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バーテンダーは見た

 たーくんと結婚して初めの一年は本当にバタバタで嵐のような日々だった。

 二年目にだいぶたーくんの事務所が落ち着いてきて、結婚二周年を迎えるころには、私たちはだいぶ夫婦らしくなってきていた。

「おい、ミケ、何か困ってないか?」

 ただ、父が亡くなったあの日以来、こうしてたーくんが発作的に、私が困っていないか気にする日がある。

「と、特には……」

 と、言いつつ、多少思うところのある時に言われるものだから、少しひやっとするのだが。

「ホントのホントに困ってないんだろうな?今日親父さんに夢枕に立たれたから、何もないはずはない!」

「実は、出来ちゃったかもしれないので産婦人科に行こうと思っています」

 ここまで確証を持たれたときに嘘をつくと逆に後ですごくねちねち怒られるため、最近は、諦めて正直に言うことにしている。

「わかった、車で送って行く」

 仕事があるから一緒についてはいけないけれど、と、申し訳なさそうに言いながら、たーくんは出かける支度を整え始めた。


 たーくんは、何か困ったことがあったら連絡するようにと言って、仕事に出て行った。

「三番診察室の前でお持ちください。受付番号でお呼びしますね」

 初診だった私は、あちこちでたくさん待たされた挙句、やっと、診察室前までやってきた。

 診察室前には診察する先生のネームプレートが掲げてあった。

 笹岡翠……どこかで見たことがあるようなないような……。

 きっと、女の先生だと思うけど、男の人でもないこともない名前だなぁ。

 ちゃんと、女の先生でって言えばよかったかなぁ?

「翠先生、また来るね!」

 私の前の人らしい女性が診察室から出て行った。

 みどりって言うのだから女の先生のような気がする。

 それに、男の先生であんなノリで話せない気もするし……。

 何だか少し安心したが、少しだけ緊張もしてきた。

 次はいよいよ、私の診察だ。

 そう思って待っていると、受付の人が声をかけてきた。

「あの、水口慶子さんですか?」

「はい」

「お電話が……」


 受付の人に連れられて、私は電話口に出た。

「俺だ」

 電話してきたのはたーくんだった。

「診察終わったか?どうだった?もう少しで仕事終わるから、迎えに行くから暖かくして待ってろよ!それで、どうだった?男か?女か?」

「あの、たーくん」

「ん?」

「まだ、これから診察」

「そ、そうか」と、恥ずかしそうに言って、たーくんは電話を切った。

 待合室に戻ると、「もう、呼ばれましたよ」と、受付の人が教えてくれた。

 思わず私は慌ててノックもせずに扉を開けた。

 そこで目に入ってきたのは、谷岡さん、と、そのお腹に頭を擦り付けている笹岡さん。

 何か、見てはいけないものを見た気がする。

 私はそのままそっと扉を閉めた。

 今、見た光景は忘れよう。

 私は、そのために、少し違うことを考えることにした。

 笹岡翠先生は、谷岡さんが、笹岡さんと結婚して、笹岡翠先生になったってことか。

 そういえば、谷岡さんは産婦人科の先生だったような気がする。

 笹岡さんと谷岡さんは、結婚しているのだから、あの謎のプレイも黙認して大丈夫だろう。

 そう思っていると、中から声が聞こえてきた。

「先生、聞こえましたよ!声!」

「本当?」

 …………声って誰の?

 終わったー!

 自己満足でした!

 ありがとうございました!

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