見ていた仕事
三月十五日、上田拓海は、二つの課の評価資料を開いていた。
一課と二課。
対象期間は、昨年の四月一日から、今月末までだった。
面談の予定を入れた表には、本人と確かめる日と、その前に確認する相手が並んでいる。
上田が二課長になったのは、昨年十月だった。
一課も兼ねるようになったのは、先月からになる。
自分が課長として見た期間だけでは、一年分にはならなかった。
上條から、一課の資料について返事が届いた。
上田は、評価資料の中に残っていた当時の担当と合わせる。
いまの大型案件へ移る前にも、それぞれが受け持っていた仕事がある。
西田との確認では、その時期のことも聞いた。
「この分は、田村がまとめてた方にも残っとると思う」
「はい。そちらの記録と、上條さんから聞いた範囲を合わせています」
上田は、確認したところを示した。
記録に書かれた成果と、そのとき誰が何を担っていたか。
本人へ確かめたいことは、別に残している。
「こっちは、まだ聞くところがあるんやね」
「はい。記録だけだと、どこまで本人が担当したか、分からなかったので」
「うん。聞いて、合わせよう」
西田は、残っている点を一緒に見た。
年明けに自分が一課長を兼ねていた間のことも、確認する。
上田は、聞けた内容と、その根拠になる記録を資料へ戻した。
通話を終えると、翌日の岡元との面談資料を前へ出した。
岡元遥の記録には、この一年に担当した画面の設計や改修、顧客へ確かめたことが並んでいた。
その中に、一課の試験一覧を整理した仕事があった。
昨年十一月。
二時間だけ、二課から応援に入ったときのものだった。
上田は、その行から当時の記録を開いた。
試験の内容と、用意されたデータの対応。
確かめた範囲と、残った範囲。
岡元が付けた印が、そのまま残っている。
上條からは、あのあと何を進められたかという連絡をもらっていた。
岡元にも、そのとき共有している。
上田は、今回の評価に合わせて、上條にも記録の場所を確かめた。
『はい。この一覧です。データの確認が必要なところを先に拾えたので、岩田さんには処理の判断を聞く形で進められました』
返事に添えられた記録には、その後に確かめた内容もあった。
上田は、自分の方へ残していた連絡と並べた。
二課の予定も開く。
あの週は、岡元が担当する画面案を出す予定があった。
応援へ出る前に確認する時間を早め、戻ってから直すところを合わせていた。
上田は、二時間の記録だけでは閉じなかった。
その週に二課から送った資料まで開き、日付と担当を確かめる。
面談で返す内容へ、一行を足した。
*
翌十六日、岡元との通話がつながった。
「お疲れさまです」
「お疲れさまです。今日は、お願いします」
上田は、面談用の資料を共有した。
まず、岡元が書いた担当案件から確かめる。
「こちらは、先方への確認も、岡元さんに入ってもらったところですね」
「はい。画面に出す項目と、もとになる資料が合っているかを見ました」
岡元が、当時の画面案を開いた。
顧客へ尋ねた内容と、返答のあとに直したところを示す。
「最初に考えていた並びから、ここを変えています。入力するときに見る資料が違うと分かったので」
「はい。こちらの確認に入る前に、そこを合わせてもらえたんですね」
上田は、本人が受け持ったところを資料へ記した。
岡元も、途中で相談した箇所と、自分で進めた箇所を分けて伝える。
「以前、設計の仕事をもう少し増やしたいと話してもらっていましたよね。いま担当しているところは、どうですか」
岡元は、開いていた案を少し戻した。
「自分で案を作って、理由も合わせてお話しできるところは、増えたと思います」
「はい」
「ただ、作り始めてから、先に聞いておけばよかったと思うこともあります。相手の方が何を見ながら入力しているかとか」
岡元は、さっき示した項目を指した。
「ここも、先に分かっていたら、最初から別の並びで出せたと思うので」
「次は、案を作る前の確認から入れると、よさそうですか」
「はい。全部の打ち合わせに出る必要はないと思いますけど、画面を考えるところでは、直接聞けると助かります」
上田は、これから受け持つ仕事の欄を開いた。
いま進めているものと、次に担当を合わせるものを見比べる。
「分かりました。次の担当を合わせるとき、確認に入る時間も相談させてください」
「お願いします」
岡元が頷いた。
上田は、本人がやってみたいことと、今回確かめた仕事の範囲を、隣に残した。
担当案件をひととおり確かめてから、上田は十一月の記録を開いた。
「それから、一課の応援のところです」
「はい。二時間、試験の一覧を見た分ですね」
岡元の声に、思い出したという調子があった。
「上條さんから、そのあと進められたという連絡をもらったのは、覚えていますか」
「はい。共有していただいたので」
「今回、評価の資料へ合わせるので、その記録も確かめました」
上田は、当時の一覧と、その後の確認を並べた。
岡元が、自分の付けた印を見る。
「ここ、取り消した場合のデータが、見つからなかったところです」
「はい。使うものが揃っていないところと、処理の判断を聞きたいところを、分けて返してくれましたよね」
「一覧を見た範囲では、そうです。ただ、処理そのものの判断は、していないので」
「そこは、分けて書いています」
上田は、評価資料の該当するところを示した。
岡元が確かめたのは、決まっている使い方と、試験に使うものの対応だった。
その結果を受けて、上條が先に顧客へ確認したものがある。
木曜日、岩田へ判断を聞くために整理された項目もあった。
「岡元さんに見てもらったところを、最初から全部読み直さずに、その先へ進めたと聞いています」
「はい」
岡元は、少し画面へ顔を寄せた。
「あのときは、最後の方まで見られなくて。見たところだけ返したので」
「残っているところも、分かるようにしてくれていましたし」
「そこは、次に見る方が困ると思ったので、残しました」
上田は頷いた。
当時、どこまで見たかを書いて送ってきた資料が、いまも開いている。
「その渡し方も、今回、記録に残しておきたいと思っています」
岡元は、自分で書いた短い実績の欄を見た。
その隣には、上田が確かめた結果が、書き足されていた。
「それと、こちらの画面案もです」
上田が二課の資料を開いた。
応援から戻ったあと、岡元が直していたものだった。
「一課へ返したあと、こっちの確認も合わせて、予定どおり先方へ出せました。そちらも、同じ週の仕事として見ています」
「ああ……」
岡元は、少し間を置いた。
「そこまで、見ていただいてたんですね」
「はい。あのときの応援は、こちらの仕事も合わせてお願いしたものだったので」
「助かったとは言っていただけて、よかったと思ってましたけど。二課の方と、両方で書いていただけるとは思っていませんでした」
上田は、資料へ目を戻した。
二時間という長さの横に、確かめた内容と、次に進んだ仕事がある。
その下には、戻ってから送った画面案の記録もあった。
「どちらも、岡元さんに進めてもらったところですから」
「ありがとうございます」
岡元は、そう言ってから、当時の一覧へ戻った。
「次に同じように渡すなら、見ていないところの書き方は、もう少し変えたいです」
「どのあたりですか」
「ここです。手をつけていないものと、見たけれど判断を聞きたいものが、ぱっと見たとき、似ているので」
岡元が、二つの印を示した。
「説明すれば分かるんですけど、一覧だけで見ると、先にどちらを開くか、迷うかもしれません」
「なるほど。渡すときの一言も、そこに合わせられるとよさそうですね」
「はい。次に別の方へお願いするときにも、そこは気をつけたいと思っています」
上田は、今後の仕事で確かめたいところへ書き足した。
岡元も、自分の記録へ残す。
面談の最後に、上田は三月末までに追加で確認するものを合わせた。
いま進めている仕事も、その対象に入っている。
「その分は、来週の確認が終わってから、記録を足します」
「お願いします。こちらも、合わせて見ます」
岡元は頷いた。
通話を終える前に、もう一度、書き足された評価の欄へ目を向けた。
自分の手元にも、その内容を残してから、開いていた作業へ戻った。
*
週が明け、宮原陸との面談の日になった。
宮原は、自分で書いた実績の資料を開いていた。
上田が通話へ入ると、少し背筋を伸ばした。
「お願いします」
「こちらこそ。準備、ありがとうございます」
上田は、宮原が書いたところから順に聞いた。
入社してから担当した、小さな修正や確認。
中野や岡元と一緒に進めた仕事が並んでいる。
「こちらは、どこを自分で見ましたか」
「操作した結果と、手順に書いてあるところを合わせました。ただ、その前に、どこを見ればいいかは、中野さんに教えていただいていて」
「はい」
宮原は、次の行へ目を移した。
「こっちも、岡元さんに確認してもらってます。まだ、教えていただいてることが多いので」
上田は、二人から聞いた担当の範囲と合わせた。
宮原が、どこから始め、何を確かめてから相談したか。
最近の記録には、その順番が残っていた。
「この分、少し開いてもらっていいですか」
「はい」
宮原が、操作を確かめた記録を出した。
どこまで入力してから画面を戻ったか。
そのあとに何が残り、何が消えたか。
試した条件ごとに、結果を書いている。
「これは、最初に一つ試してから、こっちの条件を足したんですね」
「はい。同じ戻り方でも、入力したところが違ってたので。中野さんへ聞いたら、そこを合わせてから、もう一回見ようと言われて」
「そのあとは、こちらの分を、自分で確かめた」
「はい。順番は、先に見てもらいました」
上田は、最初の相談と、そのあとに残された結果を見た。
宮原が確かめた内容を、本人と一つずつ合わせる。
「初めの頃は、どこを見たらいいかも、一緒に開いていましたよね」
「はい。何が違うのか、自分でも分からないことが多くて」
「この記録だと、自分で試した条件と、その結果を分けて持ってこられています。次に見る人も、ここから話を続けられます」
宮原は、画面へ視線を戻した。
「ただ、これが正しい動きなのかは、まだ、聞かないと分からないです」
「そこは、確認が要りますね。試して分かったことと、判断を聞きたいことを、分けて出せると助かります」
「はい」
上田が、次の記録へ移ろうとしたとき、宮原がもう一度、最初の方へ戻した。
「……でも、これは、もう一回やるなら、自分で確かめられます」
「この条件を合わせるところから?」
「はい。試す前に、どこまで入力したかを残して。それから、戻ったあとの結果を見て」
宮原は、自分の書いた順番を指した。
上田は、本人が話し終えるのを待った。
「そこは、出来るようになったところとして、残しておきましょう」
「はい」
宮原が、少し笑った。
実績の資料へ戻り、さっきは説明しきれなかった行へ、一文を足した。
上田は、次に覚えていくことも合わせた。
試す順を考えるとき、どの手順や記録を先に見るか。
中野たちと確認するところを残して、今の仕事で使う予定へつなぐ。
「もう少し、自分で書けそうです」
宮原が、資料を見ながら言った。
「今日話したところは、足しておいてください。違っているところがあれば、こちらでも確かめます」
「分かりました」
宮原は、面談を終えたあとも、その資料を少し開いていた。
教えてもらった人の名前の横へ、自分で確かめた範囲を書き足す。
それから、午後に中野へ見せる予定の画面を開いた。
*
営業部でも、一年の仕事を確かめていた。
小坂千尋は、大本恭平の資料から、年末の大型案件を開いた。
正式に発注をもらった日と、その前後の確認が並んでいる。
「こちらは、受注までに伺ったことですね。そのあとの確認も、同じところへ残してありますか」
「はい。年明けの分は、下へ続けています」
大本が、回答の一覧を開いた。
顧客から返事をもらった日と、開発側へ渡した内容。
その先に、次の確認が並んでいる。
「この番号の使い方は、先方から回答をもらって、上條さんへ返しています」
「拠点ごとに番号を付けている、と分かったときですね」
「はい。いまの番号で問い合わせたいというお話もあったので、そちらも合わせて伝えました」
小坂は、当時の共有を開いた。
回答を受けて、上條と石橋が次に確かめるものを合わせていた。
「ここは、返事を受け取ったことと、そのあと何を進められたかを、つないで書いておきましょう」
「開発側の確認まで、ですか」
「大本君が判断したように書く必要はありません。どういう回答を、誰へ渡したか。その結果、先へ進んだところまで分かれば」
大本は、記録の続きを見た。
「はい。上條さんから返ってきたところも、合わせます」
小坂は、自分が契約や条件を判断した箇所も分けて確かめた。
大本が顧客へ確かめ、返答を整理した仕事を、その中へ混ぜてしまわないようにする。
いま進んでいる実装の確認では、別の返答を待っていた。
面談を終えたあと、大本はその予定を見た。
今日中に確かめると伝えていたものだった。
先方への連絡を開き、送る内容を読み直した。
*
業務部の資料には、毎月、繰り返している仕事が並んでいた。
高瀬欣也は、三宅彩と、その中の記録を確かめていた。
請求を出した日。
入金を確認した日。
給与や、期日を迎えた支払いを進めた日。
「こちらは、三宅さんが照合して、相違があったところを先に確かめてもらった分ですね」
「はい。先方への照会は、こちらから連絡しています。回答が来てから、一覧を直しました」
三宅が、対象の記録を開いた。
高瀬が資金の見通しへ反映したものと、その前に三宅が確かめたものを分けて見ていく。
「ここまでの確認も、今回の資料へ残してください」
「はい。日付のところへ、記録をつなぎます」
三宅は、自分の担当した箇所を確かめた。
いまも、今月の支払いの準備が進んでいる。
面談の資料と、そのための一覧を、並べて開いていた。
福原奈央との確認では、来月迎える新人の準備も話題になった。
「入社前の案内は、先方へ送れています。追加で確かめたいところも、一度、返事をいただいています」
福原が、連絡の記録を示した。
危機が起きる前に内定していた、一人だった。
必要な手続きと、これから伝える案内を分けて残している。
「この間も、問い合わせが来たときには、こちらで確認してから返してもらっていましたね」
「はい。自分のところだけで答えられないものは、内容を合わせてから返しています」
高瀬が確認したものと、福原が相手へ伝えたもの。
途中で連絡が途切れないよう、次に返す予定も入っていた。
「来月の準備と合わせて、今月末までに済んだところを追加してください」
「分かりました」
福原は、評価資料へ残す記録を確かめてから、入社前の案内へ戻った。
まだ確認するところがある。
高瀬へ尋ねる項目をまとめ、次に送る文面の横へ置いた。
*
二十三日、金曜日。
上田は、面談で確かめた内容を、評価資料へ戻していた。
本人から聞いて補ったところと、関係者の記録に戻って確認したところ。
月末までに追加する実績には、まだ印が残っている。
西田と合わせる時間に、上田は岡元の資料も開いた。
「岡元さんの分は、上條さんの記録とも合わせてあります」
「うん。どういう仕事をしたか、分かるね」
西田が、続く欄を読んだ。
「本人とは、ここまで話した?」
「はい。次に別の方へ渡すとき、書き方を変えたいところも聞いています」
「そっか。こっちの分は、月末の確認が残っとるんやね」
「はい。そこは、終わった内容を足してから、もう一度合わせたいです」
西田は頷いた。
ほかの社員についても、上田が返そうとしている評価と、その根拠を確かめる。
会社業績を確認して決める賞与の支給額は、まだ先だった。
三月末までの実績と、会社全体の数字を合わせ、四月に最終確認する。
今回、面談で伝えたことも、記録へ残っている。
担当した仕事と、その結果。
本人へ何を返し、次に何を確かめるか。
確認を終えると、上田は、今日の案件の一覧へ戻った。
岡元から連絡が届いていた。
『こちらの確認、終わりました。見た範囲は一覧へ残しています。先方へ確かめたいところが一つあるので、内容を見ていただけますか』
上田は、添えられた資料を開いた。
どこを確かめ、どこから先がまだなのか、分かるようになっている。
尋ねたいことの横には、実際の画面もあった。
内容を読み、通話で話せる時間を返す。
岡元からは、その時間で大丈夫だと返事が来た。
岡元は、確認してもらうところを残し、次に進められる作業を開いていた。
上田も、自分が先に返す連絡を確かめる。
予定の時刻になると、通話がつながった。
「お疲れさまです。こちらの画面なんですけど」
岡元が、資料を共有した。
上田は、そこへ並んだ項目を見た。
「はい。まず、どの資料を見て入力するところか、合わせましょうか」
「お願いします」
二人は、顧客から届いていた資料を開いた。
お読みいただきありがとうございます。旭月です。
今回は、一年の仕事を振り返る評価面談の回でした。
岡元が一課を手伝った二時間。そのときに返した資料がどう役立ち、戻ってからの仕事もどう進んだかを、上田が確かめていました。当時のお礼に加えて、年度の評価にも具体的に残る。岡元の少し驚いた返事を書けて、嬉しく思います。
宮原は、教えてもらったことを書いているうちに、自分で確かめられるようになったことにも気づきました。一年目の本人にとって、そんな発見もあってほしいと思ったところです。
営業にも業務にも、続けてきた仕事があります。会社が大きく揺れた一年の中に、それぞれが何をしていたかを残せたらと思います。
面談のあとも、いつもの仕事は続きます。その中で交わす言葉が、少し嬉しく聞こえる回になっていれば幸いです。
引き続き、よろしくお願いいたします。




