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星くず喫茶と、ちいさな願いの配達員(漫画原作脚本)カドコミ漫画原作コンテスト【ナツガタリ'26】応募作  作者: 明石竜


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第三話 四人目は秘密を撮る

【喫茶ほしの灯・店前/午前】

夏の朝。商店街はまだ静かで、日差しだけが強い。

喫茶ほしの灯の前に、一人の女の子が立っている。

カメラを構えている。

元気そうな短い髪。首からカメラのストラップ。スニーカーのつま先が、少し浮いている。

空山あかりが、ファインダーをのぞいたまま、独り言を言っている。

あかり「いい感じ……看板の星マーク、光の角度がちょうどよくて——」

パシャ。

扉が開いて、こはるが顔を出す。

こはる「いらっしゃいませ。あ、あかりちゃん?」

あかり「こはる! ここって今も営業してるの?」

こはる「してるよ。どうぞ中へ——」

あかり「写真部でさ、町の古い建物を紹介する企画やってて。ここ、すごくいい雰囲気だから撮らせてもらいたいんだけど」

こはる「そんなに古い建物、好きなの?」

あかり「好きっていうか……なくなってから、撮っておけばよかったって思うの、嫌なんだよね」

こはる「そっか。お店の宣伝になるし! ぜひ!」

あかり「じゃあ中も撮っていい?」 

こはる「もちろん——」

後ろからすずが現れ、こはるの肩を掴む。

すず「待って」

こはるとあかりが振り返る。

すず「何を写すか、確認してから入れて」

こはる「すず、そんな警戒しなくても……」

すず「ポラが写り込んだら困るでしょ」

あかり「ポラ?」

すずがこはるを見る。

こはる「……あ」

あかりはすでに店内に入っている。

カウンターの上。

クッキーの缶の陰から、ポラがそろそろと顔を出す。

ポラとあかりの目が合う。

ポラ「み、見ていないのです」

ポラは急いでカップの中に飛び込もうとする――が、頭から入りすぎて、はまる。

ポラ「……抜けないのです」

カップを頭に乗せたまま、ポラがその場でくるくると回る。

あかりは三秒間見ていた。

あかり「……かわいい」

カメラを上げる。

すず「撮らないで」

あかり「え、なんで?」

すず「事情がある」

あかり「どんな事情?」

こはる「……ちょっと話すね」


【喫茶ほしの灯・テーブル席】

四人と一匹が、テーブルを囲んでいる。

こはるが順番に説明している。


ポラ。星のかけら。願い。昔の星形パンケーキ。写真の裏の名前。

あかりは話を聞きながら、ずっとポラを見ている。

あかり「で、ポラっちは星から来たと」

ポラ「ポラっちではないのです!」

あかり「かわいいから、ポラっちでいいや」

ポラ「よくないのです! ポラは星の配達員なのです! そういう軽い扱いは――」

あかり「ねえ、一枚だけ撮らせて」

ポラ「……一枚だけなのです」

すず「交渉しないで」

こはる「でも、撮れたとしても、お店の宣伝にはできないよね。さすがに」

あかり「それはわかってる。ただ撮りたいだけ」

あかりがカメラを構える。

ポラがしっぽを星形に光らせて、ちょこんと座る。

パシャ。

あかりが画面を見る。

あかり「……あれ」

すずが覗き込む。

写真の中に、ポラの姿はない。

画面の中では、カウンターだけが妙に暗い。

ポラが座っていたはずの場所には、星屑をこぼしたような光の粒だけが残っている。

その粒は細い線になり、窓際の席をかすめて、店の壁を抜けるように外へ伸びていた。

あかり「……写真って、見えてるものを写すだけだと思ってた」

こはる「え?」

あかり「でもこれ、見えてなかったものが写ってる。だったら、まだ残せるものがあるかもしれない」

あかりは、カメラを両手で持ち直した。

あかり「なくなる前に撮るだけじゃなくて、なくなりそうなものを見つけることも、できるのかも」

細い光の端、窓際の席だけが、ぼんやり白くにじんでいる。

あかり「ここ、変じゃない?」

こはる「光が反射したのかな」

すず「今は、こっちの筋を追う方が先」

あかりは少しだけ気になったが、画面を閉じた。

こはる「ポラが写ってない」

ポラ「星の配達員は、普通の写真には写らないのです。ポラは存在が特別なのです」

すず「でも、この光は」

あかり「星のかけらから出てる。この方向って……」

あかりが窓の外を見る。

あかり「商店街の、もう少し先の路地の方角だ」

みのりが口を開く。

みのり「あっちに、古い洋菓子店がありますよね」


【星見町・路地裏の洋菓子店/午前】

古い木の看板。

ショーケースには焼き菓子が並んでいる。

店の前には、季節の花が植えられている。

四人が立っている。

こはる「ここ……入ったことなかった」

あかり「わたしも。でも写真で見たことある。古い建物の特集で」

すず「光はここで止まってる」

ポラが首をかしげる。

ポラ「間違いないのです。願いの持ち主が、ここにいるのです」

こはるが扉を押す。


【洋菓子店・店内】

小さな店内。

木製のショーケースに、丁寧に並べられた焼き菓子。

その端には、売り物ではなさそうな古い星形のクッキー型が飾られている。

店内には甘い匂いがあるのに、どこか静かすぎる。

壁の時計の音だけが、こつ、こつ、と響いている。

奥から、老いた女性が出てくる。

白髪。小さな体。でも背筋が伸びている。

朝永さなえ。

さなえ「いらっしゃい。何かお探し?」

こはる「あの……喫茶ほしの灯から来ました。星名こはると言います」

さなえの動きが止まる。

さなえ「……ほしの灯」

こはる「祖母の店で、今、夏の間だけ手伝っていて——」

さなえ「お祖母さんの名前は」

こはる「星名照子、です」

さなえはしばらく、こはるの顔を見ている。

さなえ「……そう」

それだけ言って、さなえは視線を落とす。


【洋菓子店・店内】

さなえがカウンターの中に戻っている。


四人は並んで立っている。

さなえ「何の用?」

こはる「昔の星形パンケーキを作り直したくて。レシピを探しているんです」

さなえ「……なぜ私のところへ」

すず「写真の裏に、朝永さなえという名前がありました。照子さんと一緒に写っていた方ですよね」

さなえは棚に手を置く。

長い間。 

さなえ「照子と、一緒にあのパンケーキを考えたのは私よ。二人で、何日もかけて試作した。もう何十年も前のこと」

こはる「それなら、レシピを、教えていただけませんか」

さなえ「……持ってはいるわ」

四人が息をのむ。

さなえ「でも渡せない」

こはる「どうして」

さなえ「今さら同じものを作っても、何も戻らないでしょう」

さなえは四人から目をそらす。

さなえ「用が済んだなら、帰って」


【星見町・帰り道/昼】

四人が並んで歩いている。

あかりがカメラを抱えている。

みのりは下を向いている。

すずは前を見ている。

こはる「……仲直りさせれば、きっとレシピも——」

すず「待って」

こはるが止まる。

すず「何十年も会っていない二人を、無理に引き合わせるのは違うと思う」

こはる「でも、願いを叶えるには——」

すず「叶え方を決めるのは私たちじゃない」

こはるは口をつぐむ。

みのりが顔を上げる。

みのり「……さなえさん、レシピを捨てていなかったですよね」

すずが振り返る。

みのり「何十年も持っていた。捨てようと思えば、捨てられたはずなのに」

あかり「それ、わたしも気になった」

すずが続きを促す目をする。

あかり「棚の奥に、喫茶ほしの灯の写真が何枚も置いてあった。さなえさんが撮ったのか、誰かからもらったのか分からないけど、大事にしまってあるみたいだった」

こはる「……捨てられなかった、ってこと?」

あかり「わからない。でも、ぜんぶ諦めてる人の顔じゃなかったと思う」

四人は立ち止まって、それぞれ考える。


【星見町・商店街の外れ/昼】

あかりがみのりの腕を引く。

あかり「ちょっと来て」

みのり「え?」

あかりが路地の外れに連れ出す。


商店街が見渡せる、小さな曲がり角。

あかり「暗い顔してたから」

みのり「……気になって」

あかり「さなえさんのこと?」

みのり「仲直りできなかった人がいて、長い間、ずっとそのままで……それって、すごく苦しいと思って」

あかりはみのりを見る。

カメラを持ち上げる。

みのり「え、わたしを撮るの? 苦手なんだけど」

あかり「なんで?」

みのり「うまく笑えなくて。お菓子を作ってる時は平気なのに、写真を撮られるって思うと、どんな顔をすればいいか分からなくなるんです」

あかり「じゃあ、笑わなくていいよ」

みのり「え?」

あかり「お菓子作ってる時の顔、たぶんそのままでいい」

シャッターを切る。

パシャ。

みのりが画面を覗く。

さっきの、少し困った顔のみのりが写っている。

みのり「……これ、変じゃない?」

あかり「変じゃない。みのりが笑った瞬間、なんか撮りたくなるんだよね。笑ってなくても、なんか撮りたくなる」

みのりは少し黙る。

みのり「……じゃあ、あかりちゃんが撮るときだけ」

あかりがにっと笑う。

あかり「それ言質取ったから」

みのり「え、なんで言質……」

あかりはもう歩き始めている。

みのりは少し遅れて、ついていく。


【喫茶ほしの灯・テーブル席/午後】

四人がテーブルを囲んでいる。

あかりがカメラの画面をスクロールしている。

あかり「今日撮った写真、確認してたんだけど」

あかりが一枚の写真を止める。

洋菓子店の店内。

棚の端、少し暗くなった奥の方。

あかり「これ」

みのりが画面を見る。

みのり「……型、ですね」

すずが覗き込む。

すず「星形のパンケーキの型。洋菓子店の棚に入ってる」

こはる「それって——」

すず「さなえさんが、今も持っている」

こはるはテーブルに手を置く。

こはる「もう一度、行く」

すずが目を上げる。

こはる「レシピをくれとは言わない。ただ……」

こはるは立ち上がる。


【洋菓子店・入口/夕方前】

さなえが店を閉める準備をしている。

扉が開く。

こはる「すみません」

さなえが振り返る。

さなえ「……また来たの」

こはる「お願いがあって」

さなえは答えない。

こはる「レシピをくれとは言いません。ただ……一度だけ、わたしたちのパンケーキを、食べに来てください」

さなえ「……何のために」

こはる「昔の味じゃないかもしれない。でも、わたしたちが精一杯作ったものを、あなたに食べてほしいんです」

さなえは動かない。

こはる「……来てほしいんです」

さなえは長い間、こはるを見ている。

やがて、視線を落とす。

答えはない。

こはる「待ってます」

こはるはお辞儀をして、扉を出る。


【喫茶ほしの灯・店内/夕方】

四人が戻ってくる。

祖母が奥のテーブルで、何かを書いている。

こはるが入ると、祖母は顔を上げる。

目が合う。

祖母「……朝永さんのところへ行ったの」

こはるが止まる。

こはる「知ってたの?」

祖母「あの子が光を追ったのを見ていたから」

祖母はポラを見る。ポラは黙っている。

祖母の手元で、書きかけの紙がくしゃりと曲がった。

こはるは、その音にびくりとした。

祖母の表情が変わる。

普段のやわらかさが、消えている。

祖母「その人を、店に呼ばないで」

こはる「おばあちゃん——」

祖母「お願いよ」

その声は、怒っているというより、震えていた。

こはるは初めて見る祖母の顔に、言葉が出ない。

祖母はそれ以上何も言わず、奥へ入っていく。

四人は玄関に立ったまま、動けない。


【喫茶ほしの灯・店内/深夜】

電気を落とした店内。


星形パンケーキの写真だけが、窓からの月明かりに照らされている。

かけらに、細い亀裂が入っている。

ぴしり。

小さな音が、誰もいない店内に響いた。

亀裂の奥から、さっき見た幻の声が、かすかに漏れる。

「もう一度、あの子と——」

声は途中で途切れた。

ポラ「……願いが、消えかけているのです」

月明かりの中、ポラはしばらくそのかけらを見ていた。

星のかけらの中で、若い祖母とさなえの笑顔が、ひび割れたガラス越しに揺れている。

そして、その笑顔が、少しずつ薄くなっていく。


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