47/74
18
カイは、形を失い、虹色に濁った世界の中で、ただ一人静かに立っていた。
足場が消えても、彼は沈まない。
呼吸が止まっても、彼の鼓動は乱れない。
(……色など、最初からいらなかった。……師匠、俺は今、ようやくあんたの言っていたことが分かる気がする)
カイが、ゆっくりと目を閉じた。
彼の中にあった「怒り」も、「自我」も、そして「力み」さえもが、透明に消えていく。
「……斬るのではない。……そこにあるべきではないものを、元に戻すだけだ」
カイが、一歩を踏み出した。
シルフの書き換えた狂った法則を、ただの「歩行」で踏み躙り、カイは彼女の目の前へと肉薄する。
「な……なぜ!? 物理法則は消滅させたはずよ! なぜ動けるの!?」
シルフが初めて、その貌を恐怖に歪ませた。
「——お前が描いた絵が、あまりに汚かったからだ」
カイが剣を抜いた。
それは、光さえも置き去りにした、究極の「無」。
(無色一刀流・最終奥義——『虚無』)
——刹那。
世界から、全ての「色」が消えた。
シルフが展開していた禁断魔法も、アヴァロンを包んでいた魔力の輝きも、そして空を埋め尽くしていた極彩色の曼荼羅も。
全てが、カイの放った「究極の透明な一撃」によって、根源から消去された。




