冬支度
窓の外の風が、少しだけ冷たくなってきていた。
エドワルドは机の上の書類から顔を上げる。
「……そろそろか」
小さく呟いた。
冬支度を始める時期だ。
曙町の方は問題ない。
あちらは元々人が住んでいた町だ。
田畑もあり、貯蔵庫もある。
収穫も順調に進んでいると報告が来ている。
だが――ここは違う。
「……まだ不安が残るな」
元領主館の町。
ここは一度完全に崩壊した場所だ。
人もいなかった。
備蓄も無かった。
つまり――ゼロからの出発だ。
エドワルドは机の上の紙をめくる。
備蓄量の報告。穀物。豆。
乾燥肉。干し野菜。
「……」
量は確実に増えている。
それでも安心とは言えない。
「ここはゼロからの備蓄だ」
エドワルドは椅子に深く座り直した。
「かなりの量が必要になる」
人の数も増えている。
難民。商人。兵。
町は確実に大きくなっている。
それだけ消費も増える。
「……」
エドワルドは地図を見た。
町の周辺。畑。森。小川。
「近くに、そこそこの川があればな」
魚。
それだけでも、食料の幅は広がる。
干物にも出来る。保存も利く。
だが――「……無い」
この辺りにあるのは、小さな川ばかりだ。
いや、正確には小川だ。
水は綺麗だが、幅が狭い。
流れも弱い。
「小さな魚は居るだろうが……」
エドワルドは苦笑した。
「腹の足しにはならんか」
兵が腹いっぱい食べられる量ではない。
町の食料源としては弱い。
「……なら」
エドワルドは顎に手を当てた。
「山か」
この町の背後には森と山がある。
山の幸。木の実。山菜。獣。
「農民に指示して、山の幸を集めさせるか」
どれだけ採れるかは分からない。
季節にもよるし、当たり外れもある。
それでも――
「無いよりはマシか」
エドワルドは小さく頷いた。
冬は長い。食料が少しでも多い方がいい。
それにこの辺りの山の植物の知識も最近集め始めている。
もしかすると使えるものが見つかるかもしれない。
「……」
エドワルドはふと考えた。
山。森。木の実。狩り。
「俺も行ってみたいが……」
ぽつりと呟く。机の前に座っているより、よほど気が晴れそうだ。
領主が山を歩くのをそれを周囲が許すか。
レオンの顔が浮かぶ。
「……」
エドワルドは苦笑した。
「許されるか?」
おそらく。難しいだろう。
少しだけ何も考えず外へ出たい。
そんな気分だった。




