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 カイは、形を失い、虹色に濁った世界の中で、ただ一人静かに立っていた。

 足場が消えても、彼は沈まない。

 呼吸が止まっても、彼の鼓動は乱れない。


(……色など、最初からいらなかった。……師匠、俺は今、ようやくあんたの言っていたことが分かる気がする)


 カイが、ゆっくりと目を閉じた。

 彼の中にあった「怒り」も、「自我」も、そして「力み」さえもが、透明に消えていく。


「……斬るのではない。……そこにあるべきではないものを、元に戻すだけだ」


 カイが、一歩を踏み出した。

 シルフの書き換えた狂った法則を、ただの「歩行」で踏み躙り、カイは彼女の目の前へと肉薄する。


「な……なぜ!? 物理法則は消滅させたはずよ! なぜ動けるの!?」

 シルフが初めて、その貌を恐怖に歪ませた。


「——お前が描いた絵が、あまりに汚かったからだ」


 カイが剣を抜いた。

 それは、光さえも置き去りにした、究極の「無」。


(無色一刀流・最終奥義——『虚無きょむ』)


 ——刹那。


 世界から、全ての「色」が消えた。

 シルフが展開していた禁断魔法も、アヴァロンを包んでいた魔力の輝きも、そして空を埋め尽くしていた極彩色の曼荼羅も。

 全てが、カイの放った「究極の透明な一撃」によって、根源から消去された。

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