私、虫嫌いー。
魔ウサギ5匹指定。
【移動速度低下(他人指定)】使用、発動。
魔ウサギ3匹指定。
【移動速度低下(他人指定)】使用、発動。
魔ウサギ5匹指定。
【移動速度低下(他人指定)】使用、発動。
魔ウサギ5匹指定。
【移動速度低下(他人指定)】使用、発動。
魔ウサギ3匹指定。
【移動速度低下(他人指定)】使用、発動。
そんな風に、後ろで置き物してる間も私は機械的に、ひたすら『補助魔法』をかけ続けていた。
使っちゃダメなんて言われてないから。使いたいなら使って良いって言われたから。
こっそり、役に立ちたい。
『私だって、少しは貢献してるつもり……』って。
でも少し。
なんでか心がチクチクする。
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昼食食べて。午後の勉強して。
夕食前に、なんか呼ばれた。
知らない騎士さんに連れて行かれて、入ったのは白い部屋。大きな保健室?みたい。
「ごめんね、アキちゃん。急に呼び出して。」
入り口に突っ立ってれば、申し訳なさそうに声を掛けてきたのはグッタリ?した男の人。
「……?」
……誰だっけ?知り合い?
私は首を傾げる。
「遠いからこっち座って。」
そう言って、グッタリさんは手招きをした。
緊張しながら近付けば、ベッドの脇の椅子に座るよう促される。
引け気味ながらも言われた通り座れば、グッタリさんは少しだけ安心したみたいに微笑んだ。
……人の顔と名前を覚えるのって苦手だからなー。
ん。《指定したものの情報を半透明のウィンドウに表示する。》【鑑定】作成、使用、発動。
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名前 志岐浩二
年齢 32
性別 男
体力 3
魔力 2
器用さ 2
能力名 鑑定眼(Lv12)
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名前見ても、誰!?ってなったけど能力名見て悟った。……モヤシさんだった。
『勝手なあだ名:モヤシさん』を追加せねばッ!
ま、これは後で考えるとして。
「……?」
この人は何の用だろ。さっきから落ち着き無く視線を彷徨わせてる。
「その……。」
……言い難い事、なのかな?そんな感じする。
「……。」
1対1って、やっぱ嫌い。辛い。向き合って相手を見つめる、とか怖い。早く帰りたい。
「……えっと。……アキちゃんは、平気……みたいだね。」
……んん?
「……?」
うーん?何が?
「……目の前で生き物が死ぬ事。それは僕らが自らの手で殺したという事。……あと、その死骸。」
「……。」
グロ耐性の話かな。
グチャってした魔ウサギの死体は確かにグロいけど、でも私は元々グロいのは平気だったりするしなー。
「魔物だって、精一杯生きているんだ。……それらの命を奪うことに、抵抗は無いのかい?」
襲われたらこっちが死ぬ。死なない為に相手を殺す、ってやつかな。
家に入ってきた蝿や蚊はパチンする。
蜘蛛とかの虫さんも潰す。
うるさい。邪魔。来んな。ってなるでしょ。……こういう事?
家の近くに蜂が巣を作ってたら、駆除する。
ツバメなら、大抵放置じゃないかな。糞が邪魔なら駆除だろうけど。
害を為すか為さないか。
そういう事かな?
「魔ウサギは、わざわざ森で生け捕りにされて、わざわざ僕たちに殺されに来るんだよ。可哀想だとは思わないかい?」
「……?」
コテンと。私は首を傾げたまま。
「魔ウサギは繁殖力が強い。放っておけば、大災害になる。しかし、魔ウサギは魔物の中じゃ底辺。上位である他の魔物に命を狙われながらも必死に生きているだろ。」
……それは、人も同じ。全部の生き物が同じ。『殺される前に殺す』ってやつでしょ。
「……要するに。」
ん?
「……僕には『魔物を殺す』事への耐性が欠落しているんだ。」
……あー。たまに小説であったよね。『命を奪う事への抵抗感』みたいな。でもある意味、それが普通なのかも?普通に生きてれば、直接刃物で生き物を殺す事って無いから。
「『チャスノ知識付与』……あれを状態異常と認識したことによって、『すべてを捨ててでも魔王を倒す』という僕の洗脳は解けた。……しかし、それと同時に『生き物を殺す事への耐性』も解けてしまったみたいなんだ。」
へぇ。
……ん、確かに。みんなは普通に、グロいの平気でガンガンやってるみたいだしね。
「……アキちゃんは大丈夫みたいだね。良かった。」
安心したように微笑むモヤシさん。……自分みたいにならなくて良かった、みたいな感じなのかな?
でもそれって……。
『チャスノ知識付与』をレジストしてるくせに、生き物を殺す事に抵抗が無い。
……普通じゃない、んだ。
普通の人なら抵抗がある。……けど、私は抵抗が無い。
――私は『普通』じゃないから。……どうせ。
その後はなんとなく、当たり障りのない話になっていって。
結構時間が経ったみたいな時に、モヤシさんが部屋に帰るよう促してくれて、私は病室みたいな部屋から出た。……うん。正直、自分からは言えなかったからかなり有り難い。
それにしても、あんまり上手く相槌打てなくて申し訳なかったなぁ……。