積まれた知恵
「……早いな」
エドワルドは机の上に積まれた書類を見て、思わずそう呟いた。
文官達に農民の聞き取りを指示してから、まだそれほど時間は経っていない。
机の上には既に何枚もの紙が並んでいる。
名前の書かれた作物。
山に生える草。
乾燥させて保存できる葉。
根を食べる植物。
簡単な育て方。
食べ方。
農民の口伝えの知識が、次々と書き留められていた。
「……こんなに集まったのか」
エドワルドは一枚手に取る。
書かれているのは、山の斜面に生える小さな葉草。
煮ると苦味が抜けるらしい。
次の紙には、乾燥させて保存する豆。
また次には、春先だけ芽を出す山菜。
エドワルドはゆっくりと目を通していった。
「さて……どんなものがあるか」
紙をめくる。めくる。
さらにめくる。
しばらくして、椅子の背にもたれかかった。
「……ふぅ」
目立つものは、今のところ無い。
ヤコンほどの発見は、そうそうあるものではないらしい。
「まあ……」
エドワルドは苦笑した。
「都合よく、次々出てくるわけもないか」
それでも悪くない。
農民達が知っている事が、こうして形になる。
それだけでも意味はある。
「このまま続けさせるか」
時間をかければ、何か見つかるかもしれない。
それに――エドワルドは窓の外を見た。
最近はずっと書類ばかりだった。
町の整備。兵の配置。配給。
名札。難民。報告。決断。
毎日、机に向かう時間ばかりだった。
だが今回は違う。
畑を見て農民と話し作物を知る。
「……やはり」
エドワルドは小さく笑った。
「たまには、こういうのも気が晴れるな」
扉の向こうで小さな声がした。
「レオン様?」
若い兵の声だ。
「どうしました?」
扉の前で足音が止まる。
レオンが低く答えた。
「エドワルド様はお疲れのようだ」
兵が言う。
「ですが、報告が……」
レオンは静かに言った。
「急ぎか?」
「いえ……」
「なら少し待て」
兵は少し迷った様子だったが、やがて答えた。
「……分かりました」
レオンは続けた。
「少しの間、休ませてやれ」
「はい」
足音が遠ざかる。
部屋の中では、エドワルドがまだ書類に目を通していた。
だがその表情は、どこか少しだけ穏やかだった。




