夢を見ていた
ターズと、タナベを背負ったヤマモトは空中で死闘を繰り広げ、お互いの身体は傷だらけになる。2人は地上に降り立つと、ヤマモトが血反吐を地面に吐き捨て汗を拭い
「ヒサミチ、すまねえ。ここまでだ。シルバーソングを解放する……俺はもういい」
「リュウ!止めて!一緒に居るって……」
ヤマモトは、数メートル先で刃の無いニンゲンスレイヤーを構える完全に大悪魔の姿になったターズを見つめながら
「あれは……俺達の汚さが形になったもんだ」
「汚さ?」
「ああ、難しい事はわかんねえけど、異世界だからって好き勝手やって、人も殺して、間違いだって気付いたけど、その復讐をずっとされてる」
「……」
タナベは黙り込む。ヤマモトは血まみれの顔で爽やかに笑うと
「降りろ。お前は誰も殺してねえ。だからこの世界に……」
タナベが手元の金属に塊を操作すると、ヤマモトはいきなりしゃがんで動けなくなる。
タナベは、ヤマモトの背中から降りると
「重力制御アプリだ。そのまま動かないで」
ターズへと近づきながら
「ターズさん、僕はずっとあなたと話したいと思っていた」
ターズは無言のまま構え、少し殺気が漏れ始める。タナベは両腕を上げ
「僕たちをどうしても許せないですよね?」
そう言って立ち止まった。
クソガキが何か言っているが、憎しみしか感じない。転移者達が一人も居なければ、俺はずっと鍛冶屋で居られていた。確かに武器を作ることで争いに加担したんだろうが、だからといっていきなり店を燃やされ、殺されて良い訳が無い。タナベは両手を挙げたまま、大きく息を吐いて、悟った様な笑みを浮かべ
「……僕で終わりにしてくださいね。じゃないと……」
そう言ってニンゲンスレイヤーの間合いに入ってきた。俺はただ斜めに剣を一閃した。
両断されたタナベの胸ポケットから
「命に関わる状況を確認しました。周囲の手助けをスムーズに進行するため、登録された対象へのサポートを開始します」
抑揚のない音声が流れ、次の瞬間には今までオクカワ・ユタカでさえ放ったことのない様なゾッとする殺気と怒気がヤマモトから噴き出し始めた。
顔を上げたヤマモトは血の涙を流しながら
「……ヒサミチ悪いなあ……もう、もう誰にも気兼ねなく殺し合いができる……」
燃えるような赤髪を更に逆立たせ、銀の大剣であるシルバーソングを構えた。そして空へ向け
「精霊と共に歌え!シルバーソング!天まで届く歌を響かせろ!」
夜空にオーロラが出現して、まるで教会の賛美歌の様な音がそこら中から響き出した。ヤマモトは顔中から血を噴き出しながら
「ターズ!!俺とヒサミチ2人分の命とやり合おうぜ!」
狂気じみた笑い顔でターズへと斬りかかった。
おかしい……身体が思うように動かない……。もう少しでタナベの支援がなくなったヤマモトを殺せるのに、悪魔の身体が異様に重い。一撃でも掠れば致命傷になるような斬撃をヤマモトは無数に繰り出してきて、このニンゲンスレイヤーは刀身で受け止められないので、次第に防戦一方になっていく。上空のサンガルシアとサキュエラ、ドラゴン達と戦っているネール達も逆転されつつあるようだ。今、サキュエラが暗闇に包まれて落下していった。俺も次第に余裕がなくなっていく。
拠点上空
白い光と共に現れたオクカワ・ユタカに抱きかかえられたハーツが、真っ先に血の海に沈む両断されたタナベを見つけ
「……えっ……ウソ……」
真っ青な顔になった後に
「やだあ……こんな結末なんてやだあ!!やだよおおおお!!」
叫び声を上げると、胸を押さえて
「うぎぐぐぎぎぎぎ……」
苦しそうにしばらく悶えた後、ガクンッと頭を垂れ、白目を剥いた。そして冷静な顔を上げると
「やあ……次の神よ」
オクカワ・ユタカの顔を見上げる。オクカワは冷静に
「ブランアウニスさんですね。ハーツさんに埋め込まれた装置の停止を解除しています」
ハーツは皮肉な笑みを浮かべ
「……後始末をしようか。グランデイーヌの元へ」
オクカワ・ユタカは、白い光を放ち、ワープした。
サンガルシアを瘴気が噴き出している両手で締め上げている裸の女性の姿のグランディーヌの横へと、オクカワ・ユタカ達がワープすると、その両腕に抱えられたハーツが慈愛に満ちた表情で
「グランディーヌよ。そこまでにしなさい」
グランディーヌはパッと手を離し、サンガルシアが後方へと羽ばたきながら退くと
「虚無王様、今さら、何の用?タナベさんは死んだ。ターズさんももうヤマモトさんに殺される。王様の側近達も大悪魔達も私がこれから殺す。これが望みだったんでしょう?」
ハーツは首をゆっくり横に振り
「全てのエネルギーをこのハーツに与え給え。オクカワさんも良いね?サンガルシア!私を信じろ!」
そう言って両眼を閉じた。近づいてきた骨がひび割れて血まみれのサンガルシアが
「はよ言って欲しいですなあ……」
愚痴りながら指先をハーツの二の腕に当て、虹色に光るオーラがハーツの身体へと流し始めた。ヨレヨレと羽ばたいて上がってきた傷だらけのサキュエラもハーツへと両手を翳し同じようにエネルギーを流し始める。
グランディーヌは大きく息を吐いて
「そういうことか……」
理解した表情でハーツのほっぺたを指先で突いてエネルギーを流し始める。オクカワ・ユタカはオーロラの出た虹色の空を見上げ
「……多少癪ですが、乗りましょう。グランディーヌさんの装置も解除します」
そう言うと全身から、虹色の光をハーツへと送り始める。戦いをやめたドラゴン達や、傷だらけのネールや、猫型の霧も辺りを囲うように寄ってきて、奇跡のような輝きを眺め始めた。
地上では戦いを止めないヤマモトがターズの右腕を切り落とし、その首筋にシルバーソングを一閃する直前だった。空の上でハーツの身体をオクカワ・ユタカから渡されたグランディーヌがハーツを強く抱きしめると、全身がスパークし始め、そして閃光を四方へと放ちながら大爆発を起こした。その閃光が拠点も周囲の地形も何もかもつつみ込んでいく。
……
私は長い夢を見ていた。ターズさんに斬られたタナベさんもそのターズさんを斬ったヤマモトさんもグランディーヌちゃんも、クーナンも死んで……オクカワ・ユタカさんすら消えて……虚無王様達もとうに消えた世界で……私はずっと夢を見ていた。
無尽蔵にエネルギーを貯められる性質故に性懲りもなく生き続けた私は、ファルナバルの次の支配者であるオクカワ・ユタカさんの次の支配者になり、また性懲りもなく生き続け、私はずっと居なくなった仲間達とのあり得ない再会を待ち続けていた。
ある時、この星より大きな力が侵食してきて、私は、その力と長い時間戦い続ける羽目になった。その力は新たな男女の支配者を育て始めた。私はあらゆる力を使って大きな力に抗った。しかしとうとう抗え切れず、全ての力を奪われ、もはや敗北を悟った時、私は泣いた。大泣きして、誰よりも弱い小悪魔だった頃に戻った。
大きな力と新たなる支配者達は、拍子抜けした顔であっさりと私に力を貸してくれた。あの時の閃光を目印にやり直せるようにと。
私は自らの最後の力を使って少しだけズルをすることにした。
私は戻ってきた。
私の知っている人たちが誰も、誰一人死んでない。誰も傷ついていない少し手前の場所まで。私の知っている人達の記憶はあの閃光の時の時点にして。
この物語の一話、一月前
帝国東部
転移者達出現地点
切開かれた森の広場で綺麗な制服姿の
「あれ……リュウ、僕、死んだよね?」
「……間に合ったんだよ」
同じく制服姿のヤマモトは黙ってタナベを抱きしめる。その近くでオクカワ・ユタカが微笑み、スズナカが舌打ちをしながら
「ユタカさん、何これ。時間戻ってない?つーかさー残りの4人は?」
オクカワ・ユタカは微笑んで
「彼らは帰りましたから。女神も」
そう言うと、遠くから両腕を振り、飛び跳ねながら走って来たハーツを見つめる。
人のガナリ声で目覚める。
「おいターズ!息子の義足まだできねえのか?」
どうやら奥の休憩室で眠ってしまった様だ。長く、酷い夢を見ていた。異世界転移者達に延々と復讐を続ける夢だ。最後は力及ばず、斬られたが……間接的にも直接的にもかなり転移者達を殺せたと思う。しかし、何も失っていないと分かると、肩の力が抜けていき
「……もうごめんだな」
そう言葉が自然と口から出た。
仕事場へと出ていくと、俺は驚愕して固まってしまう。スパンキーが客への応対をしていた。炉もしっかり温まったままだ。
「お前……」
客が帰ると、スパンキーは俺に抱きついてきて
「師匠……!もうニンゲンスレイヤーなんかにならないでください……俺が居ますから!」
「……そうか」
俺はどうやら二度目のチャンスを貰ったようだなと思うと、店の外から
「ターズさん!凄い凄い!全部元のままだ!奇跡が起きた!皆生きてる!」
アーシィの騒がしい声が聞こえた。
一カ月後
ジャンバラード城下町
「にゃんかさー納得いかねえにゃー」
懐に黒猫を入れたネールが
「虚無王に色々と責任取らせたから良いじゃろうが、ほら、兄さんに会いに行くぞ」
「まあにゃー……私達は好き勝手逆さの楽土から出れるしにゃー……ふざけた14層もまたソーラとファイアルと創ったからいいけどにゃー……大悪魔王様いねえしにゃー」
愚痴り続ける黒猫を横から人間の姿のサンガルシアが見下ろし
「女神様も居らんし最高やないか、ほら行くで。ターズと、はよ話したいんや」
2人と一匹は雑踏の中、煙突から煙を上げる鍛冶屋へと歩いていく。
……
その後、私は、グランディーヌちゃんとクーナンと合流して、空席だった支配者の席に収まったオクカワ・ユタカさんの力を借り、虚無王様達にも会いに行き、タナベさんと結婚して、皆で楽しく生きましたとさ。と、言いたい所だけど、結局、また同じ孤独な結末にしかならない気がして、もう皆に協力して貰って、超絶ハッピーエンドを目指すことにした。……例えば、自由に行き来なんか出来たら最高でしょ?それになんか向こうのが、時間の進みが遥かに遅いみたいだし……これは色々と利用できるかも知れない。
地球、病室
オクカワ・ミノリが鼻水と涙で顔をグシャグシャにしながら兄に必死に心臓マッサージをしている横で、他3人は呆然としている。オクカワ・ミノリは腕を動かしながら
「タナベ君!リュウジ!スズナカさん起きてよおお!皆手伝って!看護師さんはまだ!?」
半狂乱でそう叫んだ瞬間、スズナカが
「あーうっさい。委員長声デカ」
欠伸をしながら目を開け、続けてヤマモトとタナベが起きると、病室の扉を見つめる。
横滑りの扉が開くと、白衣のポケットに両手を突っ込んだ長い髪で冷静な顔の女医と慌てた表情の小柄な看護師が入ってきて、看護師がピースしながら
「どうだっ!マイダーリン!逆転生して看護師になったぞ!」
「良かったあ……計画通りだ……」
タナベがホッとして崩れ落ちヤマモトに支えられ、女医が冷めた目で
「准看だから。ハーツちゃん看護師無理だったから」
「ちょっとお……グランディーヌちゃーん……ここに就職するのだって、大変だったんだよお?」
女医は冷静な様子のまま、オクカワ・ユタカのベッド脇にいくと、ポケットから飴玉の様なものを取り出し、オクカワ・ユタカの口に入れた。そして唖然としているジンカン、クマダ、ワタナベを見回し
「大丈夫。私達は地球人を虐殺なんかしないから」
と言うとニカッと笑う。背後ではオクカワ・ユタカが目を開けた。
完。




