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反乱で処刑された若き領主、気づいたら過去に戻っていました。  作者:


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権力側がそれを認識する

異変に、最初に気づいたのは数字ではなかった。


人の動きだった。


「最近……畑が静かだな」


そう呟いたのは、領内を巡回していた代官だった。


例年この時期は、小さな不満が必ず上がる。

肥料が足りない。

種が悪い。

今年は先が見えない。


だが今年は、それがない。


報告書は、平坦だった。


「不満、特になし」

「要望、特になし」


それ自体が、違和感だった。



代官は、倉の番人を呼び出した。


「今年の出入りはどうだ」


「はい。特に変わりは……」


番人は言いかけて、言葉を止めた。


「いや、正確には――」


「慌てて出す者が減りました」


「減った?」


「ええ。去年までは、少し貯めるとすぐ売る農家が多かったのですが」


「今年は、様子を見る者が多いです」


代官は、眉をひそめた。


売らない。

慌てない。

溜め込んでいるわけでもない。


「理由は?」


「……理由を聞くと、皆、似たようなことを言います」



畑を回った。


農家たちは、以前よりも落ち着いていた。


「今年はどうだ」


「ええ、悪くありません」


「作柄は?」


「まあ……去年よりは」


誰も、声を荒げない。

誰も、悲観しない。


代官は、気づく。


彼らは、「今年」だけを見ていない。


「先を考えている」


それは、領内では珍しい空気だった。



話の端々に、同じ名前が出てくる。


「坊ちゃまがな」


「エドワルド様が、言ってたんだが」


「直接言われたわけじゃないがよ」


命令はない。

指示もない。


だが、


「こうしたらどうなるか」


「これを使うと、どう違うか」


そういう“考え方”だけが、伝わっている。


「……厄介だな」


代官は、独り言ちた。


抑え込めない。

違反でもない。

むしろ、成果は出ている。



評議の席で、話題に上がった。


「最近、農家が落ち着いているようです」


伯爵は、書類から目を上げた。


「問題は?」


「ありません。それが、問題です」


一瞬の沈黙。


「坊ちゃまの影響だろう、と」


誰かが口にする。


伯爵は、すぐには否定しなかった。


「数字は?」


「急な増減はなし」


「ただし、倉の残量は安定しています」


伯爵は、ゆっくりと息を吐いた。


「……前に出ていないな」


誰もが、その言葉の意味を理解した。


前に出ない。

命じない。

だが、結果だけは残る。



結論は、穏やかなものだった。


「様子を見る」


「止める理由はない」


「だが、見逃すな」


領内の権力側は、エドワルドという少年を、“子供”から、“無視できない存在”へと、

静かに認識を改めた。


まだ、評価でも警戒でもない。


だが――

確かに、目は向けられ始めていた。


そして当の本人は、そのことを知らないまま、今日も畑で土を触っている。


それで十分だと、まだ、この領地は思っていた。

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