少しずつ
四月十一日、三宅彩は、賞与の支給予定を開いていた。
福原が確認した対象者と、算定する期間。
評価の確認を終えた記録が、その横にある。
三月末までに追加した分も、合わさっていた。
「こちらで、対象期間も確認できています」
福原奈央が、一覧を示した。
四月から入った瀬川は、今回の算定には入らない。
従前からいる社員について、それぞれの条件を確かめたものだった。
高瀬欣也は、算定結果と、会社業績を反映するところを見ていた。
今年の支給額は、前年までに比べて少なくなっている。
「評価の記録と合わせたところは、こちらですね」
「はい。確認が戻った分は、反映しています」
福原が答える。
三宅は支給総額を確かめ、支払予定へ置いた。
四月二十日、金曜日。
その次の週には、通常給与がある。
瀬川を迎えた分も含め、これから続く月々の支払いが並んでいた。
「この先の分も、合わせて見ています」
高瀬が、翌月以降を開いた。
毎月続いている仕事の入金と、期日を迎える支払い。
三月に受け取った大型案件の初回分も、実績へ入っている。
これから検収を受ける分は、その先にあった。
高瀬は、それをまだ受け取っていないものとして置いたまま、支払いの続くところを追った。
「賞与をこちらで支給して、そのあとも、通常の支払いを進める形ですね」
「はい。今月の確認が必要なものは、こちらへ残しています」
三宅が、照会の予定を示した。
支給するための準備と、続いている仕事を、一つずつ合わせる。
高瀬は、別に用意した案も開いた。
金目と西田の報酬を、一部戻した場合のものだった。
五月以降の欄に、継続して支払う額を入れている。
「こちらは、まだ案です。この範囲までなら、両方を入れて見られると思います」
三宅も、支払う月と、必要な確認を見た。
決まったあとに進めるものを、別に書いておく。
高瀬は、賞与の最終確認へ出す資料を揃えた。
社員へ伝える内容も、そこへ添えた。
*
十三日、金曜日。
いつもの全社報告で、今年の賞与についても説明があった。
高瀬が、今回の対象期間と、支給日を伝える。
それぞれの仕事の評価と、会社業績を合わせて算定したこと。
今年の支給額は、前年までより少なくなること。
「個別の算定内容は、それぞれに確認いただけるようにしています。不明なところがあれば、担当へ連絡してください」
岡元遥は、手元へ届いた案内を見た。
三月に上田と話した仕事の記録も、そこへつながっている。
会社業績を反映したところまで目を通し、金額を確かめた。
説明が終わると、金目が口を開いた。
「この一年、それぞれの仕事を続けていただいて、ありがとうございます。今回、賞与としてお渡しできる分を確認しました」
金目は、画面の向こうへ目を向けた。
「まだ、十分な額を出せるところまでは戻っていません。今回の内容を、確認していただければと思います」
そこから先は、通常の仕事の報告へ移った。
四月後半に顧客と確かめる予定や、各部で合わせていることが伝えられる。
岡元は、自分の担当するところを確認した。
共有が終わったあとも、しばらく、案内を開いたままにしていた。
前年に受け取った額を思い出す。
今年の欄を、もう一度見た。
入ってくるものとして、予定に足せる。
それでも、以前なら考えられた使い方を、同じようには置けなかった。
岡元は、案内を閉じた。
来週、上田へ見せる画面案を開き、確認したいところへ印を付けた。
*
二十日、金曜日。
宮原陸は、朝の仕事を始める前に、賞与の明細を開いた。
支給額と、差し引かれるもの。
最後に載っている額を見てから、入金も確かめる。
同じ数字があった。
宮原は、少し画面へ顔を近づけた。
それから、椅子へ戻る。
明細は、まだ閉じなかった。
昨年四月に入社したときの賞与は、算定する期間の外だった。
今回は、入社してからの一年が対象になっている。
先輩たちが話していたものを、自分も受け取った。
予定の時間になり、中野との通話へ入る。
「おはようございます」
「おはよう。そっち、準備できてる?」
「はい。こちら、開いてます」
宮原は、確認用の画面を出した。
岡元も、少し後から通話へ入ってきた。
別の確認を終えたところだという。
「おはようございます」
「おはようございます」
宮原が返すと、中野が、少し笑った。
「今日、声、元気やな」
「あ、はい。……入りました」
「賞与?」
「はい」
答えてから、宮原は少し照れた。
「朝、見たら、入ってたので」
「初めてやもんな」
中野が言った。
宮原が頷く。
「明細も、見ました。いつもの給料とは、別で出るんですね」
「うん。そっちも、残しといたらええよ」
「はい。見られるところ、確かめておきます」
宮原は、手元の別の画面を見た。
中野が、仕事の資料を開きながら尋ねる。
「もう一回、見てるん?」
「あ、いえ。明細の方を、閉じようと思って」
「ええよ。こっちの準備、あと少しかかるから」
宮原は、少し笑った。
「朝、開いてから、そのままでした」
「俺も、初めてのとき、何回か見たわ」
「そうなんですか」
「うん。給料とは別に入るんやな、って。分かってはいても、入ったら、見たくなるやろ」
「はい」
宮原が、今度ははっきり頷いた。
去年の春は、先輩たちが話しているのを聞いていた。
今日は、その話に自分も入っている。
画面を閉じてからも、さっき確かめた数字を、もう一度思い出した。
岡元も、自分の明細は確認していた。
先週、案内された額が、そのまま入っている。
「何か、使う予定はありますか」
岡元が尋ねると、宮原は、少し考えた。
「まだ、あんまり決めてないです。今日は、お昼、少し違うものにしようかなとは思いました」
「ええやん」
中野が笑った。
「あと、残りは、いったん置いておこうかと。入ったのを見るのが、初めてなので」
「そうですね。あとで考えても、いいですし」
岡元が答えた。
宮原は、少し笑いながら、仕事の画面へ戻った。
「今日は、ここからでよかったでしょうか」
「はい。先に、この操作を確かめましょうか」
岡元が、共有されたところを指した。
宮原は、準備していた手順を開く。
中野が、その前に残しておく内容を確かめた。
通話が終わると、岡元は、自分の予定を見た。
中野から、残っている確認について連絡があり、少しだけ話を続けた。
宮原へ次に見せるところを合わせ、記録の場所を伝える。
「宮原君、うれしそうでしたね」
岡元が言うと、中野も笑った。
「そうですね。朝から、もう見てたみたいですし」
「私も、確認はしましたけど」
「はい」
岡元は、閉じかけた明細へ目を移した。
「案内で分かっていても、実際に入ると、やっぱり、去年の分を思い出しますね」
「そうですね。俺も、ちょっと見比べました」
「増えたら、と考えてたこともあったので。今は、いったん置いておこうと思っています」
中野が頷いた。
それ以上、何に使うつもりだったかは尋ねなかった。
「俺も、今日は、そのままです。あとで、考えようかと」
「そうですね」
次に一緒に見る時間を確かめ、通話を終えた。
岡元は、机に置いた自分のメモを引き寄せた。
給与の通知を受けたあと、四月に使う分も見直していた。
今日の入金を、そこへ足す。
少ない、という思いは残っていた。
それでも、入っていなければ置けなかった額がある。
すぐには使わず、しばらく残しておくことにした。
昼休みの前、宮原から、午前に確かめた結果が届いた。
岡元は内容を読み、見たと返事をする。
そのあとに、短い連絡が来た。
『昼、決めました。いつも気になってた方にしてみます』
岡元は少し笑った。
『ゆっくり食べてきてください』
返事を送り、自分も昼の準備をする。
開いていた明細を閉じ、仕事の画面から少し離れた。
*
営業部でも、賞与の確認を終えていた。
大本恭平は、明細を見てから、今日の顧客への返事を開いた。
送る内容を読み直し、小坂と合わせた分を返す。
そのあとに、瀬川の下書きを見る時間が入っていた。
瀬川には、小坂から、今回の賞与の対象期間を説明していた。
入社したのは今月なので、その前の一年の算定には入らない。
次の年度の対象になることと、支給額はそのときの評価や会社業績をもとに決まることを、一緒に確かめている。
通話をつなぐと、瀬川は、練習用の文面を開いて待っていた。
「お疲れさまです。こちら、書き直しました」
「お疲れさまです。では、順番に見ます」
大本は、前に確かめたところから読んだ。
相手へ伝えることと、確認してから返すことが、分けられている。
「ここは、前に話した内容が入っていますね」
「はい。こちらは、まだ聞きたいところがあって」
瀬川が、横へ残した質問を示した。
二人で読み、どこまで分かっているかを合わせる。
一区切りついたところで、瀬川が言った。
「賞与の説明も、小坂さんから聞きました。去年の四月からの仕事なんですね」
「はい。僕が初めてもらったときも、一年分の資料を見てもらって、そのあとでした」
大本は、初めて支給された春を思い出した。
入社の翌年、会社でも最初の賞与が出た。
明細を見て、同期と連絡を交わしたこともあった。
「最初にもらったときは、何回か、見直しました」
「明細ですか」
「明細も、入った方も。うれしかったので」
大本が笑うと、瀬川も少し笑った。
「私は、まだ、自分が一年分の仕事をするのが、想像できないです」
「今やっているものも、記録を残しておいてください。あとで、どこまで出来るようになったか、見られますので」
「はい」
「僕の最初の評価のときも、松井さんたちと、何をしていたかを確かめました」
「自分で、全部、説明されたんですか」
「自分で書いた分もありますけど、周りの方から聞いてもらったこともありました。書き忘れていたところもあって」
大本は、瀬川がいま開いている下書きを見た。
「この分なら、初めに書いたものと、直したものが残っていますね」
「はい。前の方も、まだ置いてます」
「それで、あとから見られます」
瀬川は、保存していた最初の文面を開いた。
いまの下書きと並べ、少し黙って読んだ。
「ここ、最初は、日付しか書いてなかったです」
「そうですね。今は、相手へ確かめたいことも入っています」
「はい」
瀬川は、古い方を閉じた。
書いていたときには迷った文面も、いま並べると、何を直したかが分かった。
瀬川が、今日のメモへ書いた。
大本は、自分が先に返す連絡の時刻を確かめる。
「次に見るところは、ここですね。時間は、予定どおりで大丈夫です」
「お願いします」
通話を終え、大本は顧客の資料を開いた。
画面の隣には、瀬川へ返した下書きが残っていた。
*
二十三日、月曜日。
高瀬は、金目と西田へ、五月以降の支払予定を示した。
三宅も、支給の確認を合わせるために入っていた。
「社員の賞与は、二十日に支給を終えています。今週の給与も、こちらの予定で準備できています」
「はい。ありがとうございます」
金目が答えた。
高瀬は、表の次の月へ移る。
「そのうえで、役員報酬の一部再開について、確認したいと思います」
金目は、画面を少し大きくした。
西田も、示されたところを見る。
「五月の支給分から、返上前の月額の五割を戻す案です」
三月末の決算を経て、新しい期に入っていた。
高瀬が、その先の月も開いた。
一度だけ支払う形ではなく、今期の改定後は毎月続ける額として入っていた。
通常の給与や支払いと、同じ期間を追っている。
「先にお送りした見通しにも、この金額を入れています。賞与の支給後も、通常の支払いと合わせて確認しました」
金目は、社員へ支給した額の欄を見た。
「皆さんへの賞与も、まだ少ないところではあるんですよね」
「はい。今回の支給額と、通常の人件費、それからお二人の報酬を含めて、この先を見ています」
高瀬は、同じ表の中で示した。
会社へ入ってきた分と、これから入る予定の分。
継続して出ていくものが、その先にも並んでいる。
「後から受け取る分についても、確認する予定は残しています。もし入金の予定が動けば、その時点で支払いへの影響を合わせます」
西田が、次の月まで目を通した。
「この五割を、そのあとも払う形で、見てくれてるんやね」
「はい。今回は、その範囲で考えています」
三宅が、支給の準備へ使う資料を開いた。
「決定した内容を記録へ残して、支払いの方も合わせます。四月分までは、これまでどおり返上のままですね」
「はい。五月の分からで」
金目は頷いた。
それから、もう一度、五割というところを見た。
「……来月からは、少し、もらえるんですね」
「はい。お二人の分も、この予定で見ています」
高瀬が答えた。
三宅も、金目と西田へ顔を向ける。
「以前、お話ししていた分も、ここへ置けました」
二月の食事の席で、二人の報酬も予定へ置いておこうと話していた。
金目は、そのときのことを思い出した。
「ありがとうございます」
今度は、表を確認した礼だけではなかった。
西田も少し頭を下げた。
「助かります」
高瀬は、再開する時期と範囲を読み合わせた。
金目と西田も確認する。
会社として必要な決定と記録を整え、五月支給分から、返上前月額の五割を再開することになった。
以前の額へ全部戻す時期は、まだ決めていなかった。
それでも、来月から受け取る額が、具体的な予定へ入った。
*
一部再開のことは、その週の社内共有でも伝えられた。
小坂は連絡を読んでから、金目へ短く返事を送った。
『少しでも戻せることになって、よかったです』
金目はその返事を読み、ありがとうございます、と返した。
そこへ、翌日の顧客との確認についても連絡が入る。
小坂は、そちらの内容を開いた。
開発部でも、共有を読んだあと、通常の確認が続いていた。
岡元が、西田との通話で尋ねた。
「報酬の方は、まだ一部なんですね」
「うん。来月から、五割やね」
「そうですか。少し戻ることになったんですね」
岡元は頷き、それから、開いていた画面へ戻った。
自分の給与も、賞与も、もう確認している。
金額について思うところは、それぞれ残っていた。
「では、こちらの確認なんですけど」
「はい。見せてもらえますか」
二人は、予定していた仕事へ入った。
*
二十五日、水曜日。
四月の通常給与が支払われた。
三宅は、今回から加わった瀬川の分も含め、対象の支払いを確かめていた。
高瀬へ完了を伝え、記録を残す。
四月二十日の賞与も、今日の給与も、支払済みの方へ揃った。
「今月の分、確認できています」
「ありがとうございます。次の支払予定も、合わせます」
高瀬が開いた五月の表には、金目と西田の報酬も入っていた。
今月、支払いを終えたものとは、分けて置かれている。
三宅は、再開の記録と対応するところを確かめた。
支給額と、五月からという日付。
決まった内容を、実際の支払いへつなぐための確認を一つ終えた。
瀬川も、自分の給与明細を開いていた。
入社前に確認した条件と、今月の支給内容。
案内された見方に沿って、日付と項目を読む。
入金を確かめてから、小坂へ頼まれていた研修の記録を開いた。
今月、自分がしていたことが、日付ごとに残っている。
まだ、見てもらうところも多かった。
確認の通話へ入ると、松井が、先に質問があるか尋ねた。
「給与の方も、案内を見ながら確認できました」
「はい。内容で分からないところがあれば、福原さんへ聞いてくださいね」
「今のところは、大丈夫です」
瀬川は頷いた。
それから、少しだけ笑う。
「入ると、やっぱり、見ますね」
「初めての給料ですからね」
松井も笑った。
「大本さんが、初めて賞与をもらったとき、何回か見たとおっしゃってたので。そういう感じかと思って」
「そうですね。今日の分も、ご自身で確かめておいてください」
「はい」
瀬川は、給与の画面を閉じた。
用意していた研修の記録を共有する。
「こちらは、昨日までの分を足しました」
「ありがとうございます。では、そこから見ていきましょうか」
松井が、瀬川の開いたところを見る。
次に確かめる箇所を、一緒にたどり始めた。
金目のところへも、給与支払いの完了が届いた。
礼を返し、更新された予定を読む。
社員へ支払った賞与と給与。
その先に、来月の支払いがあった。
自分の報酬のところにも、数字が入っている。
西田との確認の終わりに、その話になった。
「三宅さんの方でも、来月の分、合わせてもらってます」
「うん。見た」
西田は、手元の予定を開いた。
「来月の分が入っとると、やっぱり、ちょっと違うな」
「はい」
金目も、同じ欄を見た。
「少し、楽しみです」
「俺もや」
西田が笑った。
金目も少し笑い、開いていた資料の端へ予定を残した。
その隣には、四月末に顧客と確かめる仕事があった。
金目は、先に読むよう頼まれていたものを開いた。
来月の報酬の予定も、閉じずに、その横へ置いておいた。
お読みいただきありがとうございます。旭月です。
今回は、宮原の初めての賞与と、瀬川の初めての給与、そして金目と西田の報酬再開の話でした。
初めて受け取った明細を、何度も見てしまう。昼に何を食べようか、少し考える。宮原のそんな嬉しさを、楽しみながら書きました。
一方で、前年の額を知っている岡元や中野には、違う受け止めもあります。受け取れて嬉しい気持ちと、少ないと感じる気持ち。その両方があってよいと思っています。
金目と西田は、五月から報酬の一部を戻すことになりました。二月の食事の席で話していたことが、ようやく具体的な予定へ入ります。
「少し、楽しみです」
会社の支払いを見続けてきた二人が、自分たちの収入も楽しみにできる。その小さな安堵を、最後に置きました。
引き続き、よろしくお願いいたします。




