恋は海を渡って~2
ローエンダイムから出港した船の甲板は、ぽかぽかと暖かい日の光に照らされている。シーツと椅子を持ち出して、ラビオがアンナローゼの髪を整えていた。
ナイフで乱暴に切り取られた髪はぼさぼさで不揃いだったが、ラビオは意外にも器用にハサミを使って切り揃えていく。
「ラビオは床屋さんもやってたの?」
「ガキの頃からなんでもやったさ。親がいないんで食うためならなんでも」
「例えば?」
「靴を磨いたり、馬の世話をしたり、庭師とか、料理屋にも勤めたな」
「結局、盗賊になっちゃったのね」
「喧嘩っ早くて長続きしなくてよ、いちばん稼げるとこに落ち着いたんだ」
そんな他愛のない話がアンナローゼには胸躍る冒険譚のように聞こえた。
「ほら、できたぞ」
ラビオがシーツを剥ぎ取り、海に向かってバサバサと振った。金色の糸のように美しい髪が静かな海へと光りながら散っていく。
アンナローゼは光る髪が風に乗って海を渡っていくのを微笑みながら見つめていた。
「ありがと、似合う?」
「ああ、いいとこの坊ちゃんみたいだ」
どうやら気に入ったようで、肩で切り揃えた髪をくるくると指に巻き付けて遊んでいる。
「ねぇ、ラビオ」
「なんだ?」
「キスして」
「あいよ」
ラビオはアンナローゼの額に唇を当てた。
「そういうんじゃなくて、ちゃんとした大人のやつ」
「やだよ」
「なんで?」
「おめえ、初めてなんだろ。そういう奴はたいてい泣くんだ」
「泣かないわ。ねぇ、お願い」
ラビオは周りを見回した。甲板に人気はない。
「しょうがねぇな」
かがみ込んでアンナローゼの唇に触れた。すぐに離れようとしたが、彼女はラビオの首に手を回して離れようとしなかった。
(こんなことどこで覚えてきやがる)
アンナローゼが手を離したので、やれやれとその顔を見ると口をへの字に曲げて額にしわを寄せている。
「ぶっ」とラビオは吹き出した。
「笑わないでよ」
「変な顔」
アンナローゼは泣くのを堪えていたのだ。
「うるさーい」
小さな声で抗議したアンナローゼの頭を、ラビオは抱え込んで胸に押し当てた。
「そんなみっともねえ顔を人に見せんな。俺が悪いことしたみたいじゃねぇか」
不意に二人の真上に黒い影が現れ、日の光を遮った。
バサバサと大きな羽音がして、大きな海鳥が甲板に降りてくる。そして
「やぁ、お二人さん、邪魔して申し訳ない」
海鳥は甲板に着地するとあっという間にケインの姿に変わった。
「邪魔だと思うなら来るんじゃねぇよ」
アンナローゼから急いで体を離したラビオが舌打ちした。
「僕もお勤めなんでお許しを。マチルダ様からの伝言です」




