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第102話 森が持っていく

コルボーの血は、やっと止まりかけていた。


布は赤く染まっている。


エーグルが静かに巻き直す。


森の風は冷たい。


乾いた葉が足元でこすれる。


コルボーは木の根に腰を下ろしたまま、空を見上げていた。


「痛むか」


エメリクが聞く。


「そりゃな」


短く答える。


だが顔は笑っていた。


エアリスが言う。


「薬指よ」


コルボーは肩をすくめる。


「独身だ」


エーグルが低く言う。


「関係ない」


コルボーは顔を向ける。


「何が」


「指は結びの印だ」


エーグルは地面を指す。


「森とも、村とも、人とも」


コルボーは鼻で笑った。


「俺は木を倒すだけだ」


「それが問題だ」


エーグルの声は静かだった。


森の奥で、木がきしむ音がする。


エメリクが周囲を見る。


切り株が並んでいる。


新しい切り口。


乾いた木屑。


黒く焼けた地面。


「火はいつだ」


エーグルが答える。


「三日前」


「原因」


「分からん」


コルボーが言う。


「焚き火だろ」


エーグルは首を振る。


「乾きだ」


エメリクは地面を踏む。


土が軽い。


「湿りがない」


エーグルが言う。


「木を急いで倒すと、森は痩せる」


コルボーは立ち上がる。


ふらつく。


だが倒れない。


「森はいつも痩せてる」


「違う」


エーグルは言う。


「森は太る」


コルボーは笑う。


「太る?」


エーグルは一本の木を指す。


「葉が落ちる」


「土になる」


「虫が食う」


「水を抱く」


コルボーは黙る。


エーグルは続ける。


「急ぐと、全部消える」


風が吹く。


遠くで鳥が鳴く。


森の奥の空が少し白い。


エアリスが顔を上げる。


「煙?」


エーグルも見た。


「違う」


「霧だ」


だが匂いがする。


焦げた匂い。


エメリクは静かに言う。


「火は終わっていない」


コルボーが笑う。


「森は燃えねえ」


エーグルは答えない。


エメリクは焼けた地面を見つめる。


黒い。


灰が残っている。


そこに、新しい芽はない。


「森は奪う」


エーグルが言う。


コルボーは手を見る。


包帯が白く光る。


指が二本ない。


小指。


薬指。


「もう一本取られた」


コルボーは呟く。


エメリクは答える。


「森は計算する」


コルボーが笑う。


「森がか」


「人より正確だ」


沈黙。


エアリスが書き留める。


「文明は削る」


エメリクは森を見上げる。


枝が空を覆っている。


だがところどころ、空が広すぎる。


「削りすぎると、燃える」


遠くで乾いた音がした。


パチ。


誰も動かない。


風が少し強くなる。


葉が揺れる。


コルボーは斧を拾った。


右手で。


左手は包帯のまま。


「まだ三本ある」


エーグルは静かに言う。


「そのうち森が全部持っていく」


コルボーは森の奥を見た。


そして言った。


「その前に全部倒す」


エメリクは振り返る。


森の外の道が見える。


その先に、村がある。


家。


棚。


牛舎。


蝋燭。


全部がこの森と繋がっている。


エメリクは言う。


「次は家を見る」


エアリスが顔を上げる。


「家?」


「寒い家だ」


風が通る。


森はまだ静かだ。


だがその静けさの下で、


乾いた音が、どこかで続いていた。



森で削られたものが、

人の家に現れる。

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