<エピローグ>製作サイドの苦悩2
簡単な変更でいけるようキャラクター、シナリオをつくった甲斐もあり正式リリースには間に合った。
私の理想を詰め込んだ和風百合アプリとは違い、がんがんダウンロードされた。
王道ってすごい・・・。
なんだか知らないうちに課金アイテムも良い感じに盛り込まれていた。
イベント時に着用する着物などの服や出てくるお菓子とかをカスタマイズできるようになっていて、それによって好感度が上がる。
課金アイテムには便箋もあって、手紙も出せた。文章は一言程度だけどちょっとだけ私の設定が残っていて嬉しかった。
私の設定とは違うけど、素敵なゲームアプリが配信できて良かったなと思った。
しかし、本当にすごかったのはゲームアプリというよりも二次創作パワーだった。
主人公の攻略よりもむしろキャラクター同士のカップリングがめちゃくちゃ流行った。
お情けでホームページに残されていた私の設定が二次創作で流行ったのだ。
そう、姉妹制度だ!
やはり大正浪漫なエスの世界の純愛百合は需要があったのだ!
ちなみに担任や養護教諭は隠しキャラのはずだということもすぐに予想され攻略された。
しかし、ひとつ大きな誤算があった。
アプリをどんなにやりこんでも悪役令嬢が攻略できないというツイートが出始めたのだ。
<世界一可愛いツンデレ悪役令嬢を攻略できないのがつらい>というコメントともに悪役令嬢の二次創作漫画が投稿されたのをきっかけに悪役令嬢が大ブームを引き起こした。
たった一人の悪役令嬢ということで、すべてのカップリングの二次創作で当て馬的に登場した。
それがまた人気をよんだようだ。
ふみかの頭文字を使って<不憫すぎて 見てられないくらい 可愛い>というタグが流行り、二次創作イラストがめちゃくちゃ投稿された。
本編に悪役令嬢の活躍があまりにもないために二次創作でのキャラ設定が自由にできたが故に起きた流行である。
二次創作の世界だけでも芙実果を幸せにしたいという同人作家が同時多発し、それをみたライトヲタが芙実果めあてにアプリをダウンロードするも攻略できないという悲劇が起きまくったのである。
予想外の反響を経て、第一回目の人気キャラクター投票で堂々の一位が悪役令嬢という驚きの結果になった。
一位のキャラとヒロインでオリジナルストーリーを配信することになっていたので、オリジナルストーリーみたさに他キャラ推しのユーザーも悪役令嬢に投票したようだ。
一人一票は無料で投票できるが、課金アイテムでの投票もできるようになっていたので積んだユーザーもいたとしか思えない投票数であった。
単発でのオリジナルストーリーだったのもあって、みんなで最高のストーリーを考えて配信した。
キャラ設定のときにデスマーチ中の深夜のテンションで作ってしまった悪役令嬢という不憫さから今度はめちゃくちゃ考えた。
それがまたまた大ヒットである。
不憫可愛いと評され、さらに「不憫かわいい」がまさかの流行語大賞にノミネートまでされた。
エロかわいいならともかく、不憫かわいいってなに?
もはや社会現象である。
悪役令嬢を攻略できるようにする必要がでてきた。
ライバル役でちょろっと登場させるためだけに作ったキャラがこんな風になるなんて・・・。
愛され悪役令嬢という謎の二つ名も与えられた。
そんな社会現象を起こした悪役令嬢の攻略ストーリー。
私たちは考えた。元の世界観はそのままにしつつ、悪役令嬢をさせながら攻略できる設定を。
とりあえず後輩攻略と同じで三年生に進学してからイベントが発生する仕組みにするまで決めたあとはなかなか思いつかなかった。
またまたデスマーチの深夜のテンションで話が進む。
「あのさ、私のヤンデレ好きを爆発させたい。メリバとか欲しいなって思うんだよね!」
「メリバってなにそれ?」
「メリーバッドエンド!プレイヤーの解釈とキャラ側の解釈によって幸福と不幸がそれぞれ違うっていう感じのエンド!」
「えー、私は大正ロマンな純愛百合の世界観を大事にしたいんだけど。」
「そういうけどさ、あんたの好きなエスの世界って少女同士の心中が流行ったりしたんでしょ?心中はさすがにあれだから、とりあえず駆け落ちか監禁にしたらいいと思うの。」
「駆け落ちじゃなくて監禁も選択肢にあるの?芙実果、かわいそうじゃない?」
「じゃぁ、監禁じゃなくて囲い込みってことで!」
「う~ん?」
「あー、でもわかるかも。このアプリさ、基本は姉妹設定の擬似恋愛だから思い出をありがとうエンドだけじゃん?でもヒロインと悪役令嬢は同級生だからさ姉妹にはならないでしょ?思い出をありがとうエンドは難しいからどうしようかなとは思ってたのよ。」
「そうそう!だからさ、擬似恋愛じゃなくて本当の純愛でいこうよ!ハッピーエンドはヒロインが悪役令嬢にリボンをついた鍵を渡して、遠くの街に駆け落ちして、二人で買い物行ったりしながら幸せに暮らすの。メリバでは紐がついた鍵を渡して家に囲い込むってどう?」
「なるほど。悪役令嬢はもともと家族に存在をスルーされてるし、外に出ることもなかっただろうしね。ヒロイン以外の誰にも会えなくても、もともとそういう生活だからおかしさを感じないし、普通に幸せを感じてるみたいな感じにするってことね。」
「やっぱ期待の悪役令嬢ルートだから、他のキャラとは違うエンディングがいいよね」
「そうだね、そうしようか。なんか悪役令嬢っぽくていいかも!」
「囲い込みってなると…二人とも学院生活ではぼっちで浮いてる必要があるよね。」
「そうね、友人が多いとなんかおかしいことになりそうだし。」
「じゃぁ、愛されヒロインがあえて攻略対象の好感度を一切上げずにぼっちで一年過ごしたら、悪役令嬢の攻略ルートが開放されるってどう?」
「あ、それいいかも。初心者向けキャラの道山科ちゃんなんて最初から好感度高いし、逆に下げるのって難しいしね~」
「うん、攻略が最難関のキャラにしよう!」
「サポートキャラはどうする?」
「うーん、一切関わりを持たないようにしとく?一年間たった一人で全てのイベントをこなすという苦行を達成したら悪役令嬢のルート開放ってことで。ここでちょっとでも好感度があがったらメリバになる可能性もあがるってことにしよう。」
「そうだね、その方がなんかこう・・・ヒロインと悪役令嬢だけの世界観が生かされそうだし!」
「でね、乙女ゲーもだけどさ、攻略するとかいいながら基本的には相手に好かれて選んでもらえるような選択肢が多いじゃん?悪役令嬢に関してはさ、自分へ向けられる愛が信じられない子を口説き落とすシナリオにしてほしいの。」
「好きになってもらうんじゃなくて、好きにさせてみせるっていうこと?」
「愛され系ヒロインから愛する系ヒロインになるわけね。いいじゃん!」
「「「じゃ、その方向で!」」」
***
「たま、あなた私の話を聞いていて?本当に大丈夫なのかしら?」
目の前の悪役令嬢が私にいう。
「大丈夫大丈夫!」
各月のイベントの度に何度も繰り返してきたこのやりとり。
この子は人気投票のことも知らなかったし、当然悪役令嬢攻略ルートも知らないだろう。
まさかいまヒロインが悪役令嬢の攻略に入っているとは夢にも思わないだろう。
そう、この一年はサポートキャラも悪役令嬢も何もしないことが仕事なのだ。
メリバエンドにはなってほしくないけど、一応設定では悪役令嬢は全く困っていなくて幸せを感じてるってことになってたから・・・大丈夫だよね?
卒業式にヒロインが悪役令嬢に自分の瞳の色をしたブラウンのリボンを渡す。
「この学院では仲良くなりたい人にリボンを渡すって聞いたから・・・」
というセリフとともに。
このリボンを悪役令嬢はためらいながら受け取る。
そのときにリボンをヒロインがどう結ぶかで悪役令嬢エンドのルート開放最初の分岐点になる。
ヒロインがリボンの結び目が綺麗にみえるような白雪姫スタイルでの結び方をした場合は悪役令嬢ルートのハッピーエンドに向かっている。
ハチマキ風というかカチューシャっぽく、結び目が見えない場合はメリーバッドエンドに向かっている。
もちろん三年生でのイベントの選択によって変わる可能性はある。
しかし、実はメリバの方が圧倒的に不憫可愛いと大人気だった。
ヤンデレ好きスタッフの暴走により、百合ゲーを超えてヤンデレゲーとしてもウケた。
純愛大正ロマン百合ゲーがヤンデレ百合となって大ブームを引き起こすなんて誰が予想しただろうか・・・。
さて、ヒロインはどう動いてくるか。
っていうか、この悪役令嬢ルートを知っている時点でヒロインも転生者の可能性がある。
悪役令嬢が疑っているように本当にただのノンケのぼっちだったなら、卒業式のイベントは起こらず、来年は平和な一年が送れるはずなんだけど・・・。
どうなるのかな・・・。
あー!とにかく悪役令嬢には幸せになってほしい!!!
私、三年生になったらあんたのサポートキャラとして頑張るからね!!!!
三年生のサポートキャラにはもう設定ないし!
私が幸せにするから!!!!!
だって、あんたって本当に不憫で可愛いんだもん!
さぁ!最終話のヒロインちゃんはどんなリボンの結び方をしたんでしょうね?
気になりますねー!
ハッピーエンドに向かうのかメリバエンドに向かうのか、まさかのたまエンドか?!
ご自由にご想像ください。
三年生では悪役令嬢ちゃんがヒロインとサポキャラ、ついでに攻略対象に愛されまくって面白おかしく過ごしてくれると思います。
<百合ゲーの悪役令嬢に生まれ変わったけど、なぜか主人公達に愛でられてます。>みたいな感じだと思います笑
最後までご覧いただき、ありがとうございました!