エピローグ3
両親はすぐに裏社会に足を運び、闇魔法のネックレスを買い求めた。
お父さんは闇道具を扱う者たちに貯めていたお金を叩き、私を守るための手段を手に入れたのだと語ってくれた。
考えれば考えるほど、胸の痛む国のシステムだ。
両親は私を、戦争に生徒を駆り出す学園に奪われないように頑張ってくれていたんだ。
手紙の内容を全て確認するのは、魔法学園に不利になる情報を出来るだけ表に出さないため。
そして混乱を避けつつ、戦力を維持するためだろう。
もし、私の両親のように子供の魔力を隠して育てる人が増えたらどうなるだろう。
魔力が覚醒したり暴走した時、多くの人が危険にさらされる可能性がある。
だから、魔力を持つ子供たちを学園に完全隔離し、国民を守る仕組みには、ある程度は理解はできる。
でも、生徒を強制参戦させるのだけは、未だに理解出来ない。
どの国の魔法学園も大赤字だという。
そして、生徒たちは強力な兵器にもなり得る存在。
だから、戦争に参戦させて赤字を補うのは、理にかなっているのかもしれない。
学園も国も、きっと精一杯なんだろう。
これは、誰が悪いという話でもない気がする。
誰も責めれない。
けれど――
だからって無理やり両親から引き離され、泣き続ける子供たちが生まれていいわけがない。
魔力を持って生まれた子供たちが、愛されることを知らないまま育つなんて、あまりにも悲しすぎる。
でも、それを変える方法はある。
私がしている研究が成功すれば――この世は大きく変わるはずだ。
「色々教えてくれてありがとう。そろそろ行くね」
そう言って私は立ち上がる。
「また研究かい?」
お母さんのその言葉に、少し驚く。
「どうして分かったの?」
「やる気に満ちた顔をしているから」
ふふっと笑うのにつられて、私も思わず微笑んでしまう。
「シエルは名前通り、可能性の塊だね」
お父さんは嬉しそうに私を見つめる。
「え?」
「シエルって名前には、『空』の意味があるんだ。無限に可能性が広がるようにって願いを込めてつけたんだよ」
そうだったんだ……
「ありがとう。こんな素敵な名前をくれて」
そう伝えると、両親は優しい笑顔を返してくれた。
「カミヅキさんによろしくね」
「うん」
私は両親の笑顔に笑顔を返しながらリビングダイニングの襖を開ける。
すると、驚いた顔をしたノアちゃんが立っていた。
「またね、ノアちゃん」と声をかけると、パッと目を逸らしてそのまま寝室に入って行く。
その態度に、「ノア!挨拶しなさい!」とお母さんに叱られている。
タチバナ家の賑やかな声に包まれながら家を出ようとすると、背後から小さな声が聞こえた。
「また」
そんな可愛い声に驚いて振り返ると、寝室のドアの隙間からノアちゃんが少し照れくさそうにこちらを見ていた。
「うん。またね!」
そう返事をしてから、私は清々しい気持ちで空を飛び、研究所に向かった。
暫く飛ぶと、木々に囲まれた魔法学園が見えてきた。
私が5歳から20歳までの15年間を過ごした場所だ。
メイは今、Sクラスだ。
もう22歳という年になったけれど、次の試験で卒業出来そうだと、手紙にはその事が嬉しそうに書かれていた。
今からでも、メイをどこに連れて行ってあげようかと考えるだけでもワクワクしている。
そして、この前まで新米講師だったローレンは、もう次期学園長候補になっているんだそう。
しかも、同僚の婚約者がいるんだとか。
その婚約者さんは、なんと同じ魔法学校の幼なじみらしい。
名前を聞いたけど、誰だか分からなかったけど。
学園を通り過ぎると、大きな建物が建設中の工事現場が見えてきた。
あれは――『ジョウガサキ大病院』の建設地だ。
私と同時に卒業したアランは、即T大医学部に再入学し、優秀な成績で早期卒業制度を利用して卒業した。
元々飛び級を重ねていて、魔法学園に入学した頃には卒業間近だったんだとか。
今は実家のOSAKAの病院を継ぐため、後継者として特別な研修を受けている段階らしいけど、治癒魔法を使える世界唯一の医師として注目を集めている。
なのに、私に続いて大魔法使い候補にもなっているんだとか。
本当、アランには驚かされてばかりだ。
そういえば、この前、アランから手紙が届いたんだよね。
ディオンが読む前に取り上げて破り捨てたせいで、暫く冷戦状態だったけど……どんな内容だったんだろう?
そうそう。
ラブは去年、ついに春が来てしまいました。
だから元のサイズに戻し、好きな熊さんと結ばれ、今は子育てに奮闘しています。
子供が親元から巣立つ時の淋しさや嬉しさって、こういう心境なのかな?
やっと海の傍にある、研究所が見えて来た時、木の隙間から休んでいるディオンの姿が目に入り、私はそこへ降りて行った。
太い木の枝の上で横になって目を閉じているディオンに、気づかれないように、ふわっと浮いたまま覗き込む。
「またこんな所で休んでるの?」




