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星くず喫茶と、ちいさな願いの配達員(漫画原作脚本)カドコミ漫画原作コンテスト【ナツガタリ'26】応募作  作者: 明石竜


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第五話 喫茶ほしの灯へようこそ

【喫茶ほしの灯・店内/閉店間際】

ポラがカウンターの上で横になっている。

しっぽの星形は、かすかに点滅している。

こはるがポラの体をそっと両手で包む。

こはる「ポラ、しっかりして」

ポラ「……願いが、消えかけているのです……」

あかり「どうすれば」

ポラ「願いの持ち主に……届けるしかないのです……」

すずが窓の外を見る。


夕暮れの通り。

立ち止まっている人影。

すず「こはる」

こはるが顔を上げる。

すずが視線だけで、窓の外を示す。

こはるは見る。

人影が、ゆっくりと店に背を向ける。

こはる「さなえさん——」

こはるが立ち上がる。

すず「待って」

こはる「でも——」

すず「店を出ないで」

こはるが止まる。

すず「来てくれた客がまだいる。こはるが今出たら、誰が声をかける」

こはるは店内を見る。


残っている客。お茶を飲んでいる老夫婦。写真を見ている女性。

こはる「……でも、さなえさんが」

すず「待つって決めたでしょ」

こはるとすずが向き合う。

長い間。

こはるは視線を落とす。

こはる「……うん」

こはるは店内へ戻る。

ポラをもう一度見る。

こはる「ごめん、ポラ。もう少しだけ待って」

ポラ「……待てるのです……たぶん、なのです……」


【喫茶ほしの灯・店内/閉店間際】

あかりが残っている客の写真を撮っている。

あかり「今日来てくれた記念に、一枚どうですか」

老夫婦が照れながら並ぶ。

パシャ。

あかり「後で焼いてお持ちします。今日来てくれてありがとうございました」

老婦人「またきますね。こんなにいいお店だったんだって、今日来て思い出したわ」

みのりが厨房から最後のパンケーキを運んでくる。

みのり「残った分、よかったら持って帰ってください」

小学生の女の子が目を輝かせる。

女の子「星の形だ!」

みのりが箱に入れながら微笑む。

みのり「また食べに来てね」

すずが席の片付けをしながら、こはるに目配せする。

すずの視線の先——

窓の外。

人影が、まだそこにいる。

背を向けたまま、動いていない。


【喫茶ほしの灯・店内】

最後の客が帰っていく。

祖母が厨房から出てくる。

祖母「今日はよく頑張ったわね」

こはるが窓の外を見ている。

祖母もつられて窓に目をやる。

一瞬。

祖母の手が止まる。

夕暮れの通りに立っている人影。

祖母「……」

こはるが祖母を見る。

こはる「おばあちゃん」

祖母は答えない。

こはる「会いに行かなくていいの」

長い沈黙。

祖母「……こはる、厨房の片付けを手伝って」

こはる「おばあちゃん」

祖母は動かない。

こはる「行ってほしい」

祖母がこはるを見る。

こはる「わたしたちが呼んだわけじゃない。さなえさんが、自分で来てくれた。自分で決めて、ここまで来てくれた」

祖母の目が細くなる。

こはる「あとは、おばあちゃんが決めること」

祖母はしばらく、こはるを見ている。

やがて、エプロンをゆっくりと外す。


【喫茶ほしの灯・店外/夕方】

祖母が扉を開けて、外に出る。

四人は店内から見ている。

通りに、さなえがいる。

二人が向き合う。

夕暮れの光の中で、二人の白髪が同じ色に染まっている。


【喫茶ほしの灯・店外(遠景)】

四人は窓越しに見ている。

祖母が口を開く。声は聞こえない。

さなえが何か答える。

祖母がうつむく。

また何か言う。

言葉が続かないように見える。

さなえも、すぐには答えない。

二人は長い間、そうして立っている。

みのりが小さな声で言う。 

みのり「……話してますね」

あかりが隣でカメラを持ち上げかける。

すずが無言でその手を押さえる。

あかり「……撮らない」

すず「うん」

あかり「残したいけど、残しちゃいけない瞬間もあるんだね」

こはるは窓から離れない。ポラを胸に抱いたまま、二人を見ている。


【喫茶ほしの灯・店外】

祖母が言う。

祖母「パンケーキを……食べていかない?」

さなえが少し間を置く。

さなえ「昔の味じゃないんでしょうね」

祖母「ええ。今の子たちの味よ」

さなえはもう一度、店の看板を見上げる。

星形の看板。

手書きの文字。喫茶ほしの灯。

さなえ「……少しだけ」


【喫茶ほしの灯・店内/夕方】

祖母がさなえを案内して入ってくる。

四人が迎える。

こはる「いらっしゃいませ」

さなえがこはるを見る。

さなえ「先日は、失礼な対応をしてごめんなさい」

こはる「いえ——来てくれて、ありがとうございます」

さなえが入口で立ち止まる。

祖母も、その少し後ろで足を止める。

二人の間に、何十年分もの沈黙が落ちる。

客席のざわめきが、そこだけ遠くなる。

こはるは声をかけようとして、言葉を飲み込む。

すずが静かに一つのテーブルを示す。

窓際の、古い写真と同じ席。

すずが椅子を引く。

さなえがゆっくり歩き出す。

祖母も、少し遅れてその後に続く。

さなえと祖母が、同じテーブルに座る。


【喫茶ほしの灯・厨房】

みのりが最後の二枚を焼いている。

手が少し震えている。

あかりが横に立つ。

あかり「大丈夫?」

みのり「……緊張してます」

あかり「みのりが作ったんだから、おいしいよ」

みのり「おいしいだけじゃなくて、ここに来てよかったって思ってもらえるものにしたいんです。そういうお菓子を、いつか作れる人になりたくて。でも、さなえさんが納得するかどうか——」

あかり「納得してもらうために作ったんじゃないでしょ」

みのりが手を止める。

あかり「わたしたちが、一生懸命作ったってことは本当だから。それを持っていけばいい」

みのりはあかりを見る。

みのり「……あかりちゃん、たまにすごいこと言いますよね」

あかり「たまに?」

みのりが笑う。

あかりがカメラを上げる。

パシャ。

みのり「撮ったの?」

あかり「今の顔、撮りたかった」

みのりは少し照れて、パンケーキの仕上げに戻る。


【喫茶ほしの灯・テーブル席】

すずがお茶を出す。

こはるが皿を運ぶ。

星形のパンケーキが、二枚。

さなえが見る。

さなえ「……型は、違うわね」

祖母「こはるたちが作ったもの」

さなえがフォークを持つ。

さなえのフォークを持つ手が、ほんの少し震えている。

切り分けたパンケーキから、柑橘の香りが立つ。

さなえはそれを口に運ぶ前に、一度だけ祖母を見る。

祖母は何も言わない。ただ、目をそらさずに待っている。

ひと口。

四人が見ている。

さなえはしばらく、何も言わない。

また、ひと口。


さなえ「同じじゃない」

こはるが息をのむ。 

さなえ「でも……これはこれで、おいしい」

さなえが笑う。かすかに。

祖母も、つられるように笑う。

こはる「……よかった」

小さな声で、こはるが言う。


【喫茶ほしの灯・テーブル席】

さなえと祖母が、パンケーキを食べている。

しばらく、二人は黙っている。

やがて、さなえが口を開く。

さなえ「……レシピ、渡すわ」

祖母が顔を上げる。

さなえ「ずっと持っていても、仕方ないから。あなたたちが使えばいい」

祖母「さなえ……」

さなえ「仲直りとか、昔に戻るとか、そういうことは分からない。でも……また、話すくらいはできるでしょ」

祖母は何か言おうとして、言葉が出ない。

さなえ「何十年も経ってるんだから、謝り方も忘れたわよ、お互い」

祖母が、ゆっくりと笑う。

祖母「そうね」

さなえ「来週、またここに来てもいい?」

祖母「いつでも」


【喫茶ほしの灯・店内】

さなえが帰っていく。

扉が閉まる。

店内に、静けさが戻る。

そのとき。

カウンターの上で、光が広がる。

星のかけらが、白く輝く。

四人が見る。

光が天井へ昇っていく。

天井が、星空になる。

小さな、でも確かな星々が、店の中に広がっている。

テーブルの端に置かれた星のかけらから、亀裂がすっと消えていく。

青白かった光が、パンケーキの焼き色みたいな淡い金色に変わる。

光の中で、若い祖母と若いさなえが笑っている。

けれど今度は、幻の向こうに現在の二人の笑顔も重なる。


みのりが息をのむ。

みのり「きれい……」 

あかりがカメラを上げる。

そのまま、しばらく動けない。

すずが上を見たまま、静かに言う。

すず「……本当にあったんだね。星の願い」

こはる「うん」

ポラのしっぽが、星形に強く光る。

ポラが体を起こす。

ポラ「……戻ったのです」

こはるがポラを見る。

こはる「よかった」

ポラ「当然なのです。ポラは星の配達員なのです。これくらいでへこたれないのです」

あかり「さっきまで倒れてたくせに」

ポラ「それは……体調管理の問題なのです」

こはるが笑う。

みのりも笑う。

あかりが笑う。

すずが、小さく笑う。


【喫茶ほしの灯・店内/少し後】

祖母が四人の前に立っている。

祖母「週末限定で、続けることにしようと思う」

こはる「おばあちゃん……!」

祖母「毎日は無理よ。でも、土曜と日曜だけなら」

こはる「手伝う。絶対に手伝う」

祖母「学校との両立が前提よ。成績が落ちたら考え直す」

すず「それは同意する」

こはる「すずまで」

すずがエプロンを手に取る。

こはるがそれを見る。

こはる「……店員にならないんじゃなかった?」

すず「正式な店員じゃない。こはるの監督役」

こはるが笑う。

みのり「わたしは新作のお菓子担当、でいいですか」

祖母「助かるわ。みのりちゃんのパンケーキ、本当においしかった」

みのりが照れる。

あかり「あたしは宣伝と写真担当! SNSで発信したら、今日だけで問い合わせが四件来てる」

すず「四件?」

あかり「ほしの灯、絶対に人来るようになるよ」


【喫茶ほしの灯・店内】

ポラが四人の前に立つ。

しっぽをぴんと立てて、背筋を伸ばしている。

ポラ「ポラから、伝えることがあるのです」

四人が見る。

ポラ「星の願いを届ける仕事は、ポラだけではできないのです。今回、それがよく分かったのです」

こはる「ポラ……」

ポラ「四人に、ポラの仕事を手伝う資格があると、ポラは判断したのです」

あかり「判断って、ポラが決めるの?」

ポラ「ポラが決めるのです。見習いですが、この件に関してはポラの権限なのです」

すず「それは本当に権限があるの?」

ポラ「……たぶんあるのです」

こはる「たぶん?」

ポラ「細かいことはいいのです。四人、一緒にやるのですね?」

四人が顔を見合わせる。

こはる「やる」

みのり「やります」

あかり「やるやる」

すず「……やる」

ポラがしっぽを振る。

ポラ「では、チーム名を決めるのです。それが正式な証明なのです」

あかりが手を上げる。

あかり「星くずレンジャーズ!」

すず「却下」

あかり「ほしの灯スターズ!」

すず「却下」

あかり「願いの配達屋さん・特別部隊!」

すず「長すぎる」

みのり「……みんなで考えましょうよ」

こはるが少し考える。

こはる「ほしの灯係、でいいんじゃない?」

三人がこはるを見る。

すず「……地味すぎない?」

あかり「普通すぎる」

みのり「でも……なんか、いいですね」

ポラが目を輝かせる。

ポラ「それがいいのです! ほしの灯係、完璧なのです!」

あかり「ポラだけが気に入ってる……」

すず「多数決にする?」

こはる「ポラが気に入ったから、いいじゃない」

あかりが天井を見る。

あかり「……まあ、いっか。ほしの灯係」

みのり「ほしの灯係」

すず「……ほしの灯係」

こはる「ほしの灯係!」

ポラ「よろしくなのです!」


【喫茶ほしの灯・店前/夜】

閉店後の店の前。

夜空に星が出ている。

あかりがカメラを構える。

あかり「じゃあ記念写真。みんなで」

祖母「私も入るの?」

あかり「もちろん」

五人が並ぶ。

祖母・こはる・すず・みのり。

そしてこはるの肩の上のポラ。

あかりがタイマーをセットして、駆け込む。

カシャ。

【喫茶ほしの灯・店内】

あかりが写真を確認する。

あかり「……あ」

四人が覗き込む。

写真の中のポラが、ちゃんと写っている。

星形のしっぽまで、くっきりと。

こはる「写ってる!」

ポラ「願いが届いたから、ポラも写れるようになったのです。たぶん、なのです」

すず「たぶんが多いわね」

ポラ「細かいことは星に帰ったら確認するのです」

みのりが写真を見つめる。

みのり「……あれ」

みのりが画面の端を指さす。

写真の隅。

店の壁際に、五人の他に、もう一人写っている。

学校の制服姿の少女。

顔は少し影になっていて、はっきりとは見えない。

四人が顔を見合わせる。

あかり「……だれ? さっきここにいたっけ」

すず「いなかった」

みのり「でも、写ってる」

その時。

店内のカウンターに、光が落ちる。

新しい星のかけら。

今度は少し大きい。

四人とポラが、かけらを見る。

かけらから、声が聞こえる。

少女の声。「明日、わたしのことを、みんなが忘れてしまいます」

店内に静けさが広がる。

ポラのしっぽが、強く光る。

ポラ「次の配達なのです」

こはるが星のかけらを見る。

すずが隣に立つ。

みのりとあかりが並ぶ。

こはる「行こう、ほしの灯係」

(第一巻 終)

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