その3
「どうですか? 似合ってます?」
「うん、よく似合ってるよ」
「えへへ」
デパートで買い物を終え、一度家に扇風機を置きに帰った後で二人がやって来ていたのは、陽介の知人が経営する美容院。夏祭り仕様に髪型を整え、買ったばかりの青地の浴衣を着たカチューシャは、袖端を掴んでクルクルと回る。その間、一つ結びにした髪がふわふわと浮遊していた。
「すみません、磯神さん。お休みだったのに、無理を言っちゃって」
「構わないよ。そもそも、今日みたいな稼ぎ時にどうして俺が臨時休業にしたか知ってる?」
「だいたいの想像はつきます」
「そうか。多分、それで正解だな。でも、折角だから俺の口から説明してやる。こういうお祭りの日はさ、どこの美容院、美容室も混雑するだろ? それでさ、余所で予約が取れなかったり取り忘れてたりした奴が、ウチみたいな小っさい店に流れ込んでくるわけだ。そいつらの『まあ、ここでもいいか』みたいな顔がスゲー腹立つんだよな」
磯神は過去実際にいた客を思い出しながら、憎々しげに言った。
「えー、それは酷い話ですね! 私はこの髪型すっごく気に入りましたよ!」
「おお! 嬉しいこと言ってくれるじゃないか、少女よ! しかし、陽介君の親戚に外国人さんがいたとはなぁ。びっくりしたよ」
「俺も滅多に会わない、遠い親戚ですけどね」
知人ではあるが〝表〟の人間である磯神に、カチューシャのことをそのまま話すわけにはいかなかった陽介。かといって、友人や恋人と紹介してしまっては、馴れ初めやら何やらを聞かれる可能性がある。そうなってしまっては答え辛い。そもそも答えなどないのだから。というわけで彼は仕方なく、こういう時の常套手段『親戚』という手を使った次第である。
「しっかし、日本語が上手いよなあ」
「ええ、こいつは日本生まれの日本育ちですから」(そういうことにしておこう。まさか『ヴァンパイアだから、親の知識をそのまま継承してる』なんて言えないし)「じゃあ、ありがとうございました。今度は俺の髪が伸びた時に、また来ますよ」
「ああ、いつでもおいで」
「ありがとうございましたー」
こうして陽介たちは、磯神の美容院を後にした。
「それにしても『この髪留めを付けられるような髪型にして下さい』って言い出した時はびっくりしたよ。現に今もそれを付けてるし」
「これは、教会にいた頃に親友がくれたものなんです。ですから、出来るだけ常に付けておきたいんですよ」
「へえ……」
カチューシャの昔話。気にはなった陽介だったが、それ以上の追及は避けた。教会にいた頃の親友ということは、例の事件に巻き込まれた被害者の一人である可能性が高く、当然カチューシャもそれを分かっていると判断したから。
――今は亡き親友の形見だから、大事にしてるのかな。憶測だけど。
そんなことを考えながら、陽介は自分の親友のことを思い出していた。




