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聶史  作者: 鍋島五尺
第1章
14/18

山寺の岩 第13話

 翌朝早く、寺に村人達が駆け込んできました。一向にあの男が帰ってこないので、家族が心配してやってきたのでしょう。彼らは、あの男が昨日ここへ来たはずです、今どこにいるかご存知ではないですかと和尚を問い詰めました。和尚は何も言わずにうなだれ、首を横に振るとすっと立ち上がり、ついてきなさいと言わんばかりに村人達へ視線を向けました。男の亡骸は林の中、大きな穴蔵の中に安置してありました。石でめった打ちにしたので、瞼は腫れ、鼻は潰れ、はからずもそれはまるで泥蓮のような醜い顔でした。

 村人達はしばらく何も言えず、ただ悲しみに暮れました。どんなに憎らしい人も、誰かにとってはかけがえのない大事な人です。彼らは怒りに震えました。泥鬼はどこだ、我々が仇を討つ、殺してやると怒り狂いました。和尚は、泥鬼は彼を殺した後、それをひどく悔いた。私は必死になって止めたが、裏手の谷へと飛び降りてしまった。もし望むなら谷底に降りればその亡骸が見つかるはずだと村人達に説きました。しかし、和尚の指した谷はあまりにも深く、とても泥鬼の死体を確認することなどできません。村人達は仕方なく和尚の言葉を信じて諦めました。もし谷底がどれだけ深いところにあるのか見てみたいという方は、一言お申し付けいただけばいつでもご案内いたしますので、どうぞお気軽に。


 それからというもの、昼夜山の中からガーン、ガーンという音が聞こえるようになりました。この音は境内にも微かに響いていたので、当時も私にご質問くださった方と同様にこれを不思議に思う人もおりました。ですが和尚はそのような質問にはいつもただ岩が風で転げる音だと言っていたそうです。


 10代の少年だった頃、私も彼らと同じようにあの音を不思議に思いました。なぜかと申しますと、私は少年時代、夏休みになりますとこの寺の離れに押し込まれ、宿題をカンヅメでやらされていたのです。そしてあの離れの部屋ではそのガーン、ガーンという音が四六時中聞こえてくるのです。元々宿題なんかやりたくはなかった私ですが、それでもあまりに音がやかましくどうにも集中できないので、逆にこの音に耳を傾けて正体を見破り、あわよくば音の主を鎮めて黙らせてやろうと思ったのです。しかし、私の父である先代に聞いても岩がぶつかる音だとしか言いませんから、私は谷に降りてみようと試みました。

 裏山の方は幼い頃から走り回っていましたから、谷底に続くのではないかという道はなんとなくわかっておりました。ですがその道もかなり険しく、少年ひとりではとても降りることは難しいものでした。しかし興味心に支配されていた私はどうにか降りようと画策し、少しずつ岩をこするように降りていきました。そして途中で私はあることに気が付きました。ここまで降りれたはいいが、ひとりでは上がれないということです。全く間抜けですね。結局そこで足を止め、ぎゃーぎゃーと泣き喚いていると父がやってきて、すんでのところで引っ張り上げられました。その後こっぴどく叱られたことは語るまでもありませんね。


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