45.私の意志
ポロポロと、流れる涙がこんなに綺麗な人がいるだろうか。
アロイス先生の心はまるで彼の瞳のようだ。誰にも触れられない美しい宝石。皆が魅せられた彼の紫。角度を変えてキラキラと輝く瞳に、唯一写ったのは私なんだと知った。
先生が求めてくれた。私無しでは生きていけないと。
私は先生が思うほど綺麗じゃない。だって、涙に濡れた先生を美しいと思った。私に依存する彼に胸を打たれた。
恐らく、私のほうがよっぽど歪んでいる。
右手で先生の目元を拭う。子どものように泣く彼を酷く愛おしいと感じ、そのまま濡れた睫毛にキスをした。
「········ニーナ」
「先生は私の想いは恋じゃないって言いましたけど」
ゆっくりと彼の顔を両手で包んだ。
「じゃあ、何で私はこんなに先生と一緒にいたいと思ってるんでしょうか」
「······それは」
「私の感情の名前なんて、私にもわかんないですけど」
手の力を強くしてアロイス先生のほっぺたをぎゅーっと潰す。
「ぜぇっっったい離れてなんかやらないんだから!!」
「······ニー······」
「私が先生の元からいなくなるですって?!」
ぎゅーっっとほっぺたを押してやる。
「冗談言わないで!!」
私は先生の首にしがみついた。
「私の魔力を吸って」
「······はい?」
「『魔法使いのキス』をして」
「ニーナ??」
「早く!!」
「はいっっ!!」
私はすぐに先生の頬にキスをした。
私の唇を通して先生に魔力が流れ出す。
「うわ······あっ······」
先生の眉間に皺が寄る。手を首筋に置き、もう片方の耳にキスをした。
「まだですよ、先生。もっと吸って」
耳に吐息がかかるようにわざと話す。
「は······ニーナ······っ······はあ····っ」
「ふん。もういいですよ」
パッと体と手を離した。
グラリと体を倒した先生を再度体を使ってキャッチした。
目許に赤みが差し、浅い呼吸を繰り返し、濡れた瞳で私の肩にもたれかかる先生を抱き締め頭を撫でた。
「ふんだ。私の魔力、美味しいでしょ」
「······最高です」
「また欲しくなっちゃうでしょ」
「······なっちゃいますね」
「だったら離さないで」
頭を撫でながら、優しく抱き締めた。
「離れないから、離さないで。居なくなっても追いかけて」
「ニーナ········」
「私もアロイス先生無しだと生きていけないです」
「········」
「それに私は先生の役にたちたいの。先生の役にたつ為にどうしろと、あなたは言いました?」
「······傍にいてほしいと」
「はい。よく出来ましたアロイス先生。いい子」
ナデナデしながら先生を見たら、私に縋るような目をして抱きついていた。
「先生、可愛い。子どもみたい」
へらりと笑うと、先生はムッと口を尖らせる。
「こら」
先生は毛布の中で私をぎゅっと抱き締めた。
キラリとアロイス先生の目が光り、先生の唇が私の首筋に当たりちゅっ、と音がした。
そのまま、先生の舌が這うように私の首を舐め回す。
「んっ······アロイス······先生っ」
耳許まで舐められ、先生の吐息が首にかかった瞬間、ゾワリと背筋が反れ、ゆっくりと耳朶を口に含まれる。
「あ······っ······ふぁ」
淫靡な水音が自分のまるで耳許でくちゅりと響き、思わず甘い声を漏らした。
「まだまだ、教える側は私ですよニーナ」
「はい、アロイス先生」
浅く呼吸が乱れたまま、先生は私の頬にキスをした。




