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聶史  作者: 鍋島五尺
第1章
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山寺の岩 第14話

 泥蓮が山にはいって初めての新月のことです。闇の中、条眼和尚はひとり行灯を持ち、こっそりと寺を抜け出しました。たった一人泥蓮の身におきた真相を知っていた和尚にはあの不思議な音の正体がわかっていたのです。ですから、和尚が泥蓮を見つけ出すことは大変容易でした。音のする方へただ歩いていけば良いだけですからね。

 どうやって老人の和尚が元気いっぱいの少年ですら降りることのできない谷を超えたのか、不思議に思う方もいらっしゃるかもしれません。皆様の安全のためあまり詳しくはお教えできないのですが、実は谷底へ降り、また簡単に谷から上がってくることのできるルートが存在します。万が一谷で何かが起こった時に対応できるよう、本寺の管理者だけが知っている道でございます。とはいえ、入念に調べればもしかすると見つかるかもしれませんが、安全が保証できないためどうか、そんなものもあるのだなと思うだけにしていただければと思います。


 谷を底まで降りまして、そこから裏山の方へ少し上ったところにある洞穴の中に、泥蓮は壁に向かって座り、ノミを石で叩いておりました。始め、あまりに洞穴の中が暗いので和尚は”それ”の存在に気が付かず、ただ岩のゴツゴツとした表面がそこにあるだけだと思いましたが、それはよく見ると石達磨のような小柄な石像でした。

 まだ泥蓮が山に入って数日しか経っていないというのに、像の数はゆうに十を超え、その彫る速さは他のどんな彫師にも手の届かないものでした。そしてその像はどれも似た背格好でありながら皆違う顔をしており、喜怒哀楽それぞれの表情をいきいきと映し出しておりました。和尚にはそれが泥蓮の心持ちをそのまま移しているように見えて、彼の心が誰よりも人らしく、色とりどりであることを再び知りました。

 泥蓮は夢中になって岩を掘っていたので和尚が来たことに暫くの間気が付かず、そのままガーン、ガーンと岩肌を彫り続けていましたが、和尚が一言声をかけるとすぐに後ろを振り向き、深く会釈をするとまた壁に向かってノミを打ち続けました。そしてまた四半刻ほど岩を掘り、ふと泥蓮は後ろを振り返って和尚に訪ねました。和尚、俺の業はこれで削られるだろうか。そう泥蓮は訪ねました。和尚はただ一言、うんと答えました。それは獣のように石を掘り続ける泥蓮を恐れて言ったのではなく、ただ本心からそう思い、そう答えました。確かに泥蓮の心は石を掘るたびに軽くなっていきました。それは和尚の目から見ても明らかでした。そして、その理由は紛れもなく、ノミをふるって岩を彫ることが泥蓮の心の重荷を削っていたからでした。


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