60.未来のない世界
小さな部屋。
白い壁、鉄のベッド、小さな窓。
ここは刑務所だ。
僕はベッドに座っている。
何もない部屋。
静かだ。
未来を見る力があった頃、世界はうるさかった。
未来、可能性、無数の分岐。
全部見えた。
でも今は何も見えない。
ただ目の前の時間だけ。
それだけ。
「時間だ」
看守の声で僕は立つ。
作業の時間。
刑務所の生活は毎日同じ。
何年も、何十年も続く。
未来は見えない。
でもこの未来だけは変わらない。
――――
一方、街。
普通の世界。
テレビでニュースが流れる。
「能力者研究は中止されました」
政府の発表。
研究施設事件。
大きな問題になった。
能力の研究、兵器化、計画。
すべて消えた。
街の人は普通に生きている。
能力なんてない普通の世界を。
――――
一方、小さなカフェ。
れんは働いていた。
静かな店。
客は少ない。
れんはコーヒーを置く。
窓の外を見る。
「しょうた」
その声は誰にも聞こえない。
――――
ゆきは大学に戻った。
普通の学生。
能力の話はもうしない。
忘れるように普通の生活をする。
――――
一方、みき。
河原で石を触る。
過去が見える。
昔、誰かがここで遊んでいた。
みきは石を離す。
そして空を見る。
未来は見えない。
でもそれでいい。
そう思う。
――――
一方、刑務所。
夜になった。
僕はベッドに横になる。
小さな窓から星が見える。
未来を見る力。
あれは何だったんだろう。
もしあの力がなかったら、僕は普通の高校生だったのか。
普通の人生、普通の未来。
考えても意味はない。
もう終わったこと。
僕は目を閉じる。
ひなの顔が浮かぶ。
あの時、ひなは言った。
「しょうた。未来が見えない世界を作る」
そして本当に作った。
未来の見えない世界。
「ありがとう」
誰にも聞こえない声で呟いた。
静かな夜だ。
世界は未来を知らないまま進んでいく。
ゆっくり確実に。
それぞれの見えない未来へ。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました!




