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レベル1の魔王様は遠慮しない!  作者: サトウロン
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レベル81 熊殺し、再び

「ファリオス様が現れて、この城を出ていったヨートさんの気持ちがわかる気がします」


ダークエルフの“闇将”ファリオスに向けて、副軍団長を任命されたアグリスはそう言った。


「私は弱いやつの気持ちはわからないけどな」


「そうですよね」


晩夏とはいえ、まだこのあたりは暑い。

しかし、船上であるため潮風がその暑気を払ってくれる。


「まあ、魔王様にかなわなかった私がそんなことを言うのはおこがましいかもな」


そういえば、魔王軍が正式に再結成されてからファリオスの口調が変わっていた。

おそらくは魔王様との再会がそうさせたのだろう。

五百年ぶりに会う主君というのはどういう感じなのだろうか。

アグリスとしては、例えばベルデナットと再会したとしても何も思わないかもしれない。

いや、よく考えたらこの遠征で確実に出会うことになる。

魔王軍はグランデ王国を支配下に治めようとしているのだから。


「私は強くなったでしょうか?」


グランデ内乱、トラアキア平定を経てアグリスは強くなったと思った。

そして、ファリオスに惨敗した。

仕えるに値すると思っていた人はもう手の届かない高みにいる。

魔王様の腹心にして、二代目“謀将”?

いつの間にそんなに引き離されてしまったのか。

グランデ王国では確かにすぐ近くにいたはずなのに。


「ジェナンテラが気になるか?」


見透かされた。

アグリスの頬に羞恥の赤みがさす。



「やっぱり師匠ですね」


「見ればわかる。想い人を完全にとられてしまったからな。はっはっは、残念だろう?」


「もう。そんなに馬鹿にしないでくださいよ」


「馬鹿になんかしてないさ。私だって同じだ。いつの間にか魔王様の隣には別の女がいる」


「え……? 師匠って魔王様のことを?」


「あったり前だろ。強くて優しくて格好いいんだぞ。ジェナンテラは友達だって言ってたから見逃してたけど、デルフィナやヒュプノスなんかとはいつも魔王様の隣を争ってたんだ」


「へぇ~」


ハーレムのドロドロ展開とかいうやつだろうか。

しかし、ファリオスの口振りだともっと爽やかというか物理的に争っていたような感じだ。


「私とデルフィナが争っているとだな。いつの間にかヒュプノスが魔王様の隣にいたりだとかなあ!あったんだよ、色々」


「そうだったんですか」


「それがさあ。メルチちゃんだよ。がっかりだよ、わたしゃあ」


メルチもまた激強になっていた。

レベルがカウントストップであるはずの100を突破しているのだ。

ステータスもかなりのもので、そのへんの本職の戦士でも白兵戦で相手ができるというわけのわからない成長をしている。

彼女にも置いていかれたのだ。


「私は、もっと強くなれるでしょうか」


「私の教育方針を教えてやろう」


「なんです、急に?」


「強くなれるか考える前に強くなる修行だ! それい!」


まったくの不意打ちをファリオスは仕掛けてくる。

どこから取り出したか、硬そうな棒を突きだしてくる。

アグリスはそれを抜いた剣で打ち落とす。

甲板に落ちた棒はファリオスの力技でぐにゃりと蛇のような動きでアグリスに向かってくる。

面倒な動きの時は思いきって回避。

想定の動きより、さらに長くファリオスの棒は伸びてくる。


「見えてますッ」


「そうかなッ!」


さらに二人の戦いは加速する。


「団長と副団長、また戦ってるよ」


「団長、副団長のこと可愛がりすぎなんだよなあ」


まわりで見ている混成魔軍団の団員の感想は、またやってるよ、だった。

ファリオスはことあるごとに、アグリスに訓練と称して不意打ちを繰り返していた。

この遠征の出発式でやりはじめようととした時は止めるのに苦労した。

なにせ、五百年前からの現役の魔将である。

魔王以外には言うことをきかせられないだろう。


とまあ、混成魔軍団によるグランデ遠征軍は順調に行軍していた。


魔王不在時の全権を握るキースによって開始されたグランデ王国への遠征。

今後の魔王軍の行く末を決める戦いになる。


「戦い、になるのかな?」


キース専用口調のジェナンテラが聞いてくる。

指揮官専用の船室にはキースとジェナンテラしかいない。

外からはファリオスとアグリスの訓練の声が聞こえる。

船上でも熱心だなあ。


「戦いにはならないと思う」


「そうか」


グランデ王国のベルデナット女王はたぶんメルチに継ぐ魔王様支持者だ。

国を譲るということに不安はあるだろうが、噂に聞く通りの合理主義者ならメリットとデメリットを正しく判断してくれるはずだ。


「ところで、なんなの? その仮面」


キースは手にした舞踏会用のものを改造した仮面を見た。


「俺は……グランデでは死人だからな」


グランデ内乱で反乱軍であるアトロールについたキースは、内乱の収拾をはかるために戦場で死亡したことになっている。

混乱を避けるために名前を変え、顔を隠すことにしたのだ。


「ば、バカな、貴様は死んだはずだ!? とかやらないの?」


「やるか、そんなの。だいたい、今の政権側はみんな俺が生きていることは知ってるよ」


反乱軍側でも、“聖女”メレスターレなどは俺が生きていることに気付いていた。


「なんだ、つまんないの」


キースは仮面をつける。

視界はやや狭まるが、ジェナに“広域視界”の魔導スキルをかけてもらったため問題ない。

というか、ジェナは魔導スキルも使えるのだな、と感心したら呆れたように、魔族は魔導スキルの適正最高なのよ、と言われた。

そういえば、魔族は魔力が意思を持ったものだと聞いたことがある。

魔導スキルは最も魔力を効率よく使う系統だ。

適正最高なのも頷ける。


では、人間は?

人間はなんなのだろうか。

考えたこともなかった。


いや、考えてもわからないことはとりあえずおいておこう。

大仕事を前に現実逃避をしたいことくらいわかっている。


「“謀将”キース様、そろそろ接岸します」


船員が目的地が近いことを報せてきた。

グランデ王国の領土まであと少し。


「よし、全軍に上陸の用意をさせよ。グランデ領内に野営陣地を設置したのち、王都へと進軍する!」


「は、かしこまりました。すぐに全軍に通達します!」


船員が出ていくと、ジェナが笑っていた。


「“謀将”と呼ばれても緊張しなくなった?」


「いや。まだ結構してる」


「でも指揮官の感じは出てたよ」


「そうか? そうならいいんだが」


まだまだだな、とベリティス様なら言いそうだ。


とにかく、上陸だ。


力自慢の多い混成魔軍団だけあって、力仕事はみな得意なようだ。

あっという間に木の柵がぐるりと陣地を囲み、天幕がいくつも立ち上がる。

キースは顔見知りの“鬼”であるカダ・ムアンのガランドを見つけて声をかけた。


「ガランド、首尾はどうだ?」


「キース殿。陣地設営に問題はないでござる。それにしても、この森は心地よい」


「そうか? 俺は湿気が多くて苦手だがな」


「それがしの故郷であるカダ・ムアンの森は乾燥した大地の中にあり申す。それゆえ、我が一族のオーガをはじめ多くの魔物の係争地となっておりました。その騒がしき森に比べれば極楽でござる」


「なるほどね。それと比べれば、か」


言われてみれば、こういう緑が深くて、果物の匂いがする森も悪くないのかもしれない。

視界に入る何かに、ついキースは反応し矢を射る。


グオガッ!


という悲鳴と、ドサッと重いものが落ちる音。


「何を射ったので?」


「さあ?」


キースとガランドが近付くと、そこには脳天を射ぬかれ事切れた大きな熊がいた。


そういえば、前もグランデで熊退治をしたような。


「なかなか旨そうな熊でござる。今夜は鍋にしましょう」


何事もないかのように、ガランドが提案する。

熊鍋か。

ベリティス領の森でも食べたことはなかった。

射殺した熊に手をあわせ、キースはそれを運ぶために兵士を呼んだ。

次回!面倒な交渉を仮面の軍師がめちゃくちゃやる。魔王様の出番はしばらくありません


明日更新予定です。

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