部屋の前にメイド姿の護衛騎士がいた件
訓練場の熱気がまだ体に残っているうちに、エリシアとカトリーヌに両腕をがっちり捕まえられた。
「ちょっと待って! まだ遊び足りないのよ~!」
「新作スイーツの全制覇まで、絶対に離さないんだから!」
俺の「え、ちょっと……!」という声など完全に無視されて、そのまま王宮の裏門を抜け、街の中心へ一直線だ。
道中、二人の会話はもう止まらない。
「やっぱりジーク様がアレン様の腰を抱き寄せた瞬間、あれはもうプロポーズよね?」
「違うわ! あれは『お前は俺のものだ』っていう無言の宣誓よ!」
「殿下がその場にいなかったのが悔しい……三角関係の最高潮を見逃した……!」
(俺、ただお菓子食ってただけなんだけど……)
俺は必死に「そうですわね」「あらまあ」と相槌を打ちながら、心の中で「早く終わってくれ」と祈るしかなかった。
街に着くなり、二人は本気モードに突入した。
シュークリーム専門店 → マカロン屋 → モンブランが自慢のカフェ → クレープの屋台 → パフェ専門店 → 最後はケーキ食べ放題の店……。
「次はここ! 限定の苺タルトよ!」
「もう……お腹パンパンですわ……!」
「そんな可愛い顔で拒否しないで~。ほら、あーん♡」
(あーんされる側がこんなに苦しいなんて、今日初めて知った……)
さらに追い打ちをかけるように、二人は俺を肘でつつきながら囁き合う。
「ねえ、あなた、さっき訓練場でジーク様とアレン様のこと見て、ちょっと顔赤くなかった?」
「えっ、私!?」
「ふふ、図星ね~。もしかして……あなたもあの二人に落ちてる?」
「ち、違いますわ! 私は……その……殿下派です!!」
(今、完全に墓穴掘った……!?)
「きゃー! 殿下派!? 新手のライバル出現!?」
「三角関係が四角関係に進化する瞬間……!」
二人は目をキラキラさせてさらに盛り上がり、俺はもう限界だった。
(女の子の友情パワー……マジで化け物だ……タフネスが異常すぎる……)
※※※
夕方、王宮に戻った頃には俺は幽霊みたいにフラフラだった。
自室の前でようやく解放されて、扉に手をかけた瞬間――
「おかえりなさいませ、ご主人様♡」
ドアの前にアレンが立っていた。
なぜか俺のメイド服の上着を羽織ってる(サイズが合ってない)。
「……お前、何その格好」
「殿下の留守中、お部屋をお守りするためにコスプレしてみました!」
「誰が頼んだんだよ!!」
そこへ、後ろから低い声がする。
「……おかえりなさい、殿下」
振り向くとジークがいた。
いつもの騎士服姿で、でも手に紙袋を提げている。
「うわっ! また後ろにいるな!! 心臓止まるって何回言えば分かるんだよ!!」
プンプン怒る俺を見て、ジークの口元がわずかに緩む。
「……怒った顔も、とても可愛らしいですね」
「可愛いって言うな!! 俺は王子だぞ!! ……今はメイドだけど!!」
顔を真っ赤にして部屋に逃げ込んだ。
中に入ると、アレンが当然のように後ろからついてきて、ジークも静かに入ってくる。
「殿下、お疲れのようですね」
「疲れたなんてもんじゃない……令嬢二人に拉致されて、スイーツ地獄とBL講座のダブルパンチ……」
ベッドにどさっと倒れ込むと、ジークがそっと近づいて紙袋を差し出した。
「……これを」
中を見ると――街で食べた、あの店のシュークリームが丁寧に箱詰めされている。
「え……なんでこれが……?」
「殿下が令嬢たちに連れられた店で美味しそうに頬張られる姿を確認しました」
「……は?いつからいだんだよ!?ストーカーかよ……」
俺は箱を抱きしめて、ちょっとだけ胸が熱くなった。
「これ……俺、買って帰ればよかったなって思ってたんだよ。ジークとアレンにも食べて欲しかったから……。二人とも今日、訓練でめっちゃ動いただろ? 疲れたはずだよな」
その言葉を聞いた瞬間、二人の表情が……
アレンは目を輝かし、ジークの耳が真っ赤になった。
「……殿下……」
「……ありがとうございます」
「……っ、べ、別に大したことじゃねぇよ……」
照れ隠しにぶっきらぼうに言う俺に、アレンが箱を開けてシュークリームを一つ取り出す。
「では、殿下からの愛情たっぷりシュークリーム、いただきます!」
ジークも静かに一つ手に取る。
そして――
一口。
「……!」
「……っ……」
二人が同時に顔をしかめる。
「……甘い」
「……甘すぎる」
「まずかった!?」
「いえ……美味しいです。ただ……」
ジークが苦笑した。
「私たちは、甘いものが……非常に苦手で」
アレンも頷きながら、必死に飲み込む。
「で、でも……殿下の『食べて欲しかった』という気持ちが……! これは……! 食べます……!」
そう言って、二人は涙目になりながらシュークリームを頬張り続けた。
アレンは口の周りクリームだらけで「んぐっ……! 幸せ……!」と呟き、ジークは無表情のまま「ぐ……っ……!」と耐えてるけど、手が微妙に震えてる。
俺、思わず吹き出してしまった。
「無理すんなって! 残していいから!!」
「いえ……これは殿下の……気持ち……!」
「残したら殿下の心が傷つく……!」
(いや、傷ついてねぇよ!! むしろ申し訳ない!!)
結局、二人は顔を真っ赤にしながら、最後の一口まで完食した。
アレンは「ふぅ……完食しました……! 殿下の愛、しっかり受け取りました……♡」と満足げに息を吐き、ジークは「……次は、できれば……甘さ控えめのものを……」と小さく呟く。
俺はベッドに突っ伏して笑い転げた。
「ははははは!! お前ら……マジでバカだな!!」
でも、胸の奥がじんわり温かくなった。
「……次は、絶対甘くないやつ買ってくるからな。約束」
アレンは目を輝かせ、ジークは静かに頷いて、二人同時に優しく微笑む。
「楽しみにしています」
「はい、殿下」
夕陽が部屋をオレンジ色に染める中、俺はメイド服のまま、護衛騎士二人に囲まれて、なんだかんだで幸せを感じていた。
――って、ちょっと待て。
俺、女体化してるんだった……。
(百合展開はどこいったんだよぉぉぉ!!)




