最後のピース7
「やっぱり私……この人を憎めない……」
俯き言うと、溜め息がふってくる。
「馬鹿だな」
「……分かってる……」
「お前はほんっとうに、馬鹿だ!」
「ちょっと!何度も言わないで!私だってそんなの分かってるの!」
「どうせそんな事だろうと思ってた」
「えっ……?」
分かってたの?
「で、お前はどうしたいんだ?」
「どうしたいって……。そんなの言ってもどうにもならな……」
と話しながら見たディオンの瞳は、私が何を言っても、まるで全て受け止めてくれるかのような強さを感じた。
「え……まさか」
そう口にしても、ディオンは顔を変えなかった。
「だって……そんな事したら……」
ディオンが追われる身になるんじゃ?
「そんなヘマするわけねぇだろ。良いから言え。俺を誰だと思ってんだ」
「ディオン……」
頼もしさに心を打たれていると、「カッコ付けが」と偽物のディオンがぼそっと呟いた。
その言葉を聞いたディオンは、「やっぱ殺す」と言って、殺気を漂わせる。
「ま、待ってディオン!」
引き止めた私に、ディオンは真面目な顔で、「冗談に決まってるだろ。殺るならお前の居ねぇ時に殺る」と言う。
私はその言葉に、思わず「い、居ない時も駄目!!」と叫んだ。
すると、ディオンは「煩せぇ」と言って続けた。
「ほら、さっさとどうしたいか言え。そうじゃねぇとさっきのが冗談じゃなくなる」
ディオンの言葉に、焦りが一気に募る。
「え!?えっと……」
慌てて辺りを確認すると、看守の姿は無かった。
本当に、こんな事をお願いしていいんだろうか。
自分の中でも、まだ色々と答えが定まっていない気がする。
けど、この願いに対しては、もう迷いがない。
「わ、私…………」
私は、強い決心を胸にディオン見上げる。
「この人を解放してあげたい!」
「はー、やっぱそうか」
ディオンは少し呆れたように軽いため息をついた。
「え?分かってたの?」
「ああ。だいたいな。でも……本当にいいんだな。何度も言うけど、前世のお前と熊野郎を消した奴なんだぞ」
その言葉に、ビクッしてから静かに頷いた。
ずっと、私を殺した犯人は、愉快犯かサイコパスで、殺すということを楽しんでいるか、なんとも思っていないんだと思っていた。
だから――
ずっと許せなかった。
でも……
そうじゃなかった……
実際は、愛する人にもう一度会いたいという強い思いで、やってしまったことだったんだ……
だからといって、それが許されるわけじゃない。
人としてのモラルも何もあったもんじゃない!
でも……被害者であるこの私が許せてしまうなら、それでいいんだ。
ラブの事だけは今でも許せない。
でも、今この人をどうにかしたところで、ラブは帰ってこないから……
「……少しの間だけど、この人と一緒に居て……楽しかった。
それに、純粋にもう1人の私の事が好きだったんだなって思うと……悪い気がしなかった……」
ディオンは、複雑な表情を浮かべながら、私の言葉に耳を傾けている。
「私、戦場での事を思い出したの。
大切な人を失うあの感覚を。
あの時の気持ちを思い出せば思い出すほど、この人のことを憎むことができなくなって……
それどころか、今からでもその平行世界に戻れないのか、もし戻れたらその時、上手く時間軸がズレて、もう一人の私が生きてる時間に戻れないのかな、って……思って……」
ため息の後に、呆れた声が聞こえる。
「お前……マジで呆れる程、お人よしの甘々だな」
そう言われて苦笑いが出る。
少し前の私も、まさか私を殺した犯人に対して、こんな複雑な感情を抱く日が来るなんて、微塵も想像していなかっただろう。
「………………でも、俺はそれ以上にクッソ甘ぇのかもな……」
その後、偽物のディオンは、ある契約書を交わした。
契約の内容は、解放された後、壊れた魔法石を修復し、できるだけ速やかにこの世界から消えること。
そして、二度とこの世界には戻らないというものだった。
契約を破れば――
死が待っているという、恐ろしい内容だった。
そうして数か月後のある日――
無事魔法石を修復した偽物ディオンは、契約通りあの魔法陣を使ってこの世界から消えた。
この世界から消える瞬間、言葉に出来ないような目で私を見て来ていたのを、今でも忘れられない。
その意味は、きっと一生分かる事はないんだろう。




