捻くれ者の戦い方
森の奥。
擬装村のさらに奥。
急造の野戦砦。
丸太柵。土塁。浅い堀。クロスボウ台。
見た目は粗末。
だが——
「……上等だ」
クラウスは砦の上から敵本隊を眺めていた。
黒い。とにかく黒い。
森の切れ目から溢れ出る兵の列。
旗。
槍。
盾。
数が、違う。
「八百……いや、千近いな」
副官が喉を鳴らす。
「笑えませんよ、これ」
「笑うしかないだろ」
クラウスは鼻で笑った。
「正面からやったら三分で終わる」
「だから砦作ったんだ」
軽く木柵を蹴る。
ゴン、と鈍い音。
「守る気ゼロの見た目で、守る気満々」
「最高だろ?」
砦の中に兵は百五十ほど。
民兵混じり。国境兵。クロスボウ隊。
正規軍とは言えない。
だが。
「全員、配置つけ!」
怒鳴る。
「クロスボウ第一列、膝立ち!」
「第二列、装填待機!」
「槍兵は柵の後ろ!」
「絶対に外出るな! 死ぬぞ!」
声が通る。
不思議と兵の顔に怯えは少ない。
理由は単純。
「逃げ場が無い」からだ。
逃げても森。追われて終わり。
なら。
ここで戦うしかない。
クラウスは小さく呟く。
「……これが籠城の強みだ」
ドドドドドド……!!
地鳴り。
敵歩兵が前進。
「来るぞ!」
副官が叫ぶ。
「……撃つな」
クラウスが手を上げる。
兵がざわつく。
「まだだ」
「まだ近付け」
五十歩。
三十歩。
二十歩。
敵の顔が見える距離。
汗。
怒号。
殺意。
「……今だ」
手を振り下ろす。
「撃てぇぇぇ!!」
バシュッ!!
一斉発射。重い音。
「ぐぁっ!?」
「鎧抜かれた!?」
クロスボウの矢が容赦なく貫く。
最前列が一気に崩れる。
「装填!」
「第二列、撃て!」
バシュッ!!
また倒れる。
敵の足が止まる。
「なんだこの威力!?」
「弓じゃねぇ!」
混乱。そこへ。
「槍構え!」
柵を越えようとした兵を。
ズブッ。
「ぎゃあああ!」
刺す。押す。落とす。
徹底的に。
「柵越える奴だけ殺せ!」
「無駄撃ちすんな!」
「矢は命より貴重だ!」
怒鳴り散らす。
副官が呆れる。
「領主の息子とは思えない台詞ですね」
「戦場で綺麗事言う奴は死ぬんだよ」
即答。
「押せ押せぇぇ!!」
数で押し潰そうとする敵。
だが。堀に落ち柵に引っかかり、上から矢。
進めない。
「くっ……」
クラウスがニヤつく。
「効いてるな」
「ええ」
副官が息を吐く。
「想定以上に持ってます」
「想定内だ」
にやり。
「俺が作ったんだぞ?」
遠くで音。
ゴロゴロ……
「……あ?」
嫌な音。
「……投石機か」
敵後方。巨大な影。
「マジかよ……」
副官が青ざめる。
「本気じゃないですか」
「……くそ」
クラウスが吐き捨てる。
「野戦砦相手に投石機出すか普通」
次の瞬間。
ドゴォォン!!
石弾が着弾。
土塁が崩れる。
「ぐあっ!」
兵が吹き飛ぶ。
「医療班!」
叫ぶ。
二発目。
三発目。
「……流石に痛いな」
クラウスは空を見る。
「ここまでか?」
いや、違う。目的を思い出す。
「……持てばいい」
副官を見る。
「勝たなくていい。時間だけ稼げ。弟が来る」
副官が笑う。
「信頼してますな」
「あいつは面倒な男だ」
苦笑。
「絶対来る」
夕暮れになっても
敵は攻めきれず。
砦は壊れきらず。
死体が積み上がり血の匂い。
「……まだ生きてるか?」
「はい」
「半分以上残ってます」
「上出来だ」
クラウスは剣を地面に刺した。
「これが俺の仕事だ」
「削る。止める。嫌がらせする。格好悪いだろ?」
副官が笑う。
「最高に格好いいですよ」
「そうか?」
夕日を見る。
赤い。
「……エドワルド」
小さく呟く。
「早く来い。兄ちゃん、そろそろ限界だぞ」
その時、遠く。
森の向こうに別の土煙。
別の旗。
「……?」
目を細める。
「……あれは」
味方の旗。グレイスの紋章。
「……はは」
思わず笑う。
「来やがった」
剣を抜く。
「よし」
振り返る。
「全員!」
声が響く。
「もう一踏ん張りだ!!弟が来たぞ!!」
兵の目が変わる。
絶望が希望に変わる。
砦に、再び活気が戻った。




