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55.限界

 森の中。

 雨はまだ降っている。

 僕達は走り続けていた。

 もうどれくらい走ったかわからない。


 れんが息を切らす。


「もう……無理……」


 ゆきも膝をつく。


「足……動かない……」


 僕も止まった。


 胸が痛い。

 息が苦しい。

 体力の限界。


 未来が見えた頃なら、こんな逃げ方はしなかった。


 最短の道。

 安全のルート。

 全部わかった。


 でも今は違う。

 ただ走るだけ。


 れんが木にもたれる。


「しょうた、もう……終わりじゃない?」


 僕は答えない。



「警察まだ追ってる」


 ゆきは言った。


 遠くで犬の声がする。

 きっと警察犬だ。

 人の声がする。

 包囲は近い。


「しょうた、聞いて」


 れんは僕を見る。

 真剣な顔だ。


「ここで別れる」


 僕は首を振る。


「ダメだ」


「僕が囮になる」


 ゆきが驚く。


「れん!?」


「しょうたは逃げて」



「意味ない!」


 れんが笑う。

 少し悲しそうな笑いだ。


「意味あるよ。しょうたが生きるなら」


 沈黙が流れる。


 ゆきは泣きそうな顔だ。


「私も……残る」


 僕は首を振る。


「二人とも逃げろ」


「しょうた。ひなの為に生きるんでしょ」


 言葉が胸に刺さる。


 ひな。

 未来のない世界を作った。

 僕の為に。



「だったら最後まで逃げなよ」


 れんは言った。

 その時、遠くから声がした。


「いたぞ!」


 ライトがちらつく。

 森が明るくなる。


 警察がくる。

 もう近い。


 ゆきが震える。


「もう来た……」


 れんが僕を見る。


「行って」


 僕は動かない。



「行け!」


 れんは怒鳴った。


 僕はひなを見た。

 そして決めた。


「……ありがとう」


「バカ。捕まるなよ」


 れんは笑った。


 僕は森の奥へ一人で走る。


 れんとゆきが逆方向へ走る。



「動くな!」


 警察は叫んだ。


 ライトがそっちへ向く。


 二人が僕の代わりに囮になった。


――――


 一方、森の外、みき。


 過去を見る。


 数秒前、僕、走る方向。

 れん、ゆき、別方向。


「しょうた、一人になった」


 みきは言った。



「どっちだ」


 警察は言った。


 みきが森の奥を見る。



「こっち」


「主犯を追え!」


 無線で叫ぶ。


 警察が森へ入る。


 僕を追う。

 完全に僕だけが追われる。


 そして逃亡の終わりが近づいていた。

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