってワケでもない。
でも、なんでか苦手。なんでか無理。
理由なんて、分からない。
切っ掛けなんて、きっと無い。
一層大きな声が、廊下に響く。私は思わず、自分の体を抱き締めた。
『使えない』『足手纏い』『能無し』
ねぇ。一人を複数人で罵ってさ。
――楽しいの?
――罪悪感は無いの?
――なんでドヤ顔出来るの?
不愉快。私には理解出来ない。
最近徐々に、周りの雰囲気が悪くなってる様に思う。
糸川さん達は優しいから平気だけど。
勇者組って全員が集められる時。……若干、居心地が悪くなる。