1・目覚め◇
◇◇◇
目が覚めたら、白くてでかい幼虫が視界いっぱいに、でかでかと鎮座していた。
虫が苦手な私。ヒッ! とビビるも、声が出ない。体も上手く動かせない。もぞもぞと、まるで地を這うような状態で…………これはもしや、私も……?
私の体動に気づいた目の前のでかい幼虫は、私を見るや笑った……気がした。
虫に表情などないはずで……いや、やたら器用に動く目の前の幼虫は自己主張が激しい。
見ているだけで疲れた私は、その日はそのまま意識を閉ざした。
次に目覚めたその時は、今日の夢だって笑って話せる。
わけもなく、また目が覚めても相変わらずの光景が広がっていた。嫌なんだけど。
一点違うのは、おそらく前回と同じ個体である、でかくてまるまるとした幼虫が、もっと元気に動いていたこと。
正直見ているだけで心が辛い。苦手だから。でも多分今のわたしも同じ姿。悲しい。
ぢっと身動ぎもせず、ただ観察していただけだったのに……幼虫は私が起きたことに気付いたようだった。しきりに何かをアピールしてきている気がする。
お腹が空いたよ。
私は目を閉じた。
三度目に目を開けて、飛び込んできたのはこちらを至近距離からじ……っと見つめる幼虫の顔。
叫び暴れ出すかと思った私の体は、大して動かなかった。
まるまるぷっくりとした幼虫は何かを主張している。
私が若干引いて、じわりと嫌がっているのが伝わったのか、相手はちょっと後退した。助かる。苦手なんだ。ごめんけどさ。
どうやら悪いやつではないらしい。むしろ好意的にすら感じるよ。
でも苦手なんだ。ごめん。
うごうごしてると思っていたら、幼虫が、私の目の前に幼虫の顔ぐらいのサイズの、ヤバいほどグロテスクな虫っぽい物体の残骸を持ってきていた。
私は多分気を失った。
四度目の目覚め。
目に見えてまるまるぷっくりつやつやした幼虫は、私を心配そうに見つめていた。よくわからない残骸を頬張りながら。
幼虫特有のもにょもにょと動く口元が、私の意識を現世から引き剥がそうと試みてくる。
いや、大丈夫。さすがに慣れたよこの幼虫にも。お願いだからこっち向かないで。
要するに前回の物体は……私へのエサってことだね。
餌というか、今の私にはご飯か。
どうしたものかな。ニ度目の人生は苦手な虫とは苦行がすぎるゾ☆ 神様☆.。.:+・
流石にお腹が空いている。きっと私と同じ姿をしているであろう目の前の幼虫が食べているのだから、私も食べられる……むしろ食べねばならないモノなのだろう。
しかし食べたくはない。
このまま虫生を終わらせてしまっても良いのだが……苦痛はあまり感じないし。
いや待て、もしかしてこのまま弱って死んだら私がこやつに食われることになるのでは?
そ、それも嫌だ…嫌だけれども……。
へなへなと私の体はしぼんでいく。そんな気がした。
五度目、口元に何かの感触がした。
目を開けると、一面におそらくどでか幼虫の肌というか……表面? しか見えなく、私は何かを食べていた。
み、見えない……! が、しかし……! これは……まさか…………?
嫌な予感がする。
身じろぎをするとソレに気付いた幼虫が少し離れた。口元は多彩な色で汚れて、くすんでいる。
私は何かを食べていた。意識がなくとも。
……おそらく、まるまるぷっくりつやつやとした親切な幼虫は、弱る私(仲間)を助けたのだ。口移しで。幼虫にそんな思考があるなんて。
私は泣いた。
私になにかを食べさせた幼虫は嬉しそうだったのに、私が震え出したのを見て心配そうに身を揺らしていた。
なんてやさしいようちゅうなんだ。
六度目。私は初めて、親を見た。
おそらく親だ。まるまるぷっくりつやつやとした親切で元気な幼虫が喜んでいる。
私たちの前に、虫のような獣のような……何らかの生物の残骸を落とした。その、大きくて真っ白でふわふわした蛾のような親の姿……具体的に言うなら見た目的には蚕蛾が近いなこれ。写真で見たことある。こわい。
怖いが、まだ私が見ていられる方の虫で良かった。駄目な方だったら即この世を儚んでいた可能性がある。
しかし蚕って飛べないとかじゃなかったっけ。いやそもそもこんなに大きくないし食べる物が。私は考えることを止めた。
私の身が軽い。いや到底軽いと言えるほどではないが、少しは動けるようになっていた。やはり栄養は大切だ。
私は親に目をつけられないよう、隅へと避難した。
親蛾は物体を落として、またすぐにどこかへ飛び去った。
しかし……ここはごつごつした岩の洞窟。なぜあの親蛾はここに居るのだろう。私達はなぜここに? 草とか食べないの? 幼虫なのに?
洞窟に住まう蛾のモンスター……ばりばりファンタジー。それらしくなってきたじゃないか。
おそらく私の兄弟である幼虫は、親の土産を嬉しそうに頬張っていた。
アレが正しい子供の姿か。……親よ、不甲斐ない子でごめんな。
兄弟幼虫は一心不乱、しきりに肉を貪っている。
そろそろ私は意識を飛ばした方が良いのかもしれない。
……いや、むしろそろそろ諦めて、乗り越えて、現実を見て…………無理。
ああほら、口いっぱいにした兄弟幼虫がこちらへ向かってくるよ。
なぜそんなに遠くにいるのかと、少し不満げだ。もうこんなことも理解できるようになったよ。なってしまった。
私はちょっと泣いた。




