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漂泊のベノス  作者: ism
【第五部・漂泊者の帰趨】

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モナルカの消失

ハーズメリア王都へ向かう500人ほどはいるであろうモナルカに洗脳された者達の長い行列。

先頭のハーズメリア戦士団の中で団長の乗る馬を引くメキシオはふと我にかえったような感覚を覚えた。


(…ん?えっと、オレ何してんだっけ?ああ、ハーズメリア王都に行くんだよな。…何で?そうだ、メレラに何日か前に王都が破壊されて…)

メキシオは自問自答を心の中で繰り返す。しかし、記憶が朧気だったり完全に欠落してしまっている部分も多く、どうにも釈然としない状況であった。

チラリと隣で共に歩くスラドルの様子を窺うと、スラドルも同様の状態らしく不安そうな顔でこちらを見ていた。


「…あ、あのよぉメキシオ、オレなんか疲れてんのかちょっとアタマがぼんやりしちまってて。オレ達今からハーズメリア王都に向かうんだよなあ?」

スラドルは自信なさげな口ぶりでメキシオに確認する。

「お前も?実はオレも記憶が朧気でさぁ。なんかおかしいよな」

メキシオは今の状況を訝しんだ。


メキシオとスラドルの会話を耳にしていた戦士団長のアレディックが口を挟む。

「いや、お前達だけじゃない。情けないことに、俺もどういう経緯でハーズメリアに大人数で向かうことになったのか、どうにも思い出せんのだ」

アレディックは険しい顔で自らの眉間に手を当てて熟慮したあと、大きな声で後方の行列に指示を出す。

「皆の者!一時、行進をとめよ!」

そして、30名ほどの戦士団に申し伝える。

「今、記憶や意識が曖昧な状態にある者は申し出てくれ。先程より俺を含む数名に記憶障害のような症状がある。何らかの魔法による影響を受けている可能性が高い」


全員もれなく挙手をした。

アレディックは、う〜んと顎に手を当てる。

「…わかった。気分の悪い者は休んでくれ。支障のない者は手分けして行列の後続の者達に聞き取りを行ってくれ」

団員達はそれぞれ、白いローブの“光の手”教団の者達とカムラの村の村民達に話を聞いた。


「実は…みんな記憶が虫食い状態で…“光の手”に参加した経緯も全く思い出せんのです」

教団の古参と思しき男は困惑した表情で戦士団員に語った。大多数の信者たちは活動中の記憶が殆ど抜け落ちているらしく、はやく家に帰りたいと泣き出す女性や若者もいた。


行列の全ての人間たちの、“モナルカと接した記憶”の完全な消失。

これは、モナルカに隷属状態の人間に仕掛けられていた“忘却”の呪術が原因であった。


本来、ギルメルのような追っ手に対し隷属者が情報をもらしてしまう状況において発動するものであるのだが、モナルカ上位者たるディアボリカそしてジュデアやオルディーが死んでしまうという不足の事態が発生した場合も発動条件となっていた。


──例え現メンバーが全員潰えたとしても、世界のどこかにいるであろう、いつぞやまた目覚めるであろう異界の魔族の血脈・モナルカの芽を摘まれぬために。


もちろん洗脳されていた者達はそんな事を知る由もなく、記憶の欠落にただただ混乱するばかりであった。


カムラの村の者達はモナルカとの接点が殆どなかったため記憶の欠落は殆どなく、なんだかよくわからないまま付いてきてしまった程度の認識だったようで、不思議そうな顔をしながらぞろぞろと村へと戻って行った。


「おーい!みんなー!」

村へ戻ろうとする村人たちのところへ、ベノスに言われる通り避難していたカムラが駆け寄ってきた。

「おや、なんだカムラか。どうしたそんな急いで」

先頭にいた村長はキョトンとした顔で声をかける。そんな村長にカムラは、

「ああよかった、全員もとに戻ったみたいだな…って、それより村が」

カムラが集落の方を指さすと、民家が何軒か倒壊しそこから煙がまだ消えず立ち登っておりギルメルとジュデアの邪神の死闘の跡が残る状態であった。

「なっ?!何事だありゃあ!!」

驚き声をあげる村人たち。


カムラも自分が目の当たりにした白金のドラゴンと禍々しい巨大なモンスターの激突。

どう説明したものか悩んだが、村の人たちは信じられんだろうな…と考え、こう答えた。

「地震、すごい地震があったんだ!丁度みんなが出払ってる時に」



一方、戦士団たちも動きはじめる。

「ともかく、ここで立ち止まっていてもはじまらん。メレラに破壊されてしまおうがハーズメリア王都は俺たち戦士団が戻る場所だ。とりあえず向かおう。教団の者達も自由にしてくれて構わんが、王都まで同行するのであれば我々が身の安全は保証しよう」

アレディックは戦士団に再度王都へ歩を進めるよう指示し、教団の信徒たちも殆どがそれに従った。


メキシオは、あやふやな自分の記憶の中でひとつひっかかることがありそれをスラドルに打ち明けた。

「なぁスラドル。オレさぁ、何日か前アイツに…ベノスに会ったような気がするんだよな〜」

それを聞き、スラドルは驚きの声をあげる。

「いやオレもオレも!会った気がすんだよベノスに!でもよお、何やっててドコで会ったんだっけ?ぜんっぜん思い出せねーんだ!」


ディアボリカたちと密に交流があった戦士団の中でもメキシオとスラドルは特に記憶の欠落が多く、ヘキオン村での出来事はジュデアにコントロールされていたこともあり、ほぼ消えてしまっていた。


「だよな…会った気がするけど、なんも思い出せねー。記憶が曖昧だから二人揃ってただの願望を本当にあったように思ってんのかもしんねーなぁ…」

メキシオは少し寂し気に言うと、

「でもよー、オレなんとなく生きてんじゃねーかなってずっと思ってんだ。そう簡単に死ぬようなやつじゃなかったろベノスの野郎」

とスラドルは笑って返した。


「ははは、間違いない。ほとぼりが冷めた頃にデカいツラして王都に戻ってくるかもな」

騎士団少年部の頃を懐かしむような思いでベノスの話をするメキシオとスラドルだった。

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