レベル84 謀将がまたむちゃくちゃしようとしている
「顔つきが変わったな」
ファリオスは自分の前にやってきた拳術家を見て、笑う。
「その節はお世話になりました」
キースたちがキディスへ向かい、このグランデ王国の責任者はファリオスだ。
その責任者が挑んできた相手と一対一で戦うなど非常識にも程がある。
しかし、ファリオスは己のそんな癖を好んでいた。
まったくスキルをとらないという成長の仕方もそんな癖の一つだ。
だから、アグリスが制止する間もなく、ぬるりと両手剣を取り出す。
無骨な金属の塊。
有り体に言えばファリオスの武器はそんなものだ。
ダークエルフとして生まれながらも武の道を歩き続けてきた自分そのものだ。
「来な」
ファリオスのそれを合図に、二人は飛び出した。
「裏の拳“夜蜘蛛落とし”」
「剛断!」
振り下ろす一撃が激突する。
そこから、まったく互角の戦いが続く。
そして、短くない時が流れて、そこには無傷で構えるヨートと、殴られまくった結果、両手剣を支えになんとか立っているファリオスがいた。
「おかしいよなあ? これでもレベルカンストしてんだぜ?」
「レベルによらない力。私が得たのはそれです」
「なんだよ、それ?」
ファリオスは力を振り絞って剣を振るう。
風を切り裂き刃がヨートに、届かなかった。
戦いの流れを支配しているのはヨートだった。
振り払ったファリオスの剣は硬直し、その間隙にヨートが潜り込む。
「我は我のみにあらず、我が拳は宇なり。宙なり、裏の拳“死崩拳”」
魔力の流れはファリオスの鳩尾に、ヨートの拳に導かれるように流れた。
会心の一撃、いやもはやその状態こそが通常攻撃。
死崩拳はそこからさらに魔力の解放へと繋がる。
己の魔力を解放すれば、見かけ上のレベルが上昇する。
しかし、外気功の場合はその力が一点に集中し、爆発的なダメージとなる。
レベル100のダークエルフの魔将が吹き飛ばされるほどの。
吹き飛ばされたファリオスは受け身もとらずに地面に叩きつけられた。
沈黙が場を凍えさせる。
誰も動かない。
やがて、ヨートが口を開いた。
「誰か、ファリオス様のことを見てください」
ふらふらとアグリスが前に出る。
そして、ファリオスの手首、首筋、右胸と確かめて首を横に振った。
「死んで……ます、ファリオスさまが……」
動揺が広がる。
現役の魔将を倒した存在に、誰も身動きがとれないのだ。
ヨートは両手をそろえて前に出した。
「縛につきます。牢はどこでしょう?」
ずいっと歩を進めたのは“鬼”だ。
カダ・ムアンのガランドである。
度胸があるというか、修羅場慣れしているというか。
そのおかげで局面が動いたのは確かである。
「我らを倒しはしないのか?」
「私の望みはファリオス様との勝負だけです。それも叶った今、魔王軍の魔将殺しの罪を償おうと思います」
「承知いたした。ただし指揮をとるキース様が不在のため、しばらく、お待ちいただいてもよろしいか?」
「いかようにも」
ガランドは頷くとヨートを連行した。
そしてヨートは地下牢に入り、キースたちがやってきた、というわけだ。
敬愛していた団長の死に、アグリスは幽鬼のようにやつれて寝込んでしまった。
かわりに、混成魔軍団の指揮はガランドがとっている。
”鬼”が持つ強さと冷静な判断力、そして度胸が将兵に認められた感じだ。
ヨートの話とガランドからの報告を聞いて、キースは腕を組む。
これからどうなる?
いや、どうする?
「ガランドの判断のおかげで混乱と崩壊はまぬがれた、しかし、これは一時的なものだ。魔王軍の不安定さは変わらない」
強さ、に重きをおく魔王軍の魔将が敗れた。
ということは、魔王軍そのものの強さが疑われている、ということだ。
今はまだ、表面化していないが、例えば戦いの大事な局面で、疑問を抱いたものが動かないだけで戦局に大きく影響することはありえる。
「強さを見せ付けるしかない」
「誰と誰が?」
ジェナンテラが不思議そうに俺を見ている。
「俺とヨートさ」
おかしいよな。
近接攻撃職である”拳術家”のヨートと、遠距離攻撃職である”弓使い”の俺が一対一で戦わなきゃならないなんて。
でも、それをしなければ魔王軍の指揮官の”謀将”キースが実はすごい強いんだ、と見せ付けなければ魔王軍は瓦解してしまう。
と、いうわけで魔王軍”謀将”キースと”拳術家”ヨートの試合が行われることになった。
キースが勝てば、ヨートの生殺与奪を好きにできる。
ヨートが勝てば、無罪放免。
まあ、そうなれば魔王軍は崩壊するだろうけど。
「いいんですか、キース」
久しぶりにヨートから敬称をつけられずに呼ばれた。
「なにがだ?」
「武器です」
キースは弓を持っていない。
もちろん矢もだ。
剣なんて使えないし、ローグ職の初期武器(であり最終武器ともいわれる)ダガーも持っていない。
つまり、徒手空拳ということだ。
「構わないさ」
「それは、私がわざと負けるとでも思っているからですか?」
ヨートの立場は非常にまずい。
もし、勝ってしまうと魔王軍はなくなってしまう可能性が高い。
そして、それは魔王様ががっくりするに違いないのだ。
「そういう奴じゃないだろ、お前」
「そうですよ。常に全力でやらせてもらいます」
「じゃあ、問題ない」
向かい合う二人を、魔王軍の将兵は固唾をのんで見守っていた。
「勝てると思いますかい」
グレーターゴブリンロードのイグニッシが誰にとは言わずに聞いた。
「キース様が非常に不利」
答えたのはガランドだ。
ガランドはファリオスとヨートの戦いを見ている。
その言葉には重みがある。
「でも、何か策があって無手なのでは?」
ハーフハルピュイアのフィナールが言った。
「いかな策があろうと、キース様が不利なのは変わらぬ」
戦いを見守る中で、最も武に長けているであろうガランドが辛そうに言う。
そこへ、戦いを最前列で見ているジェナンテラが口を開く。
「でも、私はキースが勝つことを信じている」
彼女の力強い言葉に、幕僚たちは頷いた。
「魔王様をのぞけば、キース様があっしらの大将ですからね。信じようじゃないですか」
イグニッシは目を細めて、キースの様子を探る。
何をしようとするか、予測するように。
この魔王軍に集ったものたちは、その多くが魔王封印後に生まれたものたちだ。
だからこそ、伝説の魔王軍の復活というセンセーショナルな出来事に、興味本位で集まった者も少なくない。
そして、魔将ファリオスの敗死に、こんなものかと見限ろうとしていたものも多い。
キースの予測は当たっていた。
興味本位で集まったわりに、ファリオスの訓練についてこられる平均レベル40以上の者たちが離れれば魔王軍は弱体化する。
「というわけで俺も負けるわけにはいかないんだ」
「初めてですね。私達が戦うのは」
「そうだな。普通同じパーティーでは戦わないし、グランデでも魔王様としか戦わなかった」
「あなたを倒す」
ヨートは構える。
半身になり、片方の拳を突き出し、反対側の足を引く。
動作の一つ一つが力を生み出し、伝導し、必殺の拳になる。
無手だからこそ、肉体の全てを駆使するからこそ、生み出される一撃。
対して、キースは手をだらりと下げ、全身の力を抜いている。
「お前は勝てない」
キースのその言葉に、ヨートは動じずに足を踏み出した。
次回!前衛と後衛が戦う!キース必勝の策とは!いやそもそもそんなものはあるのか!
明日更新予定です。




